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INTERVIEW 薬剤師の未来を考える

株式会社大賀薬局
常務取締役・
調剤薬局事業本部長

大賀 崇浩さん

薬剤師国家試験対策予備校
ヤクシ 学生指導主任・
CC認定コーチ/
有限会社プルーム

鮎川 洋さん

コーチ・コントリビューション
株式会社 代表取締役/
国際コーチ連盟(ICF)プロ
フェッショナル 認定コーチ

市丸 邦博さん

九州・福岡で発足された「薬剤師の未来を考える会」、発起人の御三方はなんと皆さん薬剤師ではない!(鮎川氏は薬剤師免許所持)なぜ薬剤師の未来を考え始めたのか、また薬学生や若手薬剤師に今思うことをお伺いしました。

  • UNIV(以下 U)

    早速ですが、皆さんのご経歴をお願いします。

  • 大賀

    福岡出身で地元の中高を卒業後東京理科大学経営学部に進学しました。卒業後、中堅商社で営業、医薬品の卸会社で経理、物流センターで流通の勉強もさせて頂きました。その後大賀薬局に入社、ドラックストアの天神地下街店で1年、庄内店で店長を1年半程務め、ドラッグ事業本部長を3年経験しました。 そして、2014年6月から調剤薬局事業の責任者となりました。

  • U

    元々ご実家の大賀薬局に入るイメージで進学、就職に至られたのですか?

  • 大賀

    長男なので小中くらいまではなんとなく実家を継ぐイメージがありました。でも、高校時代は野球ばかりで、偏差値は30台しかなくて(笑)。1年浪人して勉強させてもらって大学に行けた訳です。

  • U

    薬学部に進もうとは思われなかったのですか?

  • 大賀

    当時の私は、大学の中庭で女の子とワイワイしているキャンパスライフに憧れていました(笑)。それに理系の勉強より経済や政治などに興味があったので商学部や経営学部を希望していました。今経営サイドとして考えると、大学時代の勉強よりもその時にできた人脈と、やはり商社でビジネスができた部分が役立っています。

  • U

    続きまして、鮎川さんのご経歴をお聞かせください。

  • 鮎川

    私も常務と同じように中高での成績は悪かったのですが、親も兄も医療系なので、自分もそうなるものだと考えていました。でも、成績の悪い学生が医療系に行こうと思っても中々難しいじゃないですか。予備校に行って、結局一般学部へ進学したのですが、将来を考えて大学を中退し、再度予備校に通いました。本当、両親へごめんなさいです(笑)。その後、薬学部に転がり込んだのですが、薬剤師がどんな仕事をしているかも知らなかったので、勉強に対するモチベーションが上がらずとても苦労しました。サッカーサークルの朝練で、午前の講義はあまり出ていませんね。結局成績も悪く、今度は薬学予備校ヤクシに…自分にとっての原点回帰です(笑)。
    予備校にいると普段考えないことを考えるんですよ、自分の現状とか将来の不安とか。でも今振り返ってみると、20代の大切な時期に将来のことを真剣に考えたという経験は、有意義だったと感じていて、私のように悩んでいる学生に立ち会えるヤクシの講師になりました。

  • U

    薬剤師ではなく、ご自身と重なる人たちと向き合うお仕事に就かれたんですね。

  • 鮎川

    そうですね、将来が見えないのでモチベーションが上がらず、本当に悩んでいたんです。ですから、ヤクシの学生には将来を見てもらうための「夢トレ」という取り組みを行っています。市丸社長から学んだコーチングの手法を取り入れて、大賀薬局内定者にも行っております。スキルだけではなく、メンタルがないと勉強は進まないんですよね。

  • U

    それでは、市丸さんお願い致します。

  • 市丸

    福岡で生まれ、私の高校時代はお二人以上の偏差値で(笑)、福岡大学の商学部に進学しました。私は当時アルバイトで中学生のサッカーコーチをしていたのですが、一人の生徒の成長に、家族からとても感謝されたんです。それが嬉しくて、「人と組織の成長に貢献できる人になる」という目標を掲げました。
    松下電工に入社し、1年目に自己投資でコーチングを学んだことで、トップセールスになる機会がありました。4~5年間営業成績は上がりましたが、組織は変わりませんでした。旧体質の会社をより良くしたいと、当時の上層部にコーチングの必要性を訴え、社内でコーチングプロジェクトを立ち上げました。3年間で、2000名の従業員・112名の幹部にコーチングをしました。上層部自らも「自分は変わる」と言ってくださり、チームは全国No.1の営業組織になりました。
    その後、2010年にコーチ・コントリビューション(株)を立ち上げました。設立から5年、企業組織を変革するコーチングを300社以上手掛け、大学や行政でもコーチング講義を行っております。九州唯一のコーチング・ ファームとして、リーダーを開発するグローバル・スタンダードの人財育成手法を用いて展開しています。

