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INTERVIEW 高度医療最前線「国立国際医療研究センター病院」の薬剤師とは

薬剤師部長

桒原 健さん

副薬剤部長

近藤 直樹さん

国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院

感染症分野で最先端の研究開発を行う「国立国際医療研究センター」の組織のひとつで、研究所、メディカルゲノムセンター、臨床研究センター、国府台病院、国際医療協力局、国立看護病院大学校など他部門と連携し、高度総合医療の推進を図っています。
国立国際医療研究センター病院(以下、センター病院)は、あらゆる医療協力に対応できる素地を有すべく感染症から糖尿病・代謝性疾患をはじめとする慢性疾患、難病に至るまでの高度先駆的な医療を行っており、特に国際感染症対応やトラベルクリニック、糖尿病診療、エイズ治療、救急医療等に特色があります。
多くの合併症を持つ患者さんやご高齢の患者さんの外科手術、複雑な内科疾患への対応、原因不明な疾患等に対処する総合診療、多くの身体疾患を合併した精神科患者さんの診療等も、当院の特長と言えます。このように総合的な診療体制を基盤とした高度医療を展開し、全ての診療分野間で専門医及びスタッフが連携を取り合う診療体制が整っています。
また、国際診療部を設置し、外国人患者診療の円滑化の推進や研究所、臨床研究センター、国際医療協力局等を併設している特徴を生かし、革新的な医薬品や医療機器の研究開発、国際展開を推進し、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担っています。

センター病院でご活躍される薬剤部長の原健さんと副薬剤部長の近藤直樹さんに、薬剤師の使命やこれからの職能、高度医療最前線での働き方についてお考えを伺いました。

まずは、注力されている医療分野についてお聞かせください。

1997年に開設したエイズ治療・研究開発センター(ACC)では、HIV感染症に対する最先端の医療提供を行うとともに、日本のHIV感染症診療のレベルアップを図るための研究開発やHIV感染者の多い途上国との共同研究による国際貢献を果たしています。2012年には国際感染症センター(DCC)を設置し、国内・国外の感染症に関する包括的・多面的・先進的な取組みを行っています。
その中で、センター病院薬剤部では、感染症に強い薬剤師がチーム医療を通して高度で先駆的な薬物療法に貢献することを方針としています。総合病院の薬剤師としての活躍はもちろんのこと、HIV感染症を担う薬剤師、感染制御を担う薬剤師等、感染症を専門とした薬剤師の育成に努めています。当院は総合病院ですので、がん専門薬剤師や糖尿病・NST等の認定を持つ薬剤師も在籍しています。がん専門薬剤師等を目指すスタッフにも「感染症に強い」をキーワードとして教育を行っています。院内での他職種とのカンファレンスや勉強会、レジデントが説明、発表する場への参加等、早い成長が見込まれます。
また、国際協力局の海外展開推進事業に参加し、開発途上国の薬剤部の技術水準向上にも寄与しています。

国際貢献について詳しくお聞かせください。

アジアの開発途上国の医療や保健衛生の向上を図るための国際協力局の海外展開推進事業に参加し、薬剤業務の支援活動を行っています。具体的には、ベトナム、タイ等の薬剤師の研修を受け入れ、薬剤部門の強化に向けた支援に力を注いでいます。開発途上国の病院薬剤師の臨床への介入については、30年程前の日本と同じような状況だと思っていただければよいかと思います。私たちも同じ道を辿ってきたことをよく理解し、決して相手国に失礼の無いよう、一緒になって支援活動をしていかなければなりません。日本が要した長年の道のりを、より短期間で済ませることができるように思うと相手国の薬剤師さんから言っていただいたことが何よりも嬉しいことです。今後5年程で、支援している国々は大きく変わっていくと思います。センター病院の薬剤師としての「使命」をしっかりと認識し、活動していくことが大切だと感じています。

「使命」とはどんなものでしょうか。

国際的な観点で具体的に言えば、海外に出かける方に対するワクチンの供給や情報提供です。これは日本で承認されていないワクチンも含まれますが、これらを輸入して適切に管理することや、海外で新興感染症などに感染した日本人を受け入れることも想定されますので、即座に対応できるように常に準備することがあげられます。そして、国の様々な施策や制度により医療機関は左右されていますが、どこよりも私たちが真っ先に国の動きに合わせる努力をすることも大きな使命だと考えています。また国がすすめる薬剤耐性(AMR)対策については、当センターが大きな役割を担っていることから、薬剤部としても積極的に協力する体制を整えて実施しています。

