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栄養学

第2回 薬剤師が知っておくべき食事と栄養の話

栄養学 連載新宿溝口クリニック院長 溝口徹(医師・寄稿)

この連載では、“食と栄養”が人の健康に密接に関わっていることと、“食と栄養”の正しい実践が多くの病態を改善させること、そして、身体に吸収された栄養素がどのように作用して病気の改善に役立っているのかについて、例を挙げながら説明していきたいと考えています。

患者・クライアントが求めること

「身体に良いのは、和食ですよね?」
「がんになったら、4本足の豚や牛の肉はだめだけど、2本足の鶏肉は良いのですよね?」
「コレステロールが上がるので、たまごは1日1個までですよね?」
このような質問を受けることがありませんか?
医師、歯科医師、薬剤師、看護師……医療に関わる専門職の人であれば、栄養についても詳しい知識を持っているだろうと、患者やクライアントは思っています。つまり、栄養士や管理栄養士と同様に他の医療専門職も、栄養については詳細な知識をカリキュラムで習得していると、一般の方々は思っているのです。しかし、薬剤師も含めて医療に関わる専門職の多くは、栄養面での知識は一般的で常識的なものにとどまると思います。
そして、冒頭の患者さんからの質問の本質は、実は「私はどのような食事を摂るべきなのでしょうか?」という内容だと思うのです。
今回の連載では、タンパク質について触れてみたいと思います。
タンパク質は英語で“protein=プロテイン”。これはギリシャ語で「第1位のもの」という意味の”proteius=プロテウス”が語源といわれています。つまり、人間にとって最も重要な栄養素だと、言い換えることができると思います。
実際にアルブミン値が高いほど長寿であるという報告や、食事指導によってタンパク質摂取量を増やしたところ、住民の平均寿命が延長し、脳梗塞などが減ったという報告もあります。がんの患者さんの場合でも、アルブミン値が高いほど生命予後が良いことが知られています。
ここで、冒頭の質問について考えてみましょう。豚肉、牛肉、鶏肉を、アミノ酸のかたまりであるタンパク質としてみると、どの肉もアミノ酸組成に大きな違いはありません。つまり、タンパク質としての性質には大差がないのです。そしてこのアミノ酸組成は、人間のアミノ酸組成にも近く、植物性タンパク質と比較して利用効率が高い食材です。
それでは、豚、牛、鶏の違いは何でしょうか? それは含まれている脂肪酸組成です(下表)。

豚肉、牛肉と比較して鶏肉は、リノール酸をとても多く含んでいます。つまり鶏肉は、ω6系(n-6系)リッチな肉であるといえます。ω3系(n-3系)の脂肪酸の有効性が知られ、ω3/ω6をできるだけ高く保つことを推奨されていることから考えると、肉の選択としては鶏よりも牛や豚を多めにすることが、科学的に理にかなっています。
そして脂肪酸の視点から見ると、背の青い魚に勝るタンパク源はありません。このことは、必須脂肪酸の組成が強く関与している生活習慣病、がん、アレルギーの患者さんには重要な考え方になります。
次に大切なことは、タンパク質の必要量を満たすということです。成長期だけでなく、病気を治したり、アンチエイジングのためには、通常よりも多くのタンパク質が必要になります。個人差が大きいのですが、一般的に健康な成人男性でおよそ1日60gのタンパク質が必要と言われていて、たまごにするとおよそ5.6個、肉にすると約300g、魚の切り身だと、大きいもので3.4切れになります。病態改善やアンチエイジングには、それ以上のタンパク質が必要になるのです。
タンパク源としてたまごを多くすると、コレステロールが心配になります。たまごの摂取量に比例して血中のコレステロールが上昇してしまうレスポンダーといわれる一部の方々を除いては、たまごの摂取によって、一時期はコレステロール値が上昇しますが徐々に落ち着き、その方にとって適切な値で落ち着きます。
そして、もう一つタンパク質の摂取で気をつけなくてはいけないことがあります。それは、アレルギーを作らないということです。
クリニックで多くの患者さんへ特殊な食物アレルギー検査を行ったところ、頻繁に摂取している食材に反応が出ているケースが多いことがわかりました。とても多くの患者さんに、乳製品とたまごに対して特殊なアレルギーの抗体があったのです。つまり、冷蔵庫にあるものは食べる機会が多いことを示しているのです。毎日納豆を食べていると、大豆アレルギー陽性の確率も高くなりました。

薬剤師が身につけるべき食事指導

処方箋を持って訪れる患者さんや、薬局へ相談に来る方々への食事指導は、どのようになるでしょうか?
多くの場合には、健康なときと比較してタンパク質の必要量が亢進しています。つまり、タンパク源としては利用効率のよい動物性タンパク質がお勧めになります。
そして十分なカロリーが供給されないと、食べたタンパク質の多くがカロリー源として消費されてしまいます。つまり患者やクライアントには、和食や洋食などの区別ではなく、必要なカロリーとタンパク質の摂取が最重要になるということです。
さらに脂肪酸の比率を考慮すると、肉としてはリノール酸の少ない豚や牛を中心にし、できるだけ青身の魚も食べることが重要です。もし肥満気味であったり、脂質異常症などの場合には、EPAをサプリメントで摂取することをお勧めするのがとても重要になります。また、身体の状態が悪く胃腸の調子が落ちていて、肉を増やすと不快になる場合には、消化酵素の併用をお勧めすることも大切です。
たまごについては、アレルギーの予防のためにも週2日は摂取しない日を設けるように指導しています。また乳製品についてはアレルギーを起こしやすいため、クリニックではタンパク源としてはお勧めしていません。
医師と同様に薬剤師も、学生時代のカリキュラムで、栄養に関して十分な知識を得られてきませんでした。ところが、患者やクライアントは我々を栄養の分野でも専門家としてアドバイスを求めてきます。健康に関して専門家であるのであれば、栄養面でも正しい知識を身につけておくことはとても重要です。
特にタンパク質については、一般の方にも医療の専門職にも、十分に理解されているとはいえません。「厚生労働省の日本人の食事摂取基準」では、2015年度版から、タンパク質に関しては、従来よりも多くの摂取を勧める表現になりました。
適切なタンパク質代謝の維持は、病態の改善に必須の条件になります。
今回の記事から、タンパク質を見直す機会になればと思います。

溝口 徹氏(医師)プロフィール
溝口 徹氏 著書

プロフィール

新宿溝口クリニック院長。一般社団法人オーソモレキュラー.jp代表理事。2000年より慢性疾患の治療にオーソモレキュラー療法(栄養療法)を導入。2003年に栄養療法専門の新宿溝口クリニックを開設するとともに、栄養療法の基礎と理論を医師、歯科医師へ学会やセミナーを通して伝え始める。2014年より、薬剤師、看護師、管理栄養士など医療系国家資格所有者を対象とした栄養療法の基礎と理論について講義を行う「ONP(オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル)養成講座」を開始。

オーソモレキュラー.jp

http://www.orthomolecular.jp/

著書

「うつは食べ物が原因だった!」(青春出版社)
これまで、「うつ」と診断されてきた多くの症状。
原因は、脳の栄養不足にあった。
その仕組みを図解でわかりやすく解説するとともに、どのような食べ方をしてはいけないのか、どのような食品を意識的に食べればよいのかを紹介