ほとんどの奨学生が利用している日本学生支援機構奨学金は、返済を滞らせるといくつかのペナルティーが発生することを第4回目のコラムで解説しました。
では、実際に奨学金を利用している学生の理解度はどうなのでしょうか。
日本学生支援機構では、奨学金の返済に関する調査を毎年行い、その結果をホームページ上で公表しています。
今回は、それらのデータをもとに奨学生の実態を考えてみたいと思います。
■日本学生支援機構奨学金「平成27年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」 同調査では、延滞者と無延滞者の2つのグループに分け、様々な質問項目ごとに結果をまとめています。
ちなみに、平成27年度末時点で返済を要する人は3,811,494名であり、そのうち3ヵ月以上の延滞者は164,635名(4.3%)と報告されています。
3ヵ月以上滞納すると自動的にブラックリストに登録されるので、返済者の4%以上がカードやローンの審査が通らないなど、社会生活で不自由が生じている可能性があります。
滞納の理由は、「家計の収入が減った」が76.1%(複数回答可)で最も高く、次に「家計の支出が増えた」50.9%と続き、当然ですが、経済的問題が滞納の最大原因となっています。
しかし、経済的な問題が生じたのであれば、返済猶予などの救済制度が申請できる事実を見逃してはなりません。救済制度が認められると、そもそも滞納者にカウントされません。
同調査では、救済制度の認知状況についても報告されており、延滞者と無延滞者の間に大きな開きがあることがわかります。
■返還猶予制度を知ったタイミング(延滞者・無延滞者)
①奨学金の申込から返済が始まるまでに知っていた
延滞者4.4%/無延滞者32.8%
②延滞督促を受けてから知った
延滞者46.7%/無延滞者2.2%
奨学金の返済が始まるまで救済制度の存在を知っていた人は、延滞者では100人中4人、無延滞者では100人中32人になります。
気になる点は、延滞者の半数近くが、延滞督促を受けてから初めて救済制度を知ったと答えていることです。
延滞金やブラックリスト登録などの滞納時のペナルティーや返済が厳しくなった時の救済制度については、奨学金を申請する際の案内書にキチンと記載されています。
確かに、専門用語や難しい表現が多く、一読しただけでは内容を理解することは難しいとは思いますが、もしもの時に困るのは自分自身や親と親戚なのでじっくりと読み込むことが大切です。
奨学金は希望すればほとんどの人が借りられるものですが、滞納時のペナルティーは通常の金融商品とほとんど変わらないということを忘れないで欲しいと思います。
しかしながら、ほとんどの奨学生が基本的なことさえ理解せずに奨学金を利用している姿が別の調査から浮かびあがっています。
■ほとんどの大学生が最低限のことも理解していない 奨学金の滞納問題に取り組み、制度の在り方を提言している「愛知県 学費と奨学金を考える会」が奨学金を利用している現役大学生1000人以上にアンケートを行いました。
<現在利用している奨学金に関して自身が把握していない項目>
① 返済総額 62.6%
② 返済月額 82.4%
③ 返済年数 80.3%
何かをローンで買ったとして、毎月の支払い額や支払い回数を気にしない人はいないはずです。これは金融教育という大袈裟なものではなく、常識の範囲の話だと思います。
しかしながら、このアンケート結果を見ると、ほとんどの大学生が最低限度のことすら理解せずに奨学金を利用していると指摘されても仕方ありません。
現在、奨学金利用者の7割以上が高校3年生の時点で申し込んでいるので、自身が背負う借金であるという意識が薄いまま、学生生活を送っているのかもしれません。
奨学金の貸与月額はいつでも変更できます。特に毎年行う継続手続きは、自身の奨学金の貸与額を見直すいい機会です。
あたり前ですが、奨学金の借入額を少なくすると、卒業後の返済月額や返済年数もそれだけ小さくなります。
冒頭の日本学生支援機構の調査に戻って、興味深い項目をもう一点紹介します。
奨学金を申請する際に誰が書類を作成したかを質問した項目です。
■奨学金申請にあたっての書類作成者
①本人
延滞者31.9%/無延滞者56.1%
②親や家族
延滞者39.7%/無延滞者19.4%
①②ともに延滞者と無延滞者の間に20ポイント以上もの開きがあります。
一言でいってしまえば、奨学金の申請を人任せにしていたかどうかが、滞納率に表れているのでしょう。
これは奨学金というよりも、進学に対する本人の意識の差といえるかもしれません。
薬学生は文系学生などと比べると、真面目に学修に取り組む人が多いと感じています。
そういう意味では、今回紹介した調査結果がそのまま薬学生全般にはリンクしないとは思います。
しかし、他学部に比べて学費が高額な薬学生の卒業後の返済負担は大きなものになるので、年に1回の奨学金継続時には手続きだけに気を取られるのではなく、奨学金の仕組みを理解し直す機会にして欲しいと思います。
- 久米忠史 先生
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奨学金アドバイザー
株式会社まなびシード代表
http://www.shogakukin.jp/1968年生まれ 和歌山県出身
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間100回を超える。
「奨学金なるほど!相談所」では、無料メール相談も行っている。【著書】奨学金 借りる?借りない?見極めガイド
【著書】子どもを大学に行かせるお金の話
【連載】All About(オールアバウト)「大学生の奨学金」
奨学金アドバイザー久米忠史先生 無料メール相談
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