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実践!薬局3.0レポート

第10回【特別編】在宅の現場より サン薬局・奈良健氏その1

今回は実践!薬局3.0レポートの10回記念特別編として、一般社団法人日本在宅薬学会バイタルサイン講習会のエヴァンジェリストで、株式会社サン薬局(神奈川県横浜市)の在宅薬物治療支援部長の奈良健氏にご登場いただきます。先生には、在宅療養に携わるようになったきっかけや、在宅現場の実際や今後などについてじっくりとお聞き致しました。

プロフィール

氏名
奈良 健
フリガナ
ナラ タケシ

株式会社サン薬局 在宅薬物治療支援部長
一般社団法人日本在宅薬学会 バイタルサイン講習会エヴァンジェリスト

奈良 健先生の写真

さて、まず先生の薬剤師としてのキャリアは病院からだったんですよね。

そうです。私は薬局薬剤師の息子に生まれ、患者さんと接する両親の姿を見て育つうちに、自然と薬剤師の道を志すようになりました。ただ大学卒業後に選んだ進路は病院薬剤師としての道でした。卒業時には、明るくお調子者のキャラクターだったこともあり、教授には製薬メーカーのMRを薦められたのですが、人の病気を治したい、そして白衣が着たいという気持ちが強く、病院薬剤師の道を選びました。

その病院薬剤師という職場はいかがでしたか。

もちろん自分の夢がかなって入ることが出来た職場ですから、意気軒昂に仕事に励んでいました。一つ、今でも印象に残っている思い出がありまして。ある日、脳外科のドクターに疑義紹介をかけたことがあるんですが、その時にドクターから「薬剤師は言われたとおりに薬を集めていればいいのだ」と一蹴されてしまったんです。その時はあまりの悔しさに男のくせに涙を流してしまいました。そしてそのことを薬剤部長に伝えたら、そこでも「お前は何をしているんだ」と怒られました。いったい自分は何のために薬剤師になったのだろうと、大変悔しい思いをしたことがあるんです。打たれ弱かったのですね。

そんな奈良先生が在宅医療に出会ったきっかけはなんだったんでしょか。

薬局に戻り、調剤薬局の薬剤師として日々の仕事を行っているうちに、そこでもなんとなくもやもやとした気分が起ってきました。毎日、正しく早く患者さんに薬をお渡しすることが主たる仕事の毎日。患者さんに何か聞かれても、「すみません、先生に聞いてください。」これが本当に自分が目指した薬剤師という仕事なのかと。確かに患者さんの声に耳を傾け、スピーディーに間違いのない調剤を行い、そして薬剤師としてしっかりとした服薬指導をして患者さんを送り出す。もちろん我々薬剤師にしか出来ない仕事であり、大変意義のある仕事ではありますが、何かが足りないのではないかと。何故なら、本当に患者さんのことが心配なら、お薬を渡したあと、それからどうなったのか。熱は下がったのか。痛みは取れたのか。そこまで気になって当然なのに、私が行っていたのは、その場限りの責任なんですね。その場限りというのは責任も軽くて楽ではありますが、何かが違うぞと思っていたわけです。そんな時に耳にしたのが狭間理事長の噂でした。

それはどういった経緯だったんでしょうか。

ある時、病院薬剤師仲間で飲んでいる時に、「薬剤師って聴診器が使えるらしいぞ」という話題になりました。そんなこと絶対にできるわけないだろうと思ったんです。薬剤師は患者さんに触ってはいけないと思っていましたし、まして薬剤師がバイタルを取ったりしたら怒られるに決まっていると。ただどうしても気になったのでお名前を聞いたところ、それが大阪の狭間研至先生だったんですね。そしてそれから1ヵ月後に狭間先生の講演を聞く機会に恵まれ、目からうろこが落ちたんです。自分がやりたかった仕事、そしてなりたかった薬剤師とは、正にこれだと。

そしてすぐに在宅を始められたわけですか。

いや、やはりすぐには踏み込めませんでした。私も在宅療養に携わるようになって3年経ち、様々なところでお話させて頂く機会が増えてきましたが、いつも参加者の皆さんに質問されることがあります。それは「うちの薬局は在宅なんて全くやっていないしノウハウも無いので出来ない」と。その時の私もまったく同じでした。そして、すごい話を聞いたもののうちでは無理だと思い、セミナー終了後すぐに狭間先生に質問しました。その時に狭間先生に言われた言葉が、「あなたがイノベーターになればいいんですよ」というものでした。考えてみれば、調剤薬局で在宅が盛んに話題に上がるようになったのはここ近年のことです。だれも踏み込んだことのない分野なのに前例が豊富にあるわけではないのは当たり前なんです。

サン薬局・奈良健氏の写真

そして先生自らイノベーターになろうと決心されたわけですね。

在宅に全く興味がない薬剤師さんには当てはまりませんが、興味があるのに踏み込めない人には共通していることがあります。それは皆さん、出来ない理由を考えているだけなんです。麻薬がないから出来ない。扱ったことがないし、届け出もしていない。設備がない。クリーンベンチがないから注射薬は扱えない。これらはすべて出来ないことの理由でしかありません。麻薬がなければ仕入れればいい。扱ったことがなくて不安であれば勉強すればいい。届出なんて書類を揃えて届け出ればいいだけのことです。設備にしても、なければ他の施設に共同利用させてもらえばいいのです。

それには在宅が大変手間がかかるという理由もあるのではないでしょうか。

もちろんそうだと思います。また実際に手間もかかれば責任も重くなります。先ほども申し上げましたとおり、現状では主として調剤薬局の業務は薬を渡すまでが仕事になっています。それと比べて在宅は、まず患者さんを見守り、しっかりと服薬指導をした上で残薬の管理も行ない、服薬の評価をした上でドクターや看護師に提案する。そのサイクルを日々行わなければなりません。それはつまり「患者さんの生活や人生に直接深く関わる」ことで、そこに覚悟がなければ出来る仕事では無いと思います。ただ、それこそが「医療者」ではないのでしょうか。薬剤師の皆さんが学生時代に目指された自分の将来像は、おそらくほとんどの方がそういった医療者であったと思います。

その2へつづく...

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