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TALKIN’BOUT

優れた服薬指導で勝ち取る「患者評価」と「薬剤師の職能拡大」

株式会社オーラコンサルティング リードコンサルタント

若子 直也 先生

2001年 京都大学薬学部卒業 薬剤師免許取得
2003年 京都大学大学院薬学研究科修了 薬学修士
2012年 カナダ薬剤師免許取得

前回、日本とカナダの薬剤師の職能の違いについてお話しいただいた若子直也先生。2017年4月と6月に東京・大阪・名古屋・福岡で「これからの薬剤師の職能拡大と服薬指導の在り方」をテーマに、実践形式で学ぶセミナーを行っていただきました。

  • UNIV

    今回のセミナーでは、現役の薬剤師のみならず、薬学生も多数参加されていました。このセミナーを開催された経緯、そしてこれからの日本の薬剤師に伝えたい若子先生の想いとはどういったものなのでしょうか。

  • 若子先生

    2015年に厚生労働省が出した「患者のための薬局ビジョン」には、薬剤師が患者の健康を管理し、「医療者」という立場で役立って欲しいということが記されています。
    ただ、この様に目指す方向性が大きく示された一方で、今まで処方箋の計数調剤に専任、あるいはドラッグストアでの健康食品や日用品販売を主としてきた薬剤師の立場からすると、患者の健康相談、OTC対処、必要に応じた受診の勧奨、処方箋調剤と経過観察…と要請されることに対して、その準備どころか、戸惑いすら覚えてしまっているのではないでしょうか。

    色々な調査報告をみても、今現在日本の国民が薬剤師に抱いているのは、「これからの期待感」よりも、「現状の失望感や疑念の目」であり、なぜ薬剤師が必要なのか、なぜ薬局が必要なのか、理解が全く得られていないというのが実情です。

  • UNIV

    それでは、この実情を真摯に受け止めながら、薬剤師が評価される=患者の信頼を得る為にはどうすればよいのでしょうか?

  • 若子先生

    その為には、薬剤師が行っている唯一の対人業務である「服薬指導」のレベルを上げることが必要です。行政が「患者のための薬局ビジョン」の中でも宣言している通り、質の高い服薬指導を通じ、患者の服薬管理に役立ち、本当の意味で必要とされる薬局・薬剤師になることが必須なのです。

  • UNIV

    患者の信頼を得る服薬指導とはどのようなものでしょうか?

  • 若子先生

    実はまだ、日本の薬剤師の間ではっきりとしたコンセンサスが得られていないのが実情です。つまり、どんな服薬指導が本当に優れているのか、を測る指標自体がない訳です。
    これに対し、アメリカやカナダでは服薬指導の方式が法律によって定められています。服薬指導の中で、「こういった情報を患者から集めて、これだけの情報を薬剤師から伝えなければならない」ということが法令で決定付けられています。薬科大学での教育、オスキー形式の国家試験にも全てこれらが取り入れられ、ここを通過して初めて薬剤師として現場に出ることができます。つまり薬剤師の免許を取得したその時点から、患者の信頼を得る為の心構えと準備ができている訳ですね。
    日本では残念ながらまだこういった部分が体系立てられておらず、教育現場や薬科大学でも指導がなされていません。当然ながら国家試験で服薬指導の実技を課すという事もありません。知識面のみで試験をパス出来てしまうと、玉石混交と言いますか…実際に現場で服薬指導をする時になって、できる人もいれば全然できない人もいる、同じ人であってもうまくできる時とできない時がある、という事態が起こってしまうのです。

    これまでお話しした通り「これから求められる薬剤師」=「患者の信頼を得る薬剤師」になる為には今のままではいけません。常に一定以上の水準の服薬指導ができるように、日本でも早期の制度整備が必要だと強く感じています。
    私自身が日本の薬局で勤務した経験を踏まえながら、これからを担う薬剤師の皆さんに、まずはこのフレームワークを用いた服薬指導の方法を知っていただき、気付き、変わって貰いたいという想いから、このセミナーの開催に至りました。

  • UNIV

    「フレームワーク法」と呼ばれるオスキー形式の服薬指導を積み重ね、患者の信頼を得ることで、選ばれる薬剤師となるということですね。
    セミナーの参加者の皆さんは、実際にこの服薬指導法を体感されたのですよね?

