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実践!薬局3.0レポート

第24回【特別編】在宅の現場より 株式会社薬正堂 比嘉朋子氏 その2

今回は実践!薬局3.0レポート特別編として、一般社団法人日本在宅薬学会バイタルサイン講習会のエヴァンジェリストであり、株式会社薬正堂(すこやか薬局グループ)の薬剤師研修を担当されている比嘉朋子先生と、比嘉先生の研修を受けて在宅の現場で活躍している2年目薬剤師の屋良愛先生に、在宅医療等に必要な薬剤師力の育成方法や、在宅医療現場の実際、今後のビジョンについてじっくりとお話を伺いました。

プロフィール

氏名
比嘉 朋子
フリガナ
ヒガ トモコ

株式会社薬正堂(すこやか薬局グループ)
一般社団法人日本在宅薬学会
バイタルサイン講習会のエヴァンジェリスト

比嘉 朋子先生の写真
  • UNIV(以下 U)

    日本在宅薬学会のエヴァンジェリストとして、バイタルサイン講習会での講演をされていらっしゃいますが、どのようなことがきっかけでエヴァンジェリストを目指されたのですか?

  • 比嘉先生(以下H)

    2010年だったと思うのですが、「薬局に在宅訪問の依頼が来るようになったことに加え、フィジカルアセスメントを大学で学んだ6年制薬剤師の輩出が目前に迫っていたため、バイタルサインに関する研修を社内教育に組込み、現場で活用できるようにしないといけない」とリサーチをしていました。その際、ある医療系の雑誌で、在宅療養支援薬局研究会が「バイタルサイン講習会」を行っているという記事が目に留まり、すぐに受講申し込みをしました。

  • U

    受講してみていかがでしたか?

  • H

    狭間研至先生のバイタルサイン講習会は、バイタルサインの意味と手技のみを学ぶ講習会ではなく、なぜ薬剤師にバイタルサインの知識・手技が必要なのか、その手技を身につけてどう動くかということを考えさせれられる講習会でした。
    講習会が終わると、これからの保険薬局の進むべき方向性が見えてきたというか、目の前がパッと明るくなった気がしました。さらに、医師である狭間研至先生のお話は、薬剤師の強みである「薬理」や「薬物動態」「相互作用」の知識がチーム医療の中で要求されていると感じさせるものでした。
    大きく心を揺さぶられ、「さあ、動かなければ!」と一歩踏み出す勇気を頂きました。当初、社内研修にバイタルサイン研修を組み込み、現場で活用するために受講したのですが、「社内だけに留めておくのは勿体ない!もっと多くの薬剤師に講習会の内容を広めなければ!」と、妙な使命感が湧いてきたので、エヴァンジェリストになることを決めました。

  • U

    現在は在宅医療の拡大を国が推し進めていますよね。

  • H

    すこやか薬局では規模に差はありますが、ほとんどの店舗で在宅訪問業務を行っています。私が沖縄で開催したバイタルサイン講習会を受講してインストラクターになり、在宅訪問業務で活躍している薬剤師もいます。

  • U

    ここで、比嘉先生の研修を受けて実際に在宅訪問業務を行っている屋良先生のお話を伺いたいと思います。
    普段、在宅業務に取り組む中で大変なことはありますか?

  • 屋良先生(以下Y)

    在宅の現場では薬に関することだけではなくて、食事のことや介護のこと、細かい部分だとベッドのことなども聞かれます。薬局内では尋ねられることがあまりない質問が多くて。その都度、答えるためにいろいろ調べるので勉強になります。
    在宅訪問業務で関わった患者さんの中には、医師に処方提案した結果、薬の量を半分以下に減らすことができた方もいらっしゃいます。

  • U

    比嘉先生の研修の賜物ですね。

  • Y

    そうですね。今年の4月には比嘉先生のバイタルサイン講習会も受講しました。
    学生時代にフィジカルアセスメントの授業がありましたが、教える先生も「薬剤師はまだ患者さんに触れてはいけない」という考えでした。しかし、実際の臨床現場では、バイタルをチェックする為に患者さんの体に触れていたので驚きました。このような薬局で仕事をすることで、薬剤師として成長していることを実感しています。

