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実践!薬局3.0レポート

第21回【特別編】在宅の現場より 株式会社コム・メディカル 三浦雅彦氏その2

連載第2回目となる今回は、精神科の患者さまをメーンに在宅医療を行っている蔵王調剤薬局の管理薬剤師で、日本在宅薬学会バイタルサイン講習会エヴァンジェリストの三浦先生に、在宅医療の実際についてお伺いします。

プロフィール

氏名
三浦 雅彦
フリガナ
ミウラ マサヒコ

株式会社コム・メディカル
一般社団法人日本在宅薬学会
バイタルサイン講習会エヴァンジェリスト

三浦 雅彦先生の写真
  • UNIV(以下 U)

    まず、在宅医療の場で心がけていることや、精神科の患者さま訪問時の服薬指導などのコツについて教えてください。

  • 三浦先生(以下 M)

    精神科の領域において、服薬に対する薬の効果や副作用の情報を正しく拾い上げるには、患者さまの本音を聞き出すことが特に大切だと思います。
    そこでまず気をつけるのは着席する位置です。正面に座るのは避けるようにしましょう。真正面から対面すると、そこで相手が構えてしまい、壁ができてしまうためです。座る位置は患者さまの斜め45度の位置が最適です。

  • そして、何かを尋ねるときにはクローズドの質問をしないように心がけます。
    はい、いいえで返答できるクローズドの質問は、薬剤師が心の中で描いたシナリオに沿って相手が回答することで進んでいくので、薬剤師にとって都合の良いストーリーや患者像を作ってしまいがちになります。すると、患者さんの本音という、本来お伺いしたいことを見落とすという落とし穴に陥ってしまいます。

  • U

    患者さまの本当の気持ちを聞き出すことはとても難しいことに思えますが、三浦先生はどのようにしてお話を聞き出しているのですか。

  • M

    私の場合はまず雑談からはいり、前回訪問から今日までのできごとを1時間30分ほどかけてじっくりとお伺いするようにしています。

  • U

    薬物治療の効果や副作用を確認するために、1時間30分にわたってお話をするのにはどのような理由があるのですか。

  • M

    一言で申し上げると、ナラティブに基づいた医療(NBM:narrative based medicine)を実践するためです。
    ナラティブとは物語とかストーリーという意味で、NBMは患者さまが語る物語を医療従事者が聞き、受け止めて両者が良い関係を築くことで、問題解決に向けて満足のいく治療を行うことをいいます。
    この対話を通して、医療従事者である私たちは、患者さまの疾患に対する考え方、思い、効果や副作用の感じ方、現在問題に感じていることなど、治療に関する情報はもちろん、その方の生きざまや価値観などを共有し、点ではなく線で、包括的にその患者さまのことをとらえるようにするのです。

  • U

    NBMに基づいて、医療的な観点からのみではなく、さまざまな観点をもって患者さまお一人お一人に向き合ことは、どのように活きてくるのでしょうか。

  • M

    精神科の薬の効果や副作用は数値ではかりにくく、主観的なものが多く占めることを前回お話ししました。
    実は、これらの主観は、薬剤師を通すことで客観的な指標であるスコアなどに置き換えることができ、この置き換えの作業は、患者さまの服薬に対する効果や副作用を評価するために欠かせないと考えます。
    例えば患者さまが訴える「しびれ」という症状ひとつをとってみても、チクチクと刺すように感じのことを指す場合もあるし、正座をくずしたときの足のじんじんとした感じを指す場合もあります。
    そこで、薬剤師がNBMを通して患者さまの価値観を共有し、患者さまの訴えを客観的に判断して、医学的な評価をするための数値やスコアに置き換えます。NBMの実践はここに活きてきます。
    そして、その症状の強さ、性状、変化などをスコアに置き換えたものを、随時医師に報告し共有するようにしています。これは薬剤師にしかできない、薬剤師だからこそできる仕事だと思います。

  • U

    副作用なども発見しやすくなったのではありませんか。

  • M

    患者さまに寄り添う時間を積み重ねていくことにより、副作用などの患者さまのちょっとした体調の変化は見逃さなくなりました。
    また、私たち薬剤師の介入により、いずれの患者さまも服薬コンプライアンスも向上し、それによって良い副産物を得ることができました。第1回で自己調整をしてしまう患者さまのエピソードをお話ししましたが、こうした患者さまがきちんと服薬をするようになった結果、オーバードーズ気味になり、副作用を起こすことが比較的多くみられるようになったのです。

  • U

    オーバードーズで副作用を起こすことが、良い副産物なのですか?

  • M

    副作用を起こすことではなく、減薬するチャンスを得られたことが良い副産物なのです。この場合のオーバードーズによる副作用は、服薬コンプライアンスを遵守することによって、今までよりも少量で効果が得られるようになったから発現していると考えられます。すなわち、医師に減薬を提案する好機を得られたということになります。
    精神科はポリファーマシーの宝庫だといわれますが、患者さまと医師の両方に信頼という土台を作ったうえでの意見ならば、処方変更を促すことは可能だと実感しています。
    患者さまのなかには、今まで飲んでいた薬を減らすこと対し、不安を覚える方もいらっしゃいますが、きちんと薬を飲んでいるのに具合が悪くなったことを体験しているので、オーバードーズによる副作用だと納得してくれて、減量は非常にスムーズですし、医師も前向きに減量・減薬を検討してくれます。
    これは、患者さまのことを誰よりも身近で見守り、その結果を定期的にフィードバックするという日々の地道な行動と、信頼関係を積み重ねてきたおかげだと考えます。

  • U

    最後に、在宅医療への思いや今後の意気込みなどについてお聞かせください。

  • M

    在宅医療では、自分自身のやりがいよりも、患者さまが満足することを考えることが大切だと思います。患者さまの満足こそが、自分の満足であり、喜びだということを胸に、これからも日々、患者さまのもとを訪れることを続けていきます。