  • U

    東京と比べると市場規模も全然違うと思うのですが、なぜ福岡で始められたのでしょうか?

  • 市丸

    地元九州に貢献したいという思いがありました。コーチングは1997年にアメリカから日本に入ってきましたが、未だに浸透していないと言われています。地元で事業を立ち上げ、九州からアジアに向けて展開したいという思いもありました。

  • U

    それでは、「薬剤師の未来を考える会」を設立された経緯をお聞かせ下さい。

  • 鮎川

    ヤクシで夢トレを始めましたが、予備校生ですから将来に対するイメージが少ないんです。その原因のひとつに「見えにくい薬剤師」の問題がありました。メディアへの露出も少ないのでイメージや憧れを持ちにくいのかなと……。
    そこで大賀薬局さんに、将来の薬剤師像をテーマに予備校生たちに講演をして頂けませんか?と依頼したのが私と常務の出会いです。ちょうど1年前ですね。その時、大賀薬局の薬剤師さんが夢トレに興味を持って下さり、「また、ゆっくりお話を聞かせてください!」と、私は社交辞令だと思いましたが、後日、本当にお誘いを受けました。
    その飲み会は常務も加わり、薬剤師は頑張っているのに中々評価されない、どうにかしたいという熱い想いを語られ、「何か一緒にしましょう」と常務がおっしゃったんです。コーチングの師匠である市丸社長から常々「薬剤師や薬局について何かできれば面白いですね」とお話を頂いておりましたので、そこで全てが繋がりました。

  • 大賀

    そうなんです。ドラッグストア部門にいた頃は、私は薬剤師が何をしているのか全く知らず、調剤事業本部長になった時初めて、現場に事務として入ったんですよ。そこで薬局の流れや薬剤師の仕事が分かってきました。ドラッグストアは数字を作るのが大変だったので、調剤事業本部は楽そうだな、なんて思っていましたが、実際に入ってみると本当に意義あることをしているんだなという認識に変わりました。薬を出しているだけではなく、患者さんの相談にものり、薬に疑問を持てばドクターに電話をして確認し、薬の変更をお願いし、と色々なことをしているんですね。一緒に働いて「この人たち凄いな」と思いました。その頃、疑問に思っていたのは医療現場に薬剤師が出てこないことです。ドラマや映画でも医師、看護師は出ても薬剤師は出てこないんですよ、ちょい役でもないのかと(笑)。

  • 一同

    本当ですね(笑)。

  • 大賀

    薬については、ドクター以上に勉強していて、幅広い専門知識も持ち合わせているのに社会的に評価をされていないんです。だから薬局バッシングにも繋がっています。このままではいけないという思いがあり、薬剤師の未来を考えて行けるような人たちと、福岡から少しずつ変えていきたい、ということを鮎川先生とお話していたのもきっかけですね。先生も同じように感じていらして、「何かできそうだな」という直感がありました。

  • 鮎川

    有難いですね。

  • 大賀

    危機感を持って一生懸命働かれている薬剤師さんも大勢います。一方で、そうではない薬剤師さんがいるのも現実です。この会は会社の垣根を越えて、危機感を共有したり、人と人が繋がる場になれればいいと思っているんです。幅広く活動し、福岡から業界を良くしていきたいですね。

  • U

    今の薬学生や若い薬剤師さんを見て、どうお感じになられますか?

  • 大賀

    野心がない、物欲がない、守りに入っている……。会社を回すだけであれば、人材としてそれで良いんですよ。でも本当に欲しい人財は、「私は薬剤師の業界を変えたい!新しい事に挑戦したい!」と思ってくれている人間ですね。

  • 市丸

    中々、珍しいですね。

  • 大賀

    絶対うちに来て欲しい!(笑)

  • U

    夢もあまりないのでしょうか?