  • 若子先生

    一般的に薬剤師は、自分の服薬指導を客観的に評価されたり、逆に評価したりするという機会に恵まれないので、他人のスタイルを見ても、なんとなく良さそう、なんとなく悪そう、という感覚に頼った評価しかできません。もちろん、具体的な副作用について伝え忘れがあった場合は的確に指摘もできるのでしょうが…。
    例えば添付文書にはたくさんの情報が書いてありますが、その中でも何を伝えなければならないのかという部分について、それぞれの薬剤師の認識に違いがあるのが実情かと思います。そこにはプロとしての各々の判断があるのは然りですが、「最低限押さえなければならない基準」を満たした上で、削いだり、肉付けする服薬指導であるべきだと考えます。
    この「押さえなければならない基準」に則ったフレームワーク方式の服薬指導では、ケーススタディの中で、一体何個の情報の伝え漏れが起こっていたのかを瞬時に見つけ出すことができます。今回のセミナーでも、このフレームワーク方式に則って服薬指導を行っていただき、参加者の皆さんも普段の服薬指導のスタイルとの違いに戸惑いながらではありますが、最終的には漏れなく綺麗で、聞いていて非常にわかりやすい服薬指導が行えていました。

  • UNIV

    フレームワーク法を体感された薬剤師の方々は、早速現場での服薬指導に活かされているのではないかと思います。
    先生からは以前、服薬指導はプレゼンテーションだと伺いました。聞き手側(患者)がどう受け取るのかということを意識しながら、的確な情報を伝える訓練が日本の薬剤師には必要なのですね。こういった取り組みを継続・拡大していくことで、薬剤師や薬局はどのように変化していくのでしょうか。

  • 若子先生

    常に分かりやすく論理的な服薬指導ができるようになれば、患者さんからの信頼を獲得しやすいのは間違いないですよね。これまで積み上げてこられた薬学的な基礎知識は既に十分お持ちのはずですので、あとは引き出し方、伝え方の部分のトレーニングなのだと思います。
    ポイントを押さえた服薬指導を心掛け、客観的な判断ができる薬剤師が増えてくると、薬局内でスタッフ同士がお互いの服薬指導を評価し合い、研鑽することもできるようになっていきます。「薬剤師が成長できる環境」が自然と醸成されていくのではないかと思います。

  • UNIV

    現場の薬剤師一人ひとりが目の前の患者さんの信頼を積み上げていくことで、健康相談やトリアージ、リフィルを通した長期処方管理なども現実味を帯びていきそうですね。カナダでは薬剤師がこの10年で、計数調剤を主としていた状態から、ワクチン接種や処方権の獲得まで職能を拡げた経緯も伺いました。これからの日本の薬局・薬剤師に求められることは何でしょうか。

  • 若子先生

    実は国民一人あたりの数でいうと、アメリカやカナダに比べて日本には2倍近くの薬剤師がいます。薬科大学も増え、薬剤師が余ってくる時代は、いよいよ現実味を帯びてきています。これからの時代に生き残り、勝ち残る薬剤師というのはやはり、患者から信頼を獲得できる薬剤師でしかあり得ません。
    これからは地域住民の健康を総合的に見る存在となっていくので、特定の診療科目に特化したような仕事をしていてはいけません。幅広い領域への勉強を絶やさないことと、培った知識をどう見せて(プレゼンテーションして)患者さんに理解・納得・信頼してもらうのかという、アウトカムの部分が重要です。薬局店舗としても行政や国民期待に沿って、処方箋を持たずに患者さんがどんどんやってくる、そういう場所作りを目指していくべきでしょう。

  • UNIV

    期待されている地域医療のゲートキーパーとしての存在感を発揮していく為に、薬局・薬剤師がこれから取り組むべき課題はまだまだ多くありますね。

    若子先生は現在、大学教授や社会薬学者の先生方との研究、海外の薬剤師が職能拡大するに至った経緯を分析報告する為の視察等、これからの日本の薬剤師の職能拡大に向けた行政への働き掛けにも奔走されていると伺っております。一層のご活躍を楽しみにしております。本日はありがとうございました。

~患者の信頼を勝ち得る為の心構えと実践~「これからの薬剤師の職能拡大と服薬指導の在り方」