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実践!薬局3.0レポート

第17回【特別編】在宅の現場より 株式会社ファーマ・プラス 小黒佳代子氏その2

前回に引き続き、実践!薬局3.0レポートの特別編として、一般社団法人日本在宅薬学会バイタルサイン講習会のエヴァンジェリストで、株式会社ファーマ・プラス取締役の小黒佳代子氏にご登場いただきます。

プロフィール

氏名
小黒 佳代子
フリガナ
オグロ カヨコ

株式会社ファーマ・プラス 専務取締役 薬剤師
一般社団法人日本在宅薬学会 バイタルサイン講習会エヴァンジェリスト

小黒 佳代子先生の写真
  • U

    そして狭間理事長と運命の出会いをされたのですか。

  • O

    一緒に独立した現社長と二人で理想の在宅を求めて奮闘していた時、その空気についていけなかったのか、「こんなことどうしてやらなければいけないんですか?」と言われて社員に全員辞められてしまったことがありました。社長と二人っきりになってしまい、私たちは何か間違っているのだろうか?と迷っている頃、日本薬剤師会の長野での学術大会があり、そこで狭間理事長が執筆された書籍と出会ったのです。「薬剤師のためのバイタルサイン」という本ですが、学会からの帰り道に読んで衝撃を受けました。私たちの方向性は間違っていないと思いました。
    今でもこの書籍は私のバイブルです。いろいろな学会の書籍売り場に必ずと言っていいほど置いてあるので、ご興味のある方は是非手に取ってみてください。

  • U

    ということは最初はご本人ではなく本に出会われたのですね。

  • O

    はい。その後すぐにでも狭間理事長にお会いしたかったのですが、なかなか忙しくて時間が取れませんでした。なにしろ社員が全員辞めてしまった後でしたから。そしてしばらく経った頃、今度は派遣薬剤師に店を任せて、ようやく東京で行われたバイタルサイン講習会に出席出来たのです。その時の感動は今でも忘れません。狭間理事長のおっしゃるひと言ひと言が自分の中にしみ込んできて、強く背中を押して頂いた感じでしたね。
    現在では、10人以上の医師から訪問の指示を受けるようにまでなり、薬局の受付の半分近くが施設も含めた在宅患者さんです。そもそも在宅にしっかりと取り組んでいる薬局さんがまだまだ少ないですから、一所懸命取り組んでいると、あとはどんどん口コミで広がっていきました。

  • U

    実際の在宅の現場で、なにか忘れられない出来事はありますか。

  • O

    それはやはり、初めての本格的な看取りですね。その患者さんは元薬剤師で、奥様はその薬局で事務をされていた方でした。患者さんは末期のがんを患っておられ、ご自宅に訪問を始めた時は、私もまだ在宅の現場は駆け出しだったのですが、その時ご一緒した看護師さんの対応が実に素晴らしかったのです。狭間理事長の本にも書かれていましたが、看護師は逃げない。
    まさにその通りでした。在宅という限られた環境の中で、完璧に仕事をやり遂げようとする姿勢に圧倒させられました。患者さんのケアも含めて、対応のすべてが感動的でした。改めて、今までの私は「薬」しか持って行っていなかったと思い知らされましたね。ご主人が亡くなったとき、自宅に帰ってこられたのは皆さんのおかげですと、奥様からは大変感謝されました。そしてその命の現場を一緒に戦った看護師さんとは、今でも密接にお付き合いさせて頂いています。

  • U

    やはり在宅の現場はチームワークの上に成り立っているのですね。

  • O

    ドクター、看護師、薬剤師、ケアマネージャー、そして患者さんご本人とそのご家族、それらの人の気持ちをひとつにして病と闘っていく、そのことが尊いのだと思います。だから仕事を通して日々感動があり、薬剤師としてのやりがいを絶えず感じて仕事が出来るのではないでしょうか。ただ在宅に限らず、一番大切なことは薬剤師の仕事の本質を常に考えることだと思います。薬剤師の仕事は、処方せん通りに早く正確にお薬を用意することではありません。大学で学んだ知識に基づいて、患者さん個々にあった薬剤が選択されているか、効果がきちんと発揮されているか、副作用が生じていないか評価する…それが私たち薬剤師の仕事です。その薬は何のために調剤したのか。その向こうには必ず患者さんが控えています。そのことに思いを馳せて、初めて私たちの仕事が医療の一端を担うことになるのではないでしょうか。

