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カウンセライダー日並のこみコミ通信

第6回 カウンセライダー就活記

フリーで仕事を始めてからは、毎年この時期(年度末)に就職活動をします。私の仕事はほとんどが業務委託契約ですので、契約期間が1年となります。更新されるかどうかは分かりませんので、次年度の仕事を確保するための活動をしなければなりません。春は毎年、胃が痛くなる季節です。

この年度末は何十年かぶりに本格的な就活をしました。ハローワークで求人情報を探し、窓口で紹介状を発行してもらう、応募書類を作成し郵送する、指定された面接日に面接を受け合否を待つというものです。いつもは就職活動を支援する側ですが、支援される側の立場を経験しました。

私が今回目指したのは矯正領域です。再犯を防ぐために受刑者の就労を支援する仕事です。
ある応募先の面接を受けた時に、収容施設の中まで入るという経験をしました。応募人数が多く二つのグループに分けられ、私のグループは事務棟ではなく収容施設内の部屋での面接になりました。当然ですが生まれて初めての経験です…もし採用にならなければ最初で最後の経験になるはずです(笑)収容施設の入り口にある電子ロック式の頑丈な扉の前で、『携帯電話と煙草は持って入れませんのでロッカーに預けてください』と言われました。携帯電話の持ち込みを禁止するのは何となく分かりますが、タバコはなぜだろう、むしろライターの方が危険では?と疑問に思いましたが、理由は聞けず終いです。

施設に入って最初に感じたのは静かなことです。人が歩く音と台車の音、鉄の扉がドン!と閉められガシャンと鍵がかけられる音がするくらいです。大勢の収容者が居るようには感じませんでした。(後で聞いたことですが拘置所では裁判などで収容者は外出しているそうです)通路は真直ぐで視界を遮る物はなく、一目で見通せるようになっています。個室が並ぶ通路を歩く時に部屋の中を一瞬見ることが出来ました。蒲団が敷いてあるところしか見えませんでしたが、清潔感があり、収容施設に対して抱いていた印象とは違いました。

通路を進み階段を3階まで上り、案内されたのは学校の講堂のような部屋でした。舞台のような一段高い場所があり、窓には全て金属製の格子がはめられています。古い大きなストーブが置いてあり、机と椅子の他には何もない殺風景な部屋です。その部屋に着くまでにいくつかドアがありましたが、通る毎に開錠施錠し、私達が案内された部屋も施錠されました。ドアの横に施設の職員が座り、勝手に部屋から出ることは出来ません。
何だか監禁されたような気分でした。

その部屋で私を含めた10人くらいが順番を待ちます。お互いに言葉を交わすのも憚られ、ただ重~い空気の中で時間だけが過ぎて行くのをひたすら耐えていました。面接は別室で行われ、一人あたりの時間は15分~20分くらいです。日頃の模擬面接では面接官役しかしませんが今日は受ける側です。面接の雰囲気には慣れているつもりでしたが、部屋に入って面接官を見た瞬間に緊張感が一気に高まりました。相談の中で「面接では頭が真っ白になりました」とよく聞きますが、まさにその状態です。結局、質問の意図もよく分からないまま何とか必死で取り繕い面接は終わりました。

結果は全滅(涙)でしたが、就職支援を生業とする私にとって貴重な体験になりました。就職活動の相談に来られる方が、どんなことをどんな風に不安と感じるのか、何に一番疲れるのかを少し理解出来ました。支援者は相談者と同じ目線で、同じ土俵でと言いますが、同じ土俵の同じ場所に立つことが出来たと思います。

面接を受けてから結果を待っている間、ずっと携帯電話が気になっていました。普段は電話やメールが入っていても業務が終わるまでは気にしないのですが、面接を受けた後は四六時中携帯電話に神経を集中していました。これにはホントに疲れました。仕事の集中力も落ちていたと思います。
面接内容を思い返すと合格はありえないのですが、心のどこかに「もしかして…」という期待がありました。

相談者に「面接はどうでしたか」と聞いて「たぶんダメです」という答えなら、次の応募先に向けての行動を促します。ところが一向に動かないことがあります。私はその気持ちを理解出来ていませんでした。ダメだと思っていても心のどこかに期待があり、もうこれで就活は終わりにしたいという気持ちがあることに気づいてなかったのです。履歴書を書くのは本当に面倒で時間もかかります。面接を受けるのは物凄いエネルギーが要ります。
仕事に就くためには就活するしかありませんが、やりたくてやっている人はおそらく居ません。むしろ一番やりたくない事だと思います。そんな気持ちをリアルに感じることが出来ました。

今回の就活は、矯正領域という特別な分野であったことも含めていい経験になったとは思うのですが…やっぱり不採用は凹みます(苦笑)

<カウンセラーを対象とした勉強会でこんな質問をします>
相談者がドシャ降りの雨の中で傘もささずに立ちすくんでいます。あなたはその人にどんな風に接しますか?

傘をさしかけ『どうしましたか』と尋ねます、しばらく様子を見て変化がなければ何か声をかけます、『風邪を引きますよ』と部屋に誘導します、などの答えを聞きます。どれも間違いではありませんが、カウンセラーは“一緒にドシャ降りの雨の中に立つ”です。まずはその人の気持ちに寄り添う、そのためには出来る限り同じ状況を味わってみなければ“その気持ち”に気づけません。もしかしたら雨に打たれることは心地いいかもしれません。あるいは自分の何かを洗い流そうとしているのかもしれません。
相談者が今、何をどんなふうに感じてどんな気持ちなのかを知るのは本当に難しいことです。