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薬剤師が奨学金返済のために知っておきたい12のこと

第8回 薬学生・若手薬剤師が考えるべきことと奨学金制度のこれから

日本学生支援機構は日本育英会から奨学金事業を引き継ぐ形で2004年に設立されました。
日本学生支援機構になって大きく変わった点が、国の奨学金が「金融事業」に位置付けられたことです。

日本育英会時代の奨学金は、言わばエリートを育成するための“優秀な学生のための特別な制度”でした。そのため、繰り上げ返済すれば残額が免除されたり、教職や研究職に就くと返済が免除されるなどの優遇特典がありました。

しかしながら、日本学生支援機構では、大学院生向けの一部を除き、それらの優遇特典は全て廃止されました。

■奨学金滞納問題の顕在化 日本学生支援機構の奨学金は実質学生ローンであり、卒業後、長い年月をかけて返済しなくてはなりません。経済が順調に成長していれば返済負担も問題にならないでしょうが、非正規雇用の増加やブラック企業の出現など不安定な雇用環境となったため、奨学金の返済負担が社会問題としてクローズアップされるようになりました。

■高騰した学費、特に負担が大きいのが私立大学の薬学生 国公私立大学ともに学費は上昇を続けた結果、現在では約30年前と比べて2倍程度に高騰しています。特に学費の高い私立大学の薬学生は大変です。そのため、普通の家庭に育った薬学生にとって奨学金が必要不可欠な存在となっています。

文部科学省によると、2016年度の私立大学の初年度納付金が過去最高額となりました。
年間の授業料が高かった学部の順番を同調査からみると、歯学部(3,167,038円)、医学部(2,736,813円)、薬学部(1,437,492円)とのこと。

㈱ユニヴのセミナーに参加された方のアンケートによると、奨学金の貸与総額が700~1000万円未満の方が28%、1000万円以上の方が41%となっており、実に7割の方が700万円以上借りている実態が浮かび上がっています。

医学部や歯学部は学費が高額であっても、その後の年収を考えると投資に見合う資格と言えますが、薬学部については果たしてどうだろうか、と正直なところ疑問を感じています。

薬学生や若手薬剤師の方々とお会いし、奨学金の返済負担が最も大きいのが彼らや彼女たちであると実感しました。

■奨学金の救済制度が適用されない“薬剤師” 日本学生支援機構には、返済が厳しくなった人のための救済制度が用意されています。
返還期限猶予・・・最長10年間返済を待ってもらえる
減額返還・・・・・毎月の返済月額を1/2または1/3に減額し倍の期間で返済する

しかしながら、これらの救済制度を利用するには収入基準が設けられており、返還期限猶予(年収300万円以下)、減額返還(年収325万円以下)となっています。

休職中などであれば申請できますが、現役の薬剤師で年収325万円以下というのは現実的には考えられないので、薬剤師にとっては日本学生支援機構の救済制度は絵に描いた餅にしかならないのです。

■待遇の良い職場に勤め、繰り上げ返済することが現実的な防御策 現時点では日本学生支援機構の奨学金は返済の猶予はあっても免除の制度はありません。そのため、いつかは返済を終えなければなりません。

現在、薬剤師業界は人手不足のため、売り手市場です。
そのため、人材確保の有効手段として、奨学金の返済支援や薬学生向けの奨学金を設ける企業が増えています。留意するべき点は、これらの支援制度がいつまでも続く保証はないということです。

企業は常にコストを意識しているので、人手不足が解消されると、そのような支援制度を設ける企業は少なくなっていくことでしょう。

そう考えると、人手不足の今こそ、より良い条件と出会うチャンスだと言えます。
奨学金の繰り上げ返済に努め、返済の目処がたった段階で、キャリアアップを目指して転職すればいいと思います。

■教育事業から金融事業へ、そして迷走する国の奨学金 日本育英会時代の奨学金は、言わば国の“教育事業”でした。その後、日本学生支援機構となってからは“金融事業”に位置付けられたことは冒頭で述べました。

しかしここに来て、金融事業となった奨学金を見直そうという動きが急速化しています。
安倍政権の重要政策である「人づくり革命」では、給付型奨学金の拡大や大学の学費無償化が議論されています。

決して十分な予算規模とは言えませんが、平成30年度の入学者から返済不要の給付型奨学金が導入されました。国公立大学(自宅生2万円/自宅外生3万円)、私立大学(自宅生3万円/自宅外生4万円)と、学種や通学環境によって給付月額が異なります。ただし、その対象は住民税非課税世帯などと特に経済的に厳しい家庭に限定されています。

言わば、国の給付型奨学金は、低所得世帯、生活保護世帯への福祉事業的な性格の強い取組みです。

その一方では、同年度の入学者からは無利子奨学金を利用できる収入基準が引き下げられることになりました。簡単に言うと、無利子の奨学金はこれまでよりも借りづらくなるということです。

金融事業に位置付けられた国の奨学金が、再び教育事業へ回帰するのか、それとも新たな方向性に位置付けられるのか。これは、これからの大学の在り方も含めて議論されなければ結論は出ないと思います。

■薬科大学と奨学金制度のこれから 教育業界では2018年問題と呼ばれていますが、今後18歳人口の減少が長期的に続きます。
現時点でも私立大学の4割が定員割れに陥っており、文部科学省では国公私立の垣根を超えた大学の統廃合の検討が始まっています。

その中でも、私立大学の薬学部は大学間の定員充足率の格差が大きく、今後は募集停止や閉校が増えてくる学部であるとの指摘もあります。

では、奨学金はどうなっていくのでしょうか?
東京オリンピックが開催される2020年以降が、奨学金制度の転換点となると思われます。

現在、有識者会議では「所得連動返還」と呼ぶ学費の後払い制度が議論されています。
これはイギリスやオーストラリアで導入されている制度で、学生の代わりに国が学費を一旦立て替えて大学に支払い、卒業後から返済を行う“学費の後払い方式”です。

収入が一定基準を超えるまでは返済は猶予され、収入に応じて返済月額が調整されるので低収入の方の負担が軽減されます。

一見良いことばかりのようですが、制度の設計如何によっては、必ずしも良いことばかりではないと思っています。

確かに、入学金等の現金納付が必要なくなるので、保護者の負担は激減します。
しかしながら、卒業後から返済を行うことになるので、実質は現在の奨学金の返済とそれほど変わりありません。むしろ、大学に現金を納める必要がなくなることで、学費が上昇するのではないかと危惧しています。

これから薬学部を目指す学生にしてみれば、卒業するまでに制度が大幅に変わる可能性があります。大学選びとお金の対策……学費の高い私立の薬学部だからこそ、冷静で慎重な背進路選択が大切だと思います。

久米忠史 先生
久米忠史 先生
久米忠史 先生

奨学金アドバイザー
株式会社まなびシード代表
http://www.shogakukin.jp/

1968年生まれ 和歌山県出身
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間100回を超える。
「奨学金なるほど!相談所」では、無料メール相談も行っている。

【著書】奨学金 借りる?借りない?見極めガイド
【著書】子どもを大学に行かせるお金の話
【連載】All About(オールアバウト)「大学生の奨学金」

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