薬剤師のための心と身体のスタイル提案マガジン ファーストネットマガジン

抗生物質・抗菌薬が効かなくなる未来に立ち向かえ!

みんなで取り組んでいこう!AMR対策

国立研究開発法人国立国際医療研究センター
AMR臨床リファレンスセンター

以前にも、このファーネットマガジンでスペシャルインタビューとして登場した国立国際医療研究センター。
今回は同センターにあるいくつかの部門の中でも、最近注目を集めている『AMR臨床リファレンスセンター』を取材させていただきました。

2050年には薬剤耐性菌による死者が1,000万人に

AMRとはAntimicrobial Resistanceの略で、薬剤耐性のことです。1928年にペニシリンを発見したアレキサンダー・フレミングは、1945年ノーベル医学生理学賞受賞講演の中で将来の薬剤耐性菌の出現を予言していました。その予言の結果は薬剤師であれば誰もがお分かりのように、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌や多剤耐性緑膿菌といった薬剤耐性菌が出現し、抗菌薬開発と耐性菌の出現のいたちごっことなり、フレミングの懸念通りとなりました。さらに近年では、先進国における主な死因が感染症から非感染性疾患へと変化し、1980年代以降、新たな抗微生物薬の開発は減少の一途をたどっています。そんな中、アーテスネート製剤に耐性を持つマラリア原虫の出現、多剤耐性・超多剤耐性結核(抗酸菌)の世界的な拡大など深刻な問題を引き起こしています。
2014年12月に英国から「2050年には薬剤耐性菌による死者が1,000万人になるだろう」との衝撃的な調査報告がありました。2015年5月の世界保健機関(WHO)の総会では、「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン」が採択され、加盟各国に2年以内の自国の行動計画の策定を求めました。日本においては、2016年2月9日に開催された関係閣僚会議において、「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針」の一部を改訂するとともに、アクションプランの策定等を盛り込んだ「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画」を策定しました。

AMR臨床リファレンスセンター センター長

大曲 貴夫先生

小学生から
AMRを勉強してもいいぐらい

  • AMR臨床リファレンスセンターについて教えてください。

    日本における薬剤耐性(AMR)アクションプランが発表されたのは2016年4月です。当センターは、そのアクションプランに基づく取り組みを行う目的で2017年4月に設立されました。主に、医療施設内での感染症や抗菌薬使用量など、AMRに関連したサーベイランス、国民へのAMRの啓発、医療従事者への学習機会の提供などを行っています。現在、私を含めて9人で運営しています。医師だけでなく、薬剤師もメンバーとして活躍しています。
    ところで、このポスターをご存知ですか?これは、厚生労働省が国民向け啓発用として作成したポスターです。機動戦士ガンダムとコラボレーションし、同作品の本編中の名セリフ「アムロいきまぁーす!」にかけて「AMR対策 いきまぁーす!」がキャッチコピーとなっています。当センターのホームページからもダウンロードいただけます。

  • AMRの課題について教えてください。

    一つは、一般の方向けと医療従事者への教育啓発です。たとえば、一般の方へのインターネット調査では、抗菌薬がウイルスに効くと思っている方は約50%、風邪で受診したら抗菌薬を処方してほしいと思っている方も約50%いるという結果でした。このような抗菌薬に対する認識を変えていかなければなりません。医療従事者向けには卒前・卒後教育ということになりますが、いっそのこと小学校ぐらいからやってもいいと思っています。薬の正しい扱い方から始まり、微生物について学習する学年になったら、菌と抗菌薬の関係とか、必要以上に薬を使うと効かなくなってしまうことがあるということを学習すれば、きっと国民の認識も改まってくると思います。
    もう一つは、地域医療での感染症治療の改善です。地域医療では、感染症の原因菌を同定するための検査がしにくかったり、患者の様子を常に観察できなかったり、これらを実施するための人的リソースに欠けていたりと、院内に比べ感染症治療のための環境が十分ではありません。在宅医療の現場でも訪問医は診断を下したいという思いはあるのですが、検査ができないために経験則からつい広域スペクトルの抗菌薬を使ってしまいます。薬局の薬剤師さんは地域住民に近いところにいると思いますので、ぜひとも地域の方々への啓発活動もしてほしいと思います。かかりつけ薬剤師指導料の算定要件である「地域活動」の一環として、AMRやその対策、抗菌薬に関する認識を深めるような勉強会などを開催していただくことは、地域住民にも薬局にも意義深いことだと思います。

