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ファーネッコ先生が行く 離島の薬局を訪ねる旅 島根県隠岐の島

旅人 ファーネッコ先生

自然とグルメを満喫! でも、一番の思い出は「人のあたたかさ」でした。

隠岐は島前と島後からなり、本土の境港または七類港から高速船で約1時間、フェリーで約2時間30分の位置にあります。隠岐空港には大阪の伊丹空港、出雲縁結び空港からの便があります。島前は3つの島に分かれており、西ノ島町(人口3600人)、海士町(人口2500人)、知夫村(人口750人)、島後は隠岐の島町(人口17000人)となっています。

島前の西側は高さ200~300m級の断崖絶壁が続く雄大な自然が魅力。海士町は後鳥羽上皇の、西ノ島町は後醍醐天皇や文覚上人の史跡や伝説が残ります。
流刑になった後鳥羽上皇を慰めるために始まったとされる「牛突き」も隠岐の名物。体重が1トン近くもある牛がぶつかり合う姿は、手に汗握る大迫力です。
周囲にエメラルドグリーンの海が広がる隠岐では、海水浴、キャンプ、ダイビング、シーカヤック、釣りなどマリンレジャーを堪能することができます。人気の「隠岐の島ウルトラマラソン」は、島を一周するアップダウンの激しいコースですが、島民のあったかい応援で完走率は92%(第9回大会50kmの部)を誇ります。

3万年前にはすでに人が住んでいた隠岐の島。石器時代は黒曜石の産地として、江戸時代には北前船の風待ち港として栄えてきました。こうした人の営みと、独自の生態系、大地の成り立ちが世界的に見ても貴重なものだと評価され、平成25年に「世界ジオパーク」に認定されました。

大阪伊丹空港から飛行機でわずか55分、これ以上ない晴天に恵まれた、隠岐空港に到着。空港では800年以上の歴史を持つ牛突きの横綱がお出迎え。そのあまりの大きさにびっくり! ちなみに隠岐空港は8月1日に開港50周年を迎え、それを記念して「隠岐世界ジオパーク空港」という愛称がつけられたとか。
空港からタクシーで島後の中心街へ。「ポモドーロ」というお店でパスタをいただきながら、お店の方から島の情報収集。最近は島外からIターンでやってくる若い人も増えてきたそう。そういえばこのお店も隠岐の島ガールで賑わってたよ。

ポモドーロさんで教えてもらった近くの雑貨屋さんへ。「京見屋分店」という不思議な名前は「元々あった京見屋さんがなくなったけど、ウチの名前はそのまんま。島の人からはブンテンさんと呼ばれています」とのこと。店内にはすてきな陶器や雑貨がいっぱいで、ついつい時間を忘れてしまいそう。

ここは島の若い人や、Ⅰターンでやって来た人のたまり場みたいになっている。ブンテンさんのお仲間のひとりが、ゲストハウス「佃屋」のオーナー。佃屋は築120年を超える古民家で、隠岐の島を暮らすように遊べる体験型のゲストハウス。昔暮らしを体験したり、隠岐の郷土料理を食べたり…、都会では味わえない経験ができる。佃屋のオーナーもすっかり隠岐の島に魅了されて、島民になったⅠターン組。しなやかでパワフルな女性だ。

  • 隠岐空港

  • 横綱牛と記念撮影

今回は行けなかったけど、五箇にある「L aCigale Café(ラ・シガル・カフェ)」は、農園や牧場を営む姉妹が経営する素敵なカフェ。のどかな田園風景の中で、自家栽培の野菜や黒毛和牛肉を使ったランチや、手づくりのパン・ケーキが味わえる。24時間営業のコンビニも、スタバもないけど、隠岐の島にしかない魅力にふれることができた。何より人のつながりがあたたかい島だと感じた。

  • 京見屋分店で見つけた隠岐のおみやげ

  • 隠岐の若い人が集まる京見屋分店にて

京見屋分店でおしゃべりを楽しんだ後、隠岐の開拓にかかわった玉若酢命たまわかすのみことを祀る神社へ。隠岐最古の神社の境内には、樹齢2000年と推定される巨大な「八百杉やおすぎ」がそびえていた。今の福井県から来た八百比丘尼が植え、800年後に再び訪れると言ったという伝説があるパワースポットとして密かな人気。八百杉のパワーをもらった後は、島後の薬局を訪問。ここは隠岐病院のすぐ前にあり、たくさんの患者さまが訪れる。午前中の調剤室は目の回るような忙しさ。意外にも若いスタッフがたくさん働いていたよ。