センター病院での薬剤師の働き方について教えてください。

高度医療を展開する当院では、薬剤師は技術習得、知識習得など多くの勉強を必要とします。また、診療科目が多岐に渡るため、病院全体を知ることには相当な勉強量と時間が必要です。そのため、院内の業務ローテーションにより多くの仕事を経験し、スキルアップを図ります。当院ではレジデント制度を取入れ、調剤業務をはじめ、病棟に出るための様々な経験を短期間で習得できるようにプログラムが組まれています。院内での他職種とのカンファレンスや勉強会、レジデントが説明、発表する場への参加もあり、早い成長が見込まれます。数年経てば異動することもあり、経験したことが無い疾患に携わることもあります。常に勉強が付いてきますし、必ずしも自分がやりたいことができるとは限りません。ただ、薬剤師としての「思い」を大切にし、先程お話したような「使命」を持ってすれば、どのような診療科目でも対応できる薬剤師として成長できると考えています。
国立国際医療研究センターのブランドで働きたいと考える人ではなく、「感染症に特化した薬剤師を目指したい」、「国際的に貢献できる薬剤師になりたい」、「目の前の患者さんをなんとかしたい」という強い思いを持った方々と仕事をしていきたいですね。

薬剤師の「思い」というお話がありましたが、病院で働く薬剤師にはどのようなことが必要だと考えますか?

「患者さんを思う気持ち」だと思います。患者さんがどのような気持ちでいるのか、どのような生活をされているのか、家族構成はどうなのか、家族の皆様の気持ちはどうなのか等、患者さんを知り、思いながら薬学的な対応にあたることが大切だと思います。薬の知識が多い、調剤スキルが高いというだけでは病院薬剤師として十分ではないと思います。
また、病院で働く薬剤師にクローズアップすると、「主治医、医療に関わるスタッフとの信頼関係の構築」が何よりも大切だと考えています。主治医を信頼している患者さんは、主治医が信頼するスタッフであれば誰でも、安心して話をしてくださいます。薬剤師は主治医との信頼関係を構築し、患者さんの信頼を得ることで様々なお話を頂き、主治医と患者さんの架け橋となるよう、心がける必要があると思います。医師は病気を症状や検査の結果等から総合的に診断しています。看護師は患者さんの行動や体の変化から患者さんの評価を行っています。薬剤師は患者さんに投与されている薬から患者さんを評価することが重要だと思います。臨床現場ではそれぞれの職種が、それぞれのアプローチで患者さんに健康になっていただくことを考えながら仕事をしていると思っています。

やはり、「対物」ではなく「対人」が大切なのですね。

そうですね。以前と比べると、人と対話をすることが好きだという薬剤師が増えたと感じています。薬や機器類、疾患について勉強して、知識を持つことは当然のことです。それ以上に必要なのは、患者さんのために何ができるのかを考え、行動することですね。そのために必要な勉強や研修をたくさん受講しますが、現場で先輩方の働く姿を見て覚えていくこと、経験を積み重ねることも不可欠です。

これからの薬剤師の職能はどのように変わっていくと思われますか?

より機能分化が進んでいくと思います。調剤薬局の薬剤師は、薬局のある地域が自分の担当する病棟、患者さんの自宅を病床だと思えば、必然とやるべきことが見えてくると思います。当院のような超急性期病院にはその機能があり、機能に合った薬剤師の職域、役割があります。それぞれが尊重、連携し合いながら、必要なところで活躍すれば、より良い医療が提供できると思います。
病院の薬剤師も調剤薬局の薬剤師も、地域との関わりが深くなっていくことは間違いありません。地域の皆様の健康を守り、患者さんにどれだけ寄り添って役割を果たしていくかを真剣に考え、取り組んでいくことが私たち薬剤師の課題だと考えています。

これからの展望についてお聞かせください。

今後、医療はこれまで以上のスピードで急速に変化すると思います。これまで培ってきた技術や知識にとらわれず絶えず進化させながら、次世代に継承していくために、患者さんに寄り添い、患者さんのために使命感を持って活動できるスキルや知識を広く備えた薬剤師の育成が急がれます。感染症を専門とした薬剤師はもちろんですが、国内・国外を問わず、患者さんの健康寿命の延伸に貢献できる薬剤師の輩出と活躍のフィールドを広げていくことが必要だと感じています。

ありがとうございました。