薬局実習を終えたばかりの学生さんが、弊社のインターンシップに来られることがしばしばあります。インターンシップは、ハザマ薬局の業務を知ることのみならず、医師が薬剤師と連携して動くとはどういうことか、そして、薬剤師が薬剤師でしかできない仕事に専念するためにはどのような仕組み作りが必要かということを実感していただくために、3日間のプログラムを基本として行っています。いらっしゃるのは、弊社のある大阪や近畿圏にとどまりません。遠くは北海道や九州からもはるばるお越しいただけるのは、たとえ、交通費や宿泊費を弊社で負担するとは言っても、貴重な時間を割いていただくわけですから、本当にありがたいことだと思っております。ご遠方からのご参加で宿泊される方はもちろん、近畿圏の大学の方で実家や下宿(?)から弊社に通って参加できる方も、折角ですから初日か2日目の夜は、食事をご一緒にするようにしています。
大阪名物といってもありそうでない、というと語弊がありますが、お好み焼きやたこ焼きや串カツといったものは、比較的ゆっくりとお話するのにはお店の雰囲気としてそぐわないことがあるので、少し大阪らしさが感じられる和食や中華などで、私だけでなく弊社のスタッフも一緒に夕食をいただくことが多いです。乾杯でのどを潤したあとは、弊社のインターンシップの感想などをお尋ねすることが多いのですが、みなさん、お世辞半分ではありますが楽しんで良い経験ができた、といった前向きな感想をいただけることがほとんどです。特に、薬剤師が患者の近くで活動し、医師や看護師と密接に連携しながら薬剤師の専門性を活かして薬物治療の適正化に取り組もうとしていることや、薬剤師が薬剤師でしかできない仕事に専念するために、機械や非薬剤師との連携のなかでシステマティックに業務が進んでいることに、ほとんどの学生さんが興味を持たれるようです。
インターンシップの感想がほぼほぼ出そろってくると、その後、話は学生実習へも広がっていきます。お酒が進むからというわけではないでしょうが、多くの場合、いろいろな本音が出てきます。
薬局と病院の双方を済ましておられる方もいれば、その片方どちらかが済んだばかりという方もいらっしゃるのですが、薬局実習を済ませた方の意見を聞くと、「薬局の実習は、今ひとつだった」と感じておられる方が多いのです。逆に、そうだったから、インターンシップにご参加されるのかも知れませんね。
薬局経営者の一人として、「実習が今ひとつ」ということはどうだったのかということは、後学のためにも是非知っておきたいと思い、具体的に色々と聞いてみると、ある意味では当然だなぁと感じる話もあれば、ある意味では耳が痛い話もあります。
前者の代表は、薬剤師さんも忙しくなかなか相手もしてもらえず、お客さん扱いの中で、なんとなく時間がすぎていったというものです。実務実習には何らかの対価が支払われているはずで、そのことを考えると、複雑な思いになったという学生さんの話を聞きつつ、それは当然なことだと感じざるを得ませんでした。
後者の代表は、最初の数日で学ぶことは終わってしまい、あとは現場で調剤や投薬の補助的作業をしていたことが多かったというものです。もちろん、これは、あくまでも学生さんが感じたものであって、実際に指導にあたった薬剤師の先生の思惑や願いがその通りであったのかどうかはわかりませんが、結果的にそういう思いになってしまったというのは、考えさせられます。ある学生さんは、「途中で、これはバイト代がもらえるんじゃないかというぐらい役に立った(=働いた)」とおっしゃっていました。処方箋というオーダー用紙を受け取り、中身のチェックをしたあと、迅速・正確にお薬を取りそろえて、適切な服薬指導とともに患者さんにお薬をお渡し。一連の動作を調剤録に記載するという作業が、ある意味では延々と続くように感じられる実習現場で、薬学生として手を出せるところは手を出しながら、薬剤師さんをフォローするという作業を実習と呼ぶのであれば、確かにそんな風に感じることもあるだろうと思います。
一方、それらのことと対比的に語られるのが病院での実習です。そもそも、薬学生の実習を受け入れる病院は、地域の基幹病院であり、診療科も多彩ですからその業務も多彩です。薬剤師による病棟業務も根付き始めているところが多いでしょうし、医師や看護師などの多職種と連携するとまではいかなくても、交流したり接点を持ったりしているところがほとんどでしょう。
私服から白衣に着替え、院内を先輩とともに闊歩するという体験は非常に刺激的だと、自分自身が医学部生時代に病院実習したころを思い出しても感じますし、院内製剤や治験、昨今では外来化学療法や手術室・ICUでの業務の拡大など、体験すべきところ、学ぶべきところがたくさん増えてきたので、学生さんの様々な好奇心や思いを満たすことが可能になっていると思います。
これらが一定期間に、いわば連続的に起こるわけですから、学生さんの気持ちは「病院は良いけど、薬局は無いなぁ」と思うのももっともなことです。
ただ、私は薬学生さんには、どうしても伝えたいことがあります。それが、「薬局は変わりつつある」ということであり、そのスピードは年々増しているということです。超高齢社会となった日本で、多職種連携の重要性は改めて申し上げるまでもありませんが、薬局は単に薬の備蓄庫ではありませんし、薬剤師はそこで薬を取りそろえて説明し、場合によってはご自宅までお届けする人ではありません。
薬剤師を薬剤師たらしめるのは、薬学部時代に学んだ専門教育の成果にあると思いますが、薬理学・薬物動態学・製剤学といった学問は、薬が体に入ってからどうなるかということを、薬剤師自身が推測し考え悩み、医療安全確保、医薬品適正使用の観点から、次回処方をよりよくするための「見立て」を考えて行く過程で必要になります。そうなると、薬剤師は、処方箋を見るのではなく患者さんを見るようになり、その状態に応じた見立てを医師・看護師・患者と共有することで、その専門性は自他共に求めることになるとともに、そういった薬剤師が地域医療の現場で活動するための基地としての薬局の役割は、単なる薬の置き場所だけではなくなるはずです。
この数年の薬局や薬剤師を取り巻く環境の変化は、まさに、そういったことを徐々に具体化していくために起こっているのだと読み解くこともできます。調剤とは個別最適化のみならずその後の状態の変化をフォローしてその際に考えたことを医師や患者などにフィードバックすることまでも含むとした「調剤指針第13改定(日本薬剤師会)」や、薬剤師の持つべき指導義務を明記した「薬剤師法25条の2」の改正、「対物から対人」「立地から機能」「バラバラから1つ」というキーワードを明確にした「患者のための薬局ビジョン(厚生労働省)」など、1つ1つは多少唐突に見えますが、それは、薬剤師が専門性を発揮して、薬物治療の適正化を図っていこうということの現れだと思います。
そこに加えて、平成28年度の調剤報酬改定。きっと薬局は変わると思います。そしてその変化のまっただ中にいることを、「薬局、無いなぁ」と決め打ちして自分の将来から完全に除いてしまう前に、是非、薬学生さんには伝えたいと思っているのです。