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スポーツと医療、2つの軸で地元広島の活性化に貢献

岡崎修司さん

薬剤師/広島ドラゴンフライズ ゼネラルマネージャー/株式会社GRIT代表取締役

1990年広島県生まれ。広島大学薬学部在学中にプロバスケットボールチーム「広島ドラゴンフライズ」に入団、薬学生・薬剤師とプロ選手の二足の草鞋を履いて活躍。現役引退後は薬剤師として働きながら同チームのアンバサダーに就任、現在はゼネラルマネージャーを務める。自身が代表を務める薬局経営者の一面も持ち合わせる。

Bリーグのシーズン真っ只中、快く取材を引き受けてくださった岡崎さん。クラブ運営と薬局運営どちらもこなす強い推進力の背景には、常にベストな選択を行う決断力と、困難に前向きにチャレンジするタフさがありました。

薬学生・薬剤師とプロバスケットボール選手の両立。

―まずは薬剤師になろうと思ったきっかけを教えてください。

小学生の頃に祖母が入院した際、医療従事者の方のテキパキした働きぶりに大きな魅力を感じました。その中でも、一番身近だった薬について知りたいと思ったことなどが理由で薬剤師を目指すようになりました。

 

―その頃から薬剤師にもバスケットボールの選手にもなりたいと思っていたのですか?

そうですね。当時は両立するとは思っていませんでしたが、バスケもしたいし薬剤師の仕事もしたいと思っていました。
バスケは小学校5年生から始めました。本当に自分が憧れのプロ選手になれるのかと半信半疑でしたが、大学在学中に、当時広島ドラゴンフライズが発足したタイミングで自分からトライアウトを受けたことがきっかけで入団することが叶いました。

 

―大学を選ばれるときはバスケットボールと薬学部どちらが優先でしたか?

完全にバスケが優先でした。もともと大学では薬学部のあるチームに入りたいと思っていて、広島大学が中国・四国エリアで一番強いチームだということは知っていました。少し雑な言い方かもしれませんが、薬剤師国家資格を取るという目的だけを見れば薬学部はどこの大学へ入っても同じです。ですが、薬学部があってバスケも強い大学はなかなかありません。そういう理由で、優先度はバスケの方が高かったですね。広島県外へ出る選択肢ももちろんありましたが、ベターなのは広島大学だなと思いました。

 

―大学在学中にプロ選手になられました。薬学部はただでさえ勉強が忙しいと思いますが、やはりバスケとの両立は大変でしたか?

大変でしたね。具体的には午前中に講義を受けて、昼に少し練習をして、できるときは午前中か夕方にトレーニングをして、夜は研究室に戻るという生活でした。大学の友人やチームなど周囲の理解を得ることも大変でした。

 

チーム初のゼネラルマネージャーとして試行錯誤の日々。

―バスケットボール業界の現状を教えてください。

業界自体はすごく盛り上がっていて、Bリーグになってから一気に成長していると感じます。当クラブも売り上げが去年の2~3倍くらいになっています。バスケは女子チームもありますし、これから人口が減り競技者数も減っていく中で、5人いればプレーができるスポーツなので、高いポテンシャルを感じています。新B1が立ち上がるのは、リーグとしてもより強いスピード感で成長させたいということでもあります。
またチームが活気づいているのは、広島がスポーツ県という地域柄も一つの要因だと思います。試合には県内のTV局、新聞社などかなりの数のメディアが来ますよ。

 

―現役引退後にチームのゼネラルマネージャー(以下GM)として声をかけられたときの率直な気持ちや、他のいろんな選択肢と並べて感じたことや葛藤などは何かありましたか?

葛藤はそれほどありませんでした。もともとチームのマネジメントに携わりたいという気持ちはあったので、大変だろうなと思いながらもそちらに進もうと思っていました。
とはいえ、いきなりGMになっても何もできないと思ったので、まずは経営について学ぶために県立広島大学大学院に進みました。だからすごいというわけではまったくありませんが、経営やスポーツビジネスの全体感を学んだうえで現場に出れば、スピード感を持って成長できると考えました。

 

―現在のGMの具体的な仕事内容について教えてください。

最大の仕事は現場(チーム)のマネジメントです。どんな選手を獲得するのか、スタッフの配置はどうするか、などを考えます。その中でチームをどのように運営していくのか。例えばルールや哲学を共有したり、選手個人に声をかけることもあります。そしてチームの成績や選手のコンディションを見極めながら、フロント(経営)側の戦略にチームをフィットさせていくという感じです。また、選手の住宅の手配やビザの獲得などさまざまなサポート業務の社内稟議を通して最終決定をしています。シーズンが始まると試合に帯同します。

 

―岡崎さんはスポーツファーマシストの資格もお持ちですよね。その知識をチームに還元する活動は何かされていますか?

今は直接的に教えることありませんが、スポーツ界のコンプライアンス違反ってすごく多いので、知識を持っておくことが重要だと知ってもらう機会を作ることはあります。具体的には外部のスポーツドクターを招いてドーピングのことや、先日は警察の方を招いて大麻のことについてお話いただきました。スポーツファーマシストは結局”何も起きないようにする”ということが究極の仕事だと思います。そういう考え方はGMの仕事に生きていると思います。

 

―GMとして現状抱えられている課題はありますか?