AMR臨床リファレンスセンター 主任研究員

田中 知佳先生

自分次第でなんでもできる

  • 卒業してからのキャリアについて教えてください。

    私は、2014年に城西国際大学薬学部を卒業し、その後レジデントとして国立国際医療研究センターの薬剤部に入局しました。2年間のレジデントが終わり、2017年4月からAMR臨床リファレンスセンターで採用されました。レジデント2年目のときに、薬剤部長からセンターの話を持ち掛けられ、とてもワクワクしたことを覚えています。このセンターに来てからは、薬剤師ではなく研究員として活動しています。臨床ではなくサーベイランスやリサーチ業務です。全国の抗菌薬使用量のデータを集めたり、分析したりといった仕事です。国の事業としてやっているので、自分の作ったデータが国のデータとして活用されると思うと責任重大です。
    先日、都内の小学校で出張授業を行いました。センターの医師たちとともに感染症や抗菌薬について楽しく学べる授業です。「AMRClinical Reference Center(医療従事者向け)」というFacebookページを持っているのですが、そこに授業の様子も掲載されていますので、よかったらご覧ください。

  • ベッドサイド業務からデスクワークに切り替わったわけですが、そのあたりの気持ちの切り替えはどうされたのですか。

    センターに配属されて間もないころは、薬剤部や病棟での仕事の方が刺激的だと思っていました。それに4月のオープン時はまだ準備期間で事務的な作業に追われていましたので(笑)。ですが、臨床現場を離れると、正直に言うと気が楽になりました。生死にかかわらないので、精神的に楽だと感じます。さらにもっと正直に言いますと、私は薬剤師に向いていなかったのかもしれません。決してレジデント時代の仕事が嫌だったとか、臨床現場が嫌いだったというわけではなく、もっと自分に適した職業に出会えたから、相対的に“薬剤師に向いていない”と感じてしまうのかもしれません。薬剤部でのTDM業務を楽しいと感じていたので、きっと私は患者さんへの対応よりも数字やデータと向き合っているのが性に合っているのだと思います。

  • 薬剤師の職能拡大の可能性をどう感じていますか。

    先日、在宅医療を行っている薬剤師が薬局で菌を培養し、グラム染色をしているという話を聞きました。そういうことは臨床検査技師にしかできないこと、やってはいけないことだと思っていましたから、とてもびっくりしました。グラム染色によって感染症の起炎菌を絞り込み、その情報を処方医に伝えることで処方設計に関わることができるということに感動しました。
    「やったほうがいい」「やるべきだ」と感じたらどんどんやればいいと、この話を聞いてそう感じました。結局は自分次第なんだと痛感しています。

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AMR Clinical Reference Center(医療従事者向け)

AMR 啓発サイト

かしこく治して、明日につなぐ

抗微生物薬適正使用の手引き ダイジェスト版

送付をご希望の場合は、下記へご連絡ください。
メールアドレス:amr-crc@hosp.ncgm.go.jp

国立国際医療研究センター病院 薬剤部

赤沢 翼先生/足立 遼子先生

チームで仕事をするという意識が重要

  • 卒業してからのキャリアについて教えてください。

    赤沢

    私は当院の薬剤師レジデントの1期生でした。レジデント終了後そのまま薬剤部の常勤となりました。特にHIV感染症や腎臓内科の病棟を担当していました。現在は医薬品情報の担当として4年目を迎えています。TDM:Therapeutic Drug Monitoring(薬物治療モニタリング)も担当しているため、AST:Antimicrobial StewardshipTeam(抗菌薬適正使用支援チーム)にも関わるようになりました。

