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コラム 薬剤師の在籍届出はちゃんと行っていますか?「テキトー」は危険な時代へ

かかりつけ薬剤師制度は、届出を見直すチャンス

平成28年4月より「かかりつけ薬剤師」制度が新たにスタートしました。みなさんがご存知の通り、患者さんが薬剤師を指名し、毎回同じ薬剤師が「かかりつけ薬剤師」として担当する制度です。この制度については、メディア各種で賛否両論出ているようですが、今回は制度のあり方ではなく、この制度を自分のキャリアにつなげる話をしたいと思います。

まず、かかりつけ薬剤師指導料の算定要件として、以下の3つが大きく上げられます。

【かかりつけ薬剤師指導料の算定要件】
①薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があり、同一の保険薬局に週32時間以上勤務しているとともに、当該保険薬局に半年以上在籍していること。
②薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得していること。
③医療に係る地域活動の取組に参画していること。

ほとんどの薬剤師さんは、自分がどの店舗で何年勤務しているか、把握しているつもりだと思います。しかし、本当にご自身の“記憶”と行政(地域の保健所・地方厚生局など)へ届けている“記録”は同一なのでしょうか?
保険薬局で働く薬剤師が自分で行政への届出を行うことはしないでしょう。自分が帰属する会社の担当者が行っているケースがほとんどだと思います。では、その担当者が届出している内容を確認されたことがありますか?
薬局業界全体は、慢性的に薬剤師不足であり、転職も多い業界です。誰かが退職すると、全体最適化のために、残された薬剤師の人事異動が発生することがあります。薬局開設者はその都度、行政への届出を行わなければなりません。しかし、この作業はかなり面倒であり時間もかかります。頻繁に人事異動がある会社では、もしかすると何らかの理由で届出が漏れている可能性が無いとは言い切れません。(もちろん、そのような漏れがあってはいけませんが…。)
このような背景から、薬剤師のみなさんが“記憶”している店舗在籍の期間と、実際の届出として“記録”しているものを、照らし合わせる必要があると考えられます。このような話をすると薬局開設者に対して懐疑的になるかもしれませんが、逆の考え方をすると、このかかりつけ薬剤師の制度は、薬剤師さん自身が届出を見直す良いチャンスなのです。

自己管理ファイルを作成しよう!

私が所属する八幡西調剤薬局では、先日から「自己管理ファイル」の作成が始まりました。その内容は薬剤師登録番号や保険薬剤師番号だけでなく、店舗配属期間の記録、地域活動の記録、研修参加記録や計画、取得した資格や更新の時期、そのための単位取得履歴と目標がまとめられる形にしています。もちろん、その他の仕事用資料をファイリングすることも可能です。さらには会社が行った行政への届出記録も配布し、個人の記憶に頼らずに管理する形にしました。
これまでは、「行政への届出は会社がするもの。従業員は会社任せにしておけば良い」という考えが主流でした。しかし、かかりつけ薬剤師制度が始まった今は、そんな悠長な考えでは自分自身に被害が出てくる恐れもあるのです。もちろん、届出業務自体は今後も会社担当者が行うと思いますが、その情報を共有してもらう仕組みが必要です。
世間の流れとして、薬局だけでなく薬剤師個人にフォーカスされる時代になったことは間違いありません。そのような意味でも、自分自身のリスク管理は必要になるでしょう。

ファイルを作ると思わぬ副産物も!

また、このようなファイルを作成することで、現在の状況を管理することについて非常に便利になりますが、それ以上に役に立つ副産物は“自分自身のキャリアの棚卸しができる”ということです。
ファイル作成時には、必ず皆さんは自分の過去を振り返ることになります。
「こんな資格を目指した時期もあったなあ。なんで今は頑張らなくなったんだろう?また、資格取得を目指そうかな?」
「あの店舗で取り組んだ仕事は、今の店舗でも活用できるなあ。そうだ、もう一度、過去の資料を振り返ってみよう。」
「後輩の子が悩んでいるけど、私も同じ時期に悩んで苦しんで、先輩からアドバイスをもらったなあ…。よし、今度は私がアドバイスをしてあげる番だ!」
このように、何もしなければ消えて無くなる記憶が、記録として残っているのです。そして、その記録から過去の自分の癖や習性が思い出され、これからの自分のキャリア形成につなげていくことが可能なのです。

記憶より記録。過去を振り返った後は前を見て進もう!

ファーネットマガジン読者の方には、様々なキャリアを持っている方が多いと思います。出産や育児、介護などで現場を離れた方もいらっしゃると思いますし、薬剤師以外のキャリア形成のために薬局業界から離れていた経験がある方もいるでしょう。また、何らかの理由で転職を何度も経験した方もいるのではないでしょうか。もちろん、これからそのような経験をする方もいるかもしれません。
今後、安倍総理が推進している「働き方改革」が浸透してくれば、薬剤師の業界も様々な働き方が出てくる可能性があります。もしかしたら、Aという一つの会社に属する薬剤師として働くのではなく、Aでは週に3日間だけ働き、在宅医療など自分の専門や得意分野を生かしてBやCという会社で残りの2日間を在宅担当者として働く…そんな時代が来るかもしれません。そうなれば今後、かかりつけ薬剤師指導料の算定要件も時代に合わせて変化していく可能性も否定できないですね。

日本は、今後も高齢化が進み、医療費はどんどん増え続けます。そんな中、薬局業界は社会からバッシングされるような社会問題が相次いで起きています。この状況で、保険薬局が今まで以上の診療報酬を得ることは難しいでしょう。つまり、薬剤師は自分たちが社会に対して目に見える価値を提供しないと、今までのような収入を得られない状況に追いやられていくのです。会社から言われたことだけを行い、簡単に給料を頂く時代は間もなく終わります。まずは自己管理ファイルを作り、会社にも届出状況を確認しましょう。そして、自分の過去のキャリアを振り返り、良い癖や習慣はさらにブラッシュアップし、修正すべきところがあれば修正する。それを半年に1回でも繰り返すことで、きっとあなたの薬剤師キャリアは大きく成長していくと思います。
記憶より記録。過去を振り返った後は前を見て進みましょう!/p>

中村 守男氏プロフィール
中村 守男氏

所属

有限会社八幡西調剤薬局 統括マネージャー/薬剤師

経歴

「有限会社八幡西調剤薬局」にて、薬剤師として薬局業務に携わりながら、人事・採用・社員研修を中心とした薬局全体のマネジメントを行う。2015年には医療機関支援の企業「株式会社オールウェイズメディカル」の取締役に就任し、薬局の仕事をリノベーションする事業「クスリノベ!」を運営。また、2006年からボランティア活動にも携わっており、理事長を務める「NPO法人こどもとくすり」では、母親向けの健康づくり講座なども行なっている。