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栄養学 第1回 薬剤師が知っておくべき食事と栄養の話

栄養学 連載新宿溝口クリニック院長 溝口徹(医師・寄稿)

この連載では、“食と栄養”が人の健康に密接に関わっていることと、“食と栄養”の正しい実践が多くの病態を改善させること、そして、身体に吸収された栄養素がどのように作用して病気の改善に役立っているのかについて、例を挙げながら説明していきたいと考えています。

食と栄養の正しい実践

食と栄養を中心とした健康に関する情報は、以前からTVをはじめとするマスコミから供給されていました。最近では、TVだけでなくネットからも多くの情報が流されています。これらの情報には科学的に疑問を持たざるを得ないものも多くあるのですが、最も懸念を感じるのは、個体差が考慮されていないということです。
たとえば、「疲れ+栄養」で検索してみるとじつに様々な成分が出てきます。“黒酢”、“にんにく”、“卵黄”、“カテキン”、“αリポ酸”、“コエンザイムQ10”、“マカ”などなど…。
確かに、どの成分も疲れには効果がありそうです。薬局で患者さんから、「疲れがとれるサプリメントを紹介してほしい」と言われたら、何をお勧めしますか?そして、「それはどうして疲れがとれるのですか」と聞かれたときに、作用機序を説明することができますか?
患者さんは、人の健康に関わる医師・看護師・薬剤師などは、栄養の知識が豊富であると思っています。ところが、大学時代の講義を振り返ってみても、食や栄養に関する講義は乏しく、現代の栄養に関する膨大な情報を正しく評価し、専門家として患者さんへアドバイスすることは困難なのではないでしょうか?
そして実は、処方薬にも栄養素の効果を応用したものが数多く存在します。たとえば魚油に含まれるn3系の必須脂肪酸であるEPAやDHAを主成分とするもの、亜鉛を含んだ胃薬、ビタミンD3製剤、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルなどもあります。
今回の連載では、『薬剤師が知っておくべき食事と栄養の話』とタイトルをつけました。誌面に限りがあるため、全ての食と栄養に関することをお伝えすることはできませんが、“食と栄養”が人の健康に密接に関わっていることと、“食と栄養”の正しい実践が多くの病態を改善させることに興味を持っていただけるようにしたいと思っています。

オーソモレキュラー療法

Man is what he eats. という表現があります。日本語では“人は食べ物でできている”と訳されることが多いようです。このことは誰も否定ができない事実であり、この世に生を受けてから自分の身体は食べ物によって構成され動かされています。そしてこれは未来にも通じることであり、自分にとって最適な食事へ変えることは、未来の自分を変えることができることを示しているのです。
この考え方に基づいた治療法に、オーソモレキュラー療法があります。日本では栄養療法と呼ばれることが多くあるものです。この治療は、1960年代にアメリカやカナダで始まり、多くの代替療法に影響を与えた治療法です。食事を変更しサプリメントを用いて、病態改善に必要な栄養素の最適な量を補充することにより、様々な慢性疾患を治療します。
治療に用いられるものの主役は食事とサプリメントなので、医師だけでなく人の健康に関わる様々な専門家のチームが必要になります。
なかでも薬剤師の存在と役割は大きく、栄養素のもつ薬理作用を理解することにより、適切な指導が可能となります。実際、私がカナダのビクトリアにこの治療を確立したホッファー医師を訪ねたとき、必要な栄養素の作用や予想される変化については、サプリメントを販売する薬局の薬剤師が説明していました。
この連載では、身体に吸収された栄養素がどのように作用して病気の改善に役立っているのかについて例を挙げながら説明していきたいと考えています。そこには人の身体が本来持っている精密なホメオスタシスが介在することに気づかされ、ヘルスエキスパートとして、感動を感じることすらあるのです。
従来の投薬による治療では期待した効果が得られないとき、少しでも減薬を希望される患者さんなどには、効果的なアドバイスを求められることが多くあるでしょう。そのようなときには、オーソモレキュラーの理論はとても効果的で役に立つものです。
次回は、EPA製剤を用いるとなぜ血液がサラサラになり血管病変を予防することができるのかについて、オーソモレキュラー的な考察を交えて説明したいと思います。今回興味を持ってくれた読者の方は、次の記事までじっくりとその薬理作用について考えてみて下さい。
We are what we eat. です。この連載が食事を通して、皆さんの健康の最適化のお役に立てればとても嬉しく思います。どうぞ最後までおつきあい下さい。

溝口 徹氏(医師)プロフィール
溝口 徹氏 著書

プロフィール

新宿溝口クリニック院長。一般社団法人オーソモレキュラー.jp代表理事。2000年より慢性疾患の治療にオーソモレキュラー療法(栄養療法)を導入。2003年に栄養療法専門の新宿溝口クリニックを開設するとともに、栄養療法の基礎と理論を医師、歯科医師へ学会やセミナーを通して伝え始める。2014年より、薬剤師、看護師、管理栄養士など医療系国家資格所有者を対象とした栄養療法の基礎と理論について講義を行う「ONP(オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル)養成講座」を開始。

オーソモレキュラー.jp

http://www.orthomolecular.jp/

著書

「うつは食べ物が原因だった!」(青春出版社)
これまで、「うつ」と診断されてきた多くの症状。
原因は、脳の栄養不足にあった。
その仕組みを図解でわかりやすく解説するとともに、どのような食べ方をしてはいけないのか、どのような食品を意識的に食べればよいのかを紹介