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カウンセライダー日並のこみコミ通信

第20回 職業病

仕事で博多に行った時のことです。新神戸から新幹線に乗り込むと、指定席の隣には先客があり、窓際の席だった私はその方に挨拶をして奥に入れてもらいました。少し離れたところから見たその方の第一印象は『なんか違和感あるな』でした。席に座りホッとして新聞を読み始めると、何となく隣の挙動が気になり始めました。とにかく落ち着きがないのです。背もたれも倒さずに背筋をピンと伸ばし、きょろきょろと周りに視線を向けています。次の駅で下りる準備をしているようにも見えるのですが、その割には次々にお菓子を取り出し、カバンの中を覗き込んだりと、新幹線の指定席に座っているゆったり感がまるでありませんでした。

しばらくは新聞を読んでいたのですが、ふと隣からの視線を感じて悪い予感がしました。すると案の定話しかけてきたのです。お話によると目的地は新八代(熊本県)で、この列車で博多まで行き、そこで乗り換えをするとのことでした。私は新聞を読みながら時々相槌を打ったり返事をしたりしていましたので、それに気づいてか、『あ、すいません』と言って向こうから話を打ち切りました。ところがしばらくすると『どうぞ』とお菓子を勧めてくれて、それをきっかけにまた話を始めました。

『新聞を読みたいのですが』と断っても良かったのですが、私は新聞を畳んで『聴く姿勢』を取ってしまいました(条件反射かも)。そこからはほぼ途切れることなく話が続き、あっという間に小倉(博多のひとつ手前)に着きました。実母のところに行くこと、兄弟がいて遺産のことで自分が知らないことがあったこと、今は京都に住んでいること、ご主人の職業など延々とここには書けない貴重な個人情報を話してくれました。

その人がなぜ落ち着きがなかったかというと、博多で無事に乗り換えることができるかどうかが不安で不安で仕方がなかったからという理由でした。乗り換え時間は8分あるのですが、足が少し悪い自分が、はたして時間内に乗り換えることが出来るのか?乗り換えの列車のホームがどこだかわかるのか?が心配で落ち着けないということが分かりました。ですから小倉に着いた時には既に降りる準備を始め、まだ博多までは10分以上かかるのにもうデッキに移動してました。

アナウンスで乗り換えのホームは到着ホームの隣であることが確認できたので、十分に間に合うことを説明したのですが、自分が乗り換え列車に乗り込むまでは不安は去らないようでした。結局、乗り換えの列車まで一緒に行き、指定席に座るところを確認して窓越しにお別れしました。

その人は小倉で席を立つ時に『こんなに話聴いてもろたん初めてや』と言いました。私は心の中で「カウンセラーですから」とつぶやくと同時に「またやっちゃったよ」と思いました。新幹線の中で2時間、カウンセリングしてたんですね。
これって完全に職業病ですよね(苦笑)