  • 大賀

    面接で、薬剤師になって大賀薬局に入って、何かやりたいことはありますか? と必ず聞いています。そうすると「地域の健康イベントをやってみたい」「いずれは薬剤師のための政治家になる」という方もいました。でも、ほとんどの方は薬剤師として一人前になって店長やってみたいくらい。悪くないけど、それなら社長になりたいくらい言って欲しい(笑)

  • 鮎川

    薬学生と薬剤師が接する機会は実習くらいなんです。それも国家試験を受けるための実務という科目はウエイトが大きく、学生は勉強をしに行っているんです。スキルはガイドラインにあるので、まず薬剤師の方には「何が楽しくて薬剤師として働いているのか」ということを学生たちに伝えて欲しいんですよ。その上でスキルを教えないと、学生は国家試験に出るかどうかでしか判断しないから、大事な部分が欠落してしまったままで、やる気にも繋がっていないんですね。

  • 大賀

    実務実習に行く薬局で、大きく人生が変わったりしますもんね。

  • 鮎川

    薬局業界の構造もおかしいですね。5年目の薬剤師より新入社員の方が給料が良かったり。

  • 大賀

    そこは薬局の経営者側にも責任があるし、大学にもキャリア教育上の責任があると思います。それを鮎川先生は予備校から改善していこうという志が素晴らしい。学生とも大学の先生とも関わるポジションなので、鮎川先生を起点にできることがたくさんあると思います。

  • U

    今後の「薬剤師の未来を考える会」のビジョンや薬学生・薬剤師さんへメッセージをお聞かせください。

  • 鮎川

    問題意識を持って、今の自分より一歩上を目指すための会ですね。また、ドクターに講演をしてもらったり、学生に薬剤師がどんな問題を抱えているのか聞いてもらったり、とにかく知る機会を増やしたいですね。その後の飲みニケーションも是非(笑)。
    薬学生には一生懸命働いている薬剤師さんとの接点を今後も与えたいですね。モチベーションに繋がる目標や憧れになる方を見つけてあげたいです。すぐに夢を持つのは難しいですが、少し先を見据えて、よく考え、今やることを一生懸命にすれば、自ずと夢は見えて来ると思います。

  • 大賀

    薬剤師の方々に影響を与える、薬業界に一石を投じる会になれば良いですね。
    薬剤師は、もっと外の世界との繋がりが必要ですね。福岡には勢いのあるIT企業がたくさんあるので、薬局の無駄を見つけてもらったり、システム開発や調剤室のオートメーション化をしようと企画したり。薬剤師がやらなくても良い仕事は機械にさせようと思っています。そうすれば、薬剤師本来の仕事ができるようになりますよね。学生時代から周りに薬剤師になる人ばかりですから、業界の中だけにいる方が多いと思います。

  • 市丸

    環境がどうしてもね。

  • U

    薬局や薬剤師の枠にとらわれず、ということですね。 最後に、皆さんの夢をお伺いしたいと思います。

  • 大賀

    薬剤師という仕事が地域の皆さんに信頼され、なりたい職業の上位に来るようにしたいですね、ドクターと同じくらいに。子どもたちが「薬剤師になりたい」「あの先生のようになりたい」と思ってくれるような職業にしたいというのが夢ですね。

  • 鮎川

    今後、薬業界が従来のように発展できるのか? 薬学生が受かった後、薬剤師として活躍できる場が本当にあるのか? 合格させておしまいではなく、受かった後、薬剤師として活躍できるフィールドを作ってあげる、というのがやるべきことですね。

  • 市丸

    「薬剤師の未来を考える会」に集まる皆さんは、帰るときには希望を持たれて、とても明るいんです。コミュニケーションを通じて、大賀常務と鮎川先生の下、継続していけば、薬剤師業界に良い影響が表れるだろうと思っています。
    大賀薬局さんでいうと、組織として生き生きワクワクできる環境・人材・教育システムが揃っています。また、ヤクシさんはただの予備校ではなく、夢を実現できるトレーニングを実践していらっしゃる。薬剤師や薬学生の方々には色々な取組みをされている会社があることを広く知ってもらい相関関係で業界をさらに良くしていきたいですね。

  • U

    本日はありがとうございました。

(インタビュアー : 本誌 菊池 一洋)