    足立

    国立病院機構の採用で当院に赴任することとなり、半年間は非常勤でしたが、その後常勤となり今に至ります。2年目にNST:Nutrition Support Team(栄養サポートチーム)かICT:InfectionControl Team(感染対策チーム)かのどちらかに携わることができることになり、大学院時代にTDMを研究テーマとしていたこともあり、ICTを選びました。ICTの中にASTが存在していて、ほぼ同じメンバーで活動しています。

  • ICTまたはASTとしての業務内容について教えて下さい。

    足立

    私は抗菌薬使用量の集計をしています。使用量データを加工し、院内での感染症治療効果の指標として利用するなどの情報提供を行っています。また、感染制御を目的に週に2回病棟や外来のラウンドをしています。病棟の水回りの清掃が行き届いているか、患者さんの点滴ルートの確保が正しく行われているかなどを抜き打ちでチェックしています。

    赤沢

    私はTDMが主体です。抗菌薬の投与設計をしたり、主治医と議論したりと個々の症例に対しての関りが多いです。

  • 薬剤師の持ち味を発揮できる場面はありますか。

    足立

    病棟をラウンドしていると、消毒薬の正しい使い方の指導や手指消毒剤、経腸栄養剤の管理など、薬が存在するところには何らかの関与ができると感じます。やはり医薬品に関する情報は他の医療職も熱心に聞いてくれますし、薬剤師の視点から積極的に情報提供しようと心がけています。

    赤沢

    特に消毒薬に関する情報は必要だと思います。医・看護のいずれも大学で十分に学習しないので、薬剤師の出番は多いと思います。

  • 感染対策や抗菌薬適正使用に関するチーム活動の中で苦労された点はありますか。

    赤沢

    コミュニケーションですね。薬剤師の専門知識を一方的に提供するのではなく、相手のニーズや考えを理解したうえでディスカッションしていくことやそのための時間の確保が必要になることだと思います。

    足立

    私は日本病院薬剤師会の感染制御認定を取得しているのですが、認定を持っている、すなわち感染症や感染制御の知識を持っていることが重要なのではなく、その知識を生かして医師らと議論するコミュニケーションスキルも併せ持っていることが重要なのだと考えています。やはり自分の考えを相手に伝えることは思った以上に難しいと感じます。だからやりがいも感じます。

  • 今後のご自身の成長課題を教えて下さい。

    赤沢

    臨床・教育・研究の3つを強化することです。臨床のことはもちろんですが、人への指導の仕方や論文にまで仕上げる技術といったことも伸ばしていきたいと考えています。

    足立

    感染対策は一人ではできません。他の職種をよく理解し、チームで仕事をするという意識が重要です。

    赤沢

    リーダーシップやマネジメント力が必要だと感じます。いわゆるビジネススキルです。当院はレジデント制度があるので、後進を育成することが日常業務の一つになっています。人を育てることを通して、そういうスキルや態度も養われていくのではないかと思います。

UNIVより

国立国際医療研究センターは、国際感染症センターやAMR臨床リファレンスセンターを有する感染症治療や感染症対策における国内トップクラスの施設です。そこで働く高度専門職となれば、いわゆる“お堅い人”を想像しがちですが、今回取材をさせていただいた4人の方はいずれもとても気さくで柔軟な思考を持たれた方々でした。

自分自身や自施設の成長・発展だけではなく、地域や社会をより良くしていきたいということを一様におっしゃっていました。国民にAMRを広めたい、地域の病医院を支援したい、保険薬局と連携したい、そんな想いが随所に感じられました。
『アムロいきまぁーす』の掛け声よろしく、読者の中ならAMR対策に乗り出す薬剤師が一人でも増えることを期待しています。