  • H

    私は実務実習指導薬剤師もしているので、実習生に教える機会も多いのですが、「薬剤師の仕事はなに? 」と尋ねると、「薬を正しく調剤すること」といった薬に関する回答がとても多いです。もちろん、それも大切なことですが、薬剤師の仕事は「人の不安を取り除くこと」だと私は考えています。血圧測定や脈拍測定のために手に触れてもらうだけで安心するという患者さんはたくさんいらっしゃいます。
    在宅訪問業務の場合は、医師とは別の日に患者さん宅に訪問することが多いですよね。
    そこで自分が調剤した薬の効果や副作用の確認や、様子がおかしいと感じた場合に、バイタルチェックをして客観的なデータとして医師に情報提供できないと医療人として責任を果たすことができません。
    外来調剤も同じで、自分が調剤した薬の効果や副作用をチェックするために、薬局内で血圧やSPO2の測定をしたり、脈に触れたりしています。

  • U

    これまでの薬剤師の仕事観と大きく異なっていますね。

  • H

    保険薬局にとって「在宅訪問業務」は、「外来調剤業務」と同じで「するのが当たり前の業務」です。
    薬局は病院と違って、病気でなくても気軽に来ることができますよね。その特徴を生かして、地域の方が要介護状態にならないように活動しなければならないと考えています。
    今後、健康サポート薬局といった新しい名称の薬局もできてきますよね。健康サポート薬局は「かかりつけ薬局としての機能」と「健康の保持増進ができる機能」が備わっている薬局です。健康サポート薬局となるためにはバイタルチェックが必要不可欠です。地域の人々の健康を保持増進する為に健康相談を行うにしても、OTC販売時に受診の必要性を判断するにしても、症状の確認以外にバイタルチェックをすることが医療人として責任ある対応だと考えています。
    以前薬局に、「ペースメーカーを入れるために入院していました。退院後最初の受診です。」と話す患者さんの調剤をしました。服薬指導時に話を聞いていると、「体がだるくて近くの薬店に栄養剤を買いに行ったんだよ。そこに血圧計があったから測ってみると、脈が20しかなかったんだ。そこで薬剤師さんに病院に行くよう勧められたから、行ったらすぐ入院でね。驚いたよ」と話してくれました。そのときに、「栄養剤一つ販売するのにも、バイタルサインチェックをする必要がある!」と気づかされました。

  • U

    すべての薬剤師にバイタルチェックのスキルが必要なんですね。

  • H

    はい。バイタルチェックはもちろん、最近では検体測定室の登録をすると、薬局で「血糖値、HbA1c、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、GOT、GPT、γ-GTP」を測定することができますよね。これらを活用することで、薬局が地域のプライマリーケアの中心的な存在になれると考えています。地域の人々が「○○が気になるからちょっと薬局に行ってみよう」と相談にみえたとき、生活指導でいいのか、OTCなどの商品で対応できるか、すぐに病院に行ったほうがいいのかという薬学的臨床判断をするんです。ただ、そのためには症状だけではなく、客観的データがあった方が判断しやすいですよね。もちろん、薬剤師が診断することはありませんが、適切な場所につなぐためには、症候学をしっかり学ぶ必要があります。
    すこやか薬局では毎月1回、薬学部の教授にお越しいただき、症候学の講義をして頂いています。この知識は、「外来調剤業務」「在宅訪問業務」「OTC販売」といったすべての薬剤師業務に必要不可欠です。
    難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、保険薬局の仕事はやりがいが増していって、さらに面白くなりますよ。

  • U

    「病院ありき」というこれまでの薬局のイメージが大きく変わりそうですね。薬局が地域のプライマリーケアの窓口となれば、国が期待している医療費の削減にも繋がりそうですね。それでは最後に薬剤師の皆さんに一言お願いいたします。

  • H

    薬局薬剤師ができることはたくさんあります。さらに、やるべきことはもっとたくさんあります。特に在宅訪問業務では自分が関わった患者さんが亡くなることも多いですよね。亡くなられた後に、患者さんや家族の方の顔が浮かび、「もっとこうしておけばよかった......
    と後悔したことはないですか?私は、やるべきことを全部やりきって、後悔しない仕事がしたいです。
    エヴァンジェリストの活動を通じて、同じ気持ちを共有できる仲間が増えることを願っています。

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