隠岐そば、さざえカレー、岩ガキ、隠岐牛、さざえ丼、寒シマメ漬け丼、隠岐ガニなど…、隠岐の島はグルメもいろいろ楽しめる。ホテルでの夕食は隠岐の新鮮な海の幸がたっぷり。サザエ、イカの刺身、隠岐牛のカルパッチョなど、食べきれないほどの料理が運ばれてきた。シメは焼いた握り飯を茶漬けにした焼きめし茶漬け。お腹いっぱい、ごちそうさま!

  • 玉若酢命神社の本殿

  • 八百杉のパワーをいただく

2日目は船で島前に移動。西ノ島にあるもうひとつの薬局を訪問。こちらは島前で唯一の薬局で、すべての住民の健康を支えている。Iターンで大阪からやってきた山本さんは、すっかり島が気に入った様子。

有意義なお話をうかがった後は、薬局の方の計らいで国賀海岸くにがかいがんを海から楽しむ。国賀海岸は隠岐を代表する景勝地。日本海の荒波に削られた変化に富んだ風景は、ここでしか楽しめない。特に海面から257mの高さで垂直にそそり立っている摩天崖まてんがいは絶景!70階建てのビルに相当するんだとか。船で行く「明暗あけくれの岩屋」は、波の状況によって滅多に通り抜けられないので、通り抜けられれば金運UPまちがいなし。最近になって発見された「ねずみ男岩」「ぬりかべ岩」など、見あきることがない。

  • 摩天崖

  • 観光遊覧船からの眺め

1泊2日の隠岐の島の旅もいよいよ終わり。すばらしい風景や、美味しいグルメ、あたたかくて優しい人たちと出会った隠岐の島に別れを告げる。本土まではフェリーで約3時間、船旅はなぜか郷愁をそそられる。「またいつか必ず来るよ」と心に誓った旅だった。

  • フェリーくにが

  • 隠岐の島から本土へ

フォトギャラリー

左上/真っ赤な夕日が岩の先に重なり、あかりが灯ったように見えるロマンチックな「ローソク島」。
左下/国賀海岸の断崖の上に広がる草原では牛や馬が放牧され、大断崖・奇岩の光景とは一変する、何とものどかな雰囲気。
中上/高さ40mの岩壁に2本の滝が流れ落ちる壇鏡の滝。名水百選にも選ばれ、古くから特別な水とされてきた。この水を飲めば恋愛運や仕事運がアップするかも。
中下/海のきれいな隠岐ではマリンスポーツが盛ん。シーカヤック、ダイビングなどで自然を満喫できる。
右下/隠岐の特産・さざえのカタチの「さざえ最中」。サクサクの皮に藻塩つぶあんとお餅入り。

薬局長の宇野さんにお話をうかがいました。

調剤室

宇野さん

隠岐病院

島後には、かつて4つの村があったので各地区に診療所があります。住民の方々は普段はそこで受診していて、必要があると隠岐病院に来るというパターンが多いですね。3年前に隠岐病院が建て替えられ、ドクターヘリも停まれる近代的な病院になりました。総合病院の門前薬局ということで、毎日忙しく、分包器などをフル活用し乗り切っていますが、薬剤師不足は否めません。人手が少ないため本来やりたい在宅医療にまで手がまわらない状況です。

ここでは私の長男と弟も薬剤師として一緒に働いています。長男はずっと柔道をしていたのですが、薬大に行くと言いだして…、うれしかったですね。今は隠岐古典相撲の力士としても頑張っています。おき薬局がオープンして11年。若いスタッフが多く働いてくれています。忙しくてなかなかサポートもできませんが、ここで経験を積めばどこへ行っても、恥ずかしくない薬剤師になれますよ。私はこの島で生まれたので海が大好き。休日は畑作りもあって忙しくしています。4月と8月には、医薬品メーカーの方々を招いて、自分で獲ってきたさざえなどのバーベキューでもてなしています。