  • U

    そのスキルも気持ちも、薬剤師の皆さんは、すでにお持ちかも知れませんね。

  • O

    必ずお持ちだと思います。私は今が人生で一番楽しいです。ものすごく忙しいですが続けられるのは、疲れは感じても日々それ以上の喜びを感じているからです。薬剤師はほぼ例外なく、患者さんのために何か役に立ちたいという気持ちを持っていると思います。だからそこから逃げずに真正面から向き合うと、見えてくる世界が違ったものに感じられるのだと思います。

  • U

    真剣に取り組んでゆけば、薬剤師が果たすべき役割はたくさんあるということですね。

  • O

    はい。今回の調剤報酬改定では、そのような薬剤師の働きが評価されるようになりました。在宅(居宅療養)患者訪問薬剤管理指導料が算定されている患者さんに対して、これまでは全ての業務がこの中に包括されておりましたが、今回より「在宅患者重複投与・相互作用防止管理料」が新設されました。患者さんの副作用や状態について確認し、薬学的視点から処方提案した内容が反映された場合や、残薬を調整した際に算定できるものです。他にも今回の改定で話題になっている「かかりつけ薬剤師指導料」及び「かかりつけ薬剤師包括管理料」など、様々な職責が国から期待されているのだと思います。私は、この調剤報酬の加算というのは積極的に算定して行かなければいけないと考えています。

  • U

    大変重要なことのようですね。

  • O

    例えば、国が方針を決定して設定した加算項目を、薬剤師や薬局が積極的に取って示していかないと、極端な言い方をすれば、薬剤師が仕事をしていないと思われても仕方がないとさえ考えています。よく「算定はしていないけれど訪問はしている」という薬剤師の方がいらっしゃいます。実は私の薬局でも、かつてボランティアで訪問している患者さんがいらっしゃいました。今までサービスでお届けに行っていたのに、今さら患者さんからお金を取れないというお気持ちはよく分かります。ただ必要な対価を頂かずボランティアでやる仕事は、どこかで無責任になってしまうものです。今さら取れないというのは言い訳に過ぎず、しっかりと算定していくことは自分自身に責任を課していくことと考えて日々の業務を行っていくことが大切だと感じます。

  • U

    それでは最後に、在宅医療に携わる、またこれから飛び込もうとしている薬剤師さんにひと言お願いします。

  • O

    「生きる喜びとは、人に必要とされる喜びである」ということに疑う余地は無いでしょう。そして在宅医療は間違いなく人に必要とされる行為です。それも患者さんの人生最期の時を一緒に過ごすことになるということもあり、重く尊い。ただその喜びを知らないから、踏み込んで来られない人が多いのだと思います。また一歩踏み込んでも、とことんまで追い求めない。薬剤師は真面目な人が多いのでので、格好をつけすぎなところがあります。在宅医療でも、処方提案でも最初から100点満点を取ろうとする。そして満点が取れそうでなければ、最初からかかわらない…でも満点取らなくても全然問題ありません。薬剤師の在宅なんて、まだここ数年の間に急速に広がってきた医療現場です。そんな現場で最初から満点は取れません。患者さんのために何かしたいという気持ちさえあれば、満点どころか及第点が取れなくても踏み込めばいいのです。そのために日々勉強するのではないでしょうか?日本在宅薬学会には、日々試行錯誤しながら頑張っている志の高い仲間が沢山いらっしゃいます。これからの超高齢化社会、今後の日本の医療を見据えて、少しでも多くの薬剤師が、医療人として私たちの仲間になってくれることを願ってやみません。

  • U

    小黒さん、本日はありがとうございました。