日本学生支援機構の奨学金を利用するには卒業後の返済を保証する「保証制度」の選択が必要になります。
保証方式には「人的保証」と「機関保証」の2つがあり、いずれかを必ず選択しなくてはなりません。しかしながら、奨学金利用者の中には、どちらの方式を選択したのかを覚えていない人もいます。
奨学金利用者の7割が高校3年生の時点で申し込んでいる現実から考えると、申請時には書類を用意することばかりに意識が奪われてしまい、奨学金の案内書をキチンと読み込まないまま過ぎてしまっているのでしょう。
確かに奨学金の案内書の記載内容は複雑であり、常用の言葉ではなく初めて目にする用語が多いため、普通の人には理解しづらいものとなっています。
とは言っても、日本学生支援機構の奨学金は一般的な金銭消費貸借契約とほとんど変わらないので、何かあったときに「知らなかった」では済みません。
今回は、奨学金の最大のリスクと言える保証制度について考えたいと思います。
■2つの保証方式の意味 先に触れた「人的保証」と「機関保証」の内容を分かりやすく解説します。
<人的保証>
・保護者が連帯保証人となり、さらに奨学生から4親等以内の親族が保証人となる。
・奨学生の返済が滞った時、連帯保証人、保証人の順に返済責任を負う。
<機関保証>
・連帯保証人、保証人の選定が不要。
・保証機関への保証料の支払いが必要。
■それぞれの保証方式のメリットとデメリット
人的保証では、保証料など余計なお金を支払う必要はありませんが、もし奨学生が自己破産したとしても、連帯保証人である親、保証人である親戚の順に返済が求められます。
最悪のケースでは、本人、親、親戚の三者が法的措置を取られる可能性があるのです。
一方、機関保証は、連帯保証人と保証人の選定が必要ないので、奨学生本人が自己破産しても、親や親戚が巻き込まれることはありません。しかし、在学中に支払う保証料が決して安いと思えるものではないことを忘れてはいけません。
■奨学金の保証料の目安(奨学金を6年間借りた場合)
毎月の保証料を調べてみました。
当然ですが、貸与月額が大きくなるほど保証料も高くなります。
貸与月額 | 月額保証料 | 6年間合計 | ||
---|---|---|---|---|
国公立大学 | 自宅生 | 45,000円 | 1,901円 | 136,872円 |
自宅外生 | 51,000円 | 2.247円 | 161,784円 | |
私立大学 | 自宅生 | 54,000円 | 2,379円 | 171,288円 |
自宅外生 | 64,000円 | 2,820円 | 203,040円 |
貸与月額 | 月額保証料 | 6年間合計 |
---|---|---|
30,000円 | 1,160円 | 83,520円 |
50,000円 | 2,618円 | 188,496円 |
80,000円 | 4,188円 | 301,536円 |
100,000円 | 5,236円 | 376,992円 |
120,000円 | 6,283円 | 452,376円 |
140,000円 | 7,337円 | 528,264円 |
毎月の保証料は奨学金の貸与月額のおおよそ5%程度と考えればいいでしょう。
保証料は、毎月支給される奨学金から天引きされる形で支払うので、奨学金の手取り額が少なくなってしまいます。
この表を見ると、奨学金の貸与月額が8万円を超えると6年間で支払う保証料の総額が30万円以上となることがわかります。30万円と言えば私立大薬学部の入学金に相当する金額です。
学費の高い薬学部生にとっては、例え1万円でも節約したいと思う人は多くいるはずです。
次に、人的保証と機関保証の年度別の選択割合の推移を見てみます。
年度 | 人的保証 | 機関保証 |
---|---|---|
2016 | 58.8% | 41.2% |
2015 | 56.5% | 43.5% |
2014 | 53.7% | 46.3% |
2013 | 52.0% | 48.0% |
出所:日本国際教育支援協会「機関保証制度に対するアンケート調査結果」H29年3月
これによると、奨学金利用者の半数以上が人的保証を選択しているうえ、人的保証の比率が年々上昇していることがわかります。
■保証制度のそれぞれのデメリットを比べてみる
<人的保証のデメリット>
奨学生本人が返済できなくなった時には、連帯保証人である親、保証人である親戚が返済を求められ、場合によっては本人・親・親戚の3者が共倒れになる可能性がある。
<機関保証のデメリット>
決して安いとは言えない保証料が毎月の奨学金から天引きされる。
この保証制度は、いずれも一長一短があり、正直なところ、正解のない選択項目だと思いますが、万が一の時のリスクから考えると、人的保証の方がデメリットは大きいかもしれません。
しかし、機関保証の見えないリスクも理解しておく必要があります。
■機関保証の見えないリスクを理解すること
機関保証では、仮に本人が返済を滞らせても親や親戚に迷惑を掛けることはありません。
しかし、忘れてならないのが、本人の返済が免除される訳ではないということです。
長期間滞納が続くと、奨学生に代わって保証機関が日本学生支援機構に一括で弁済してくれますが、その後保証機関から、本人に一括返済を求めて法的措置が取られる可能性があります。
自己破産すれば残りの債務は帳消しになるでしょうが、そうでなければ、結局は返済しなくてはならないということです。
機関保証とは、親と親戚に加えて、日本学生支援機構を守るための制度だと私個人は考えています。
■進学した後、保証制度は変更できない
保証制度変更の最後のチャンスは大学入学直後に行う「進学届」時となっています。
連帯保証人や保証人が亡くなるなどの止むを得ないケースを除いて、在学中あるいは卒業後に保証方式を変更することができないのです。
薬学部への進学を考えている高校生や浪人生は、大学入学までに親子でじっくりと保証制度について話し合ってください。
既に在学中の薬学部生、若手薬剤師の方は、選択した保証制度の内容と注意点を改めて理解し、賢く奨学金の返済に努めて欲しいと思います。
- 久米忠史 先生
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奨学金アドバイザー
株式会社まなびシード代表
http://www.shogakukin.jp/1968年生まれ 和歌山県出身
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間100回を超える。
「奨学金なるほど!相談所」では、無料メール相談も行っている。【著書】奨学金 借りる?借りない?見極めガイド
【著書】子どもを大学に行かせるお金の話
【連載】All About(オールアバウト)「大学生の奨学金」
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