これまで5回にわけて、奨学金のポイントと注意点などについて解説してきました。
最終回では奨学金制度の今後の方向性について考えてみたいと思います。
メディアを通じてご存知の方も多いと思いますが、平成29年度から日本でもようやく給付型奨学金が創設されることになりました。
世界的な基準からみると、日本は子どもの進学費用に対する家庭の負担率が高く、さらに先進国の中で唯一給付型奨学金を持たない珍しい国といえます。
新たにスタートする給付型奨学金により、多くの学生の負担が減るのか?
残念ながら、答えはNOです。
というもの、対象となる適用範囲がかなり限定されているうえ、給付額も大きくないので、これまで同様、貸与型奨学金を中心に事業は運営されることになるでしょう。
しかし、奨学金制度に関して国が一歩を踏み出したことについては素直に評価すべきであると考えます。
◆新たに始まる給付型奨学金制度の内容
<対象学校>
大学、短期大学、高等専門学校、専門学校
<対象学生>
住民税非課税世帯の学生
※収入基準目安
・夫婦+子ども1人(高校生)世帯で年収221万円
・夫婦+子ども2人(中学生・高校生)世帯で年収273万円
・ひとり親+子ども1人(高校生)世帯で年収204万円
・ひとり親+子ども2人(中学生・高校生)世帯で年収260万円
<給付月額>
国公立自宅生(2万円)、国公立自宅外学生(3万円)、私立自宅生(3万円)、私立自宅外生(4万円)
対象を「住民税非課税世帯」としている点から考えると、今回の給付型奨学金はどちらかというと福祉的な要素が強いといえます。
また、約5,000校ある全国の高校に最低1名の採用枠を振り分け、残りの枠数を高校ごとの非課税世帯数をもとに配分するので、沖縄県など所得の低いエリアほど相対的に枠数が多くなるでしょうが、狭き門となることは明らかです。
採用された家庭にとっては有難い制度だと思いますが、その給付額から考えると、貸与型奨学金との併用は避けられないと思います。
貸与型奨学金は返済が必要ですが、その返済方法についても新たな制度が始まります。
◆新・所得連動返還奨学金
日本学生支援機構では返済が厳しい人に対して、「返還期限猶予」「減額返還」「所得連動返還」と3種類の救済制度を用意してきましたが、今回新たに「新・所得連動返還」制度が設けられます。
これまでの「所得連動返還」は、奨学金の申請時点で保護者の収入が一定基準以下の学生が卒業後に一定基準の収入を超えるまでは無期限に返済を猶予するといった、複雑で中途半端な内容でした。
今回の「新・所得連動返還」は、本人の収入の9%を基準に返済月額を最低2000円まで調整し、低収入の方の負担を軽減するという仕組みです。
ただし、猶予であって免除ではないので返済年数は長期化しますし、無利子の第一種奨学金のみが対象となっています。
◆若い世代に目を向け始めた日本の政治
政府によるこれらの取り組みは、先行き不透明な社会のなかで不安を抱える若者世代に配慮した施策といえます。
急速に進む少子高齢化時代において働き手世代の活躍や選挙年齢の18歳への引き下げなど、政治家が若者世代を軽視できなくなったことも影響しているのでしょう。
これまで後回しにされてきた進学費用に対する家庭の負担軽減に国が取り組み始めたことは、教育政策の転換期に入ったといえます。
一方では国に先立ち、地方自治体や民間企業では奨学金の返済支援に取り組む動きも広まっています。
◆自治体や民間企業の取り組み
現在、地方から都市部への人口流入が社会問題となっています。
高齢化率の高い地方ほど、若者世代の流出は地域の衰退に直結します。
そこで、地方へのUターン、Iターン就職を条件に、奨学金の返済を肩代わりするなどの施策を掲げる自治体が増えています。
また、人材確保のために、同様の仕組みを設ける民間企業も増えています。
◆若手薬剤師こそ、支援制度を上手く活用して将来設計を
私立大学薬学部で奨学金の最大額を6年間利用すると、なんと貸与総額は約1,500万円。
卒業後から、月々7万円の返済が20年間も続くことになります。
比較的待遇の良い薬剤師とはいえ、大きな負担となることは明らかであり、結婚や出産など将来設計のための障壁になりかねません。
薬剤師の分野でも多くの調剤薬局やドラッグストアが、前述の民間企業と同様に奨学金の返済支援制度を設けています。
聞いた話では、年収800万円を3年間保証する企業もあるようです。
第5回目のコラムでも書きましたが、賢く繰り上げ返済することが奨学金返済の重要なポイントです。
それらの制度を活用して返済負担を軽減したのち、自身が望む働き先に転職するなどして上手くキャリアアップに繋げてほしいと思います。