取材協力

株式会社エスマイル スイングおき薬局
島根県隠岐郡隠岐の島町城北町355-3
TEL (08512)3 -0080

島前に1軒しかない薬局の役割や、やりがいについてお聞きしました。

海がしけると船が2~3日来ないので、最小限の薬は備蓄しています。750種類ほどありますが、同じ症状に使われる薬は何種類も用意せず、基本的な薬で対応しています。病院にも薬局にある薬の一覧をお渡ししています。また「スイング定例会」と称して2~3ヵ月に1回、ミーティングをしています。
医師は各島の診療所におられますが、島前の薬局はココだけ。薬剤師はウチに2名と、島前病院に1名います。ここではいろんな処方せんが見られます。

本土との違いは、名前と顔が一致する人しか来ないこと。患者さまの背景がよく見えるので、より親身になれます。島前病院の院長は、僻地医療の権威として有名な方。パワフルな先生をを慕って、全国から若いドクターたちがやってきます。
薬剤師の仕事を理解してくれる院長はチーム医療の中で、「もっと薬剤師にも活躍して欲しい」と、疑義照会にも積極的かつ的確に答えてくださいます

島にはケースワークの勉強会などもあり、すぐに在宅医療をスタートできる体制が整っています。在宅に興味のある方には最適な環境です。不便なことをあげれば、キリがありませんが「住めば都」です。社宅は3LDK、スーパーもありますし、野菜や魚は近所の人が持ってきてくれます。必要なものはネットで買えますよ。

OTC医薬品が所狭しと並ぶ

藤田さん(左)と山本さん(右)

藤田収さん

製薬会社のMR、調剤薬局やドラッグストアなど、いろいろな職場を経験して、5年前に島へ戻ってきた。休日は施設に入っている母に会いに行ったり、買いものをしたり。地元出身なので「地下じげ仕事」という町内会の用事もある。島に戻ったのは「島で育ったんだから、島に恩返ししろ」という今は亡き父の言葉。「薬剤師の資格があるからここで働けて、ここに住めるんです」と話してくれた。

山本直承さん

隠岐の島に来て約10年。都会の喧騒に疲れ、離島を希望して転職してきた。離島の暮らしについては、前もって聞いていたので、さほど驚かなかったという。ライフラインも整備されているし、買いものもできる普通の町だと感じたそうだ。仕事についても全国どこでも一緒。仕事以外の楽しみといえば、海に潜るようになった。素潜りであわびやさざえを獲るが、800gのあわびを獲ったこともあるそうだ。料理教室や、英会話クラブに顔を出しているうちに「薬局の人」から「山本さん」へ呼び方が変わった。祭りにも積極的に参加している。最近船を買ったので、釣りもできるようになった。

取材協力

株式会社エスマイル スイング島前薬局
島根県隠岐郡西ノ島町大字美田2068-2
TEL:(08514)-7-9001

隠岐島前病院院長に聞く隠岐の島での医療

薬剤師の重要性が理解できる島を、第二のふるさとに

島前の3つの島には開業医がおらず、各島に浦郷診療所、海士診療所、知夫診療所があります。隠岐島前病院は、島前地域全体の健康を総合的に支える基幹病院です。現在、常勤医師は総合医6名で、内科、小児科、外科の外来診療を行っています。産婦人科、耳鼻科、眼科、精神科、整形外科などは、科目により診療の曜日が決まっています。

隠岐島前病院には、年間100名以上の研修医がやってきます。ここでは「なぜ医師を目指したのか」を改めて考えられる研修ができます。Uターンのナース、広島大学病院から転職してきた人や、住民との交流で就職を決意した人も働いてくれています。隠岐の薬剤師は、地元の病院勤務からスライドした人が多数派。「薬」と「医」と「患者」が近い環境なので、毎日の業務は機械的なものではありません。「なぜ薬が指示通り服用されないのか」、「処方せんだけでは、患者さまの状態が正確に伝わらない」といった課題解決にも、自分なりに取り組むことができます。

隠岐島前病院

薬剤師が病院の勉強会に参加したり、医師やインターンの薬剤指導を薬局が行うなど、薬局も地域の医療拠点としての役割を果たしています。

離島ゆえに船舶の欠航があったり、バスの時間と診療時間の関係で薬を配達することもありますが、ON・OFFを切り替えて仕事も遊びも充実させられる環境だと思います。インターネットが普及した今、どこにいても入手できる情報は同じ。ここは人間らしい仕事と生活のできる島です。