課題は無限にあると思っていますが、まず言えるのは、スポーツビジネスの最も基礎かつ重要なことはホーム開催の来場者数が一つのバロメーターだということです。満席だと一回の興行の価値が上がり、例えばチケットの価格が上がったり、グッズがより増えたり、スポンサーが広告を出すことの価値が大きくなったりします。広島カープが分かりやすい例ですね。

そこを一つの大きなポイントと捉えると、もっと来場者数は増やしたいです。ただ一足飛びにとはいかないので、クラブとして何でもいいから”ナンバーワン”、日本一を積み重ねることを目標としています。もうすぐ子供の入場者数が日本一になりますが、これも戦略で、ドリームカードという試合の無料観戦チケットを県内の小中高生に配っています。これは広島のSDGsの一環でもあります。必然的に学生たちの親も来場するので、徐々に来場者数は増えています。他にもいろいろと試行錯誤しています。

 

―もっとチームをこうしたい、地域をこうしていきたい、という野望はありますか?

前提として個人的に持っているのは「こうなりたい・こうやりたい」というより「こうありたい・自分がどういう状態でいたい」のか、という考え方です。成し遂げたいことも当然ありますが、自分が今やるべきことの中でどういう選択をしていくか、ということをすごく重視しています。

広島ドラゴンフライズは株式会社なので、最終的には利益を追求することが本質だと思うのですが、クラブ運営は営利企業でありながら非営利の側面が多いのが難しいところです。 具体的に言うと、営利企業は出た利益を株主に分配することや株の価値を上げていくことが本質的な活動だと思うのですが、スポーツクラブは実際には利益のほとんどが選手や施設への投資、もしくは練習環境への投資へ使われます。

それを踏まえて、今クラブが目指しているのは2026年から始動する新B1に入ることです。新B1の基準は現在の売り上げ規模の約1.8倍とかなり高く、アリーナを持っていること、来場者数は平均約5,000人などいろいろと厳しい条件があります。そことの乖離が現在の課題だと思っています。
利益を残すというよりは、投資するべきところへはしっかり投資して、新リーグへの参入をしっかり目標に据えて、かつそれを追求することが最終的には地域の盛り上がり・活性化につながると考えています。

 

失敗は次につながる。「難しい」には迷わずトライ!

―ご自身で薬局も経営されていらっしゃいますが、そちらとの働き方のバランスはどのような感じですか?

薬局運営もやるべきことはしっかりやっています。広島でも地域(田舎)医療の持続可能性を追求したいと思っていて、毎日とはいきませんが直接現場に行って薬局運営をしています。今後も力を入れていきたいと思っています。球団での活動と経営している薬局はまったく別物で、それぞれの活動がリンクしているわけではありません。

 

―薬剤師として雇われる立場、チームを共同経営するGM、薬局経営者……それぞれを経験して思うことや感じることはありますか?

マネジメント面ではクラブ運営も薬局運営も視点はけっこう似ていて、”どうやって仕組みをつくるか”がポイントだと感じます。スポーツだと選手の力や能力、才能、薬局ならば薬剤師の資質などですが、そこに頼ってしまいがちでうまくいかないことが多い気がします。そこにいかに仕組みを作って……極端な話ですが、”誰が入ってもうまく回る環境”をしっかり考えて作っていくことがとても大事だと感じています。そのあたりをもっと勉強していきたいと思います。

 

―文武両道、完璧に見える岡崎さんですが、これまでに経験された後悔や挫折はどんなことですか?

こうしておけばよかった、と思うことはいろいろありますが、後悔はしていません。必ずそのとき思ったベストな選択をしていますし、前向きに選択しているので。もちろん今でも失敗をすることもありますが、それに対して後悔はありませんね。

実は僕は一浪していて、薬学とバスケを両立したいという点で一度失敗しています。それは自分が「難しいな。できるかな?」と思いながら向かった結果ですが、その後の自分の粘り強さなど、そのときの体験は次につながっていますし、前向きに物事を選択できる習慣ができています。人生において、「難しいな」と思ったことは絶対やった方がいいと思っているんです。苦しくて一瞬は決断を迷うかもしれませんが、「難しい」と思うことは努力することでおそらくできますし、できなかったとしても必ず次があると信じています。

 

―将来に迷える薬学生や若手薬剤師の方へ一言メッセージをお願いします。

恐れ多いのですが、資格の先を見ておいてほしいなという気持ちはすごくあります。薬剤師を目指している薬学部生には”薬剤師国家試験に合格する”という答えがありますよね。ただ、この答えは人生で見ていくと、大したことがないなと思うんです。決して試験に向かって頑張っている人のことや薬剤師の仕事を馬鹿にするわけではなくて、薬剤師資格取得はあくまで資格であり、それ以上でもそれ以下でもないということが言いたいです。
というのも、社会に出てからは、答えが分からないことに対処する機会の方が圧倒的に多いと思います。また、答えのわからないことに対して、突き詰めていくことに本質的な価値があるのだと感じています。そういう意味では、答えが分かっていることは努力したら絶対に達成できると思っています。陥りがちなことは理解できますが、薬剤師免許取得=ゴールというのは……本当にそれでいいのかな? と思うところがあります。

もちろん免許は取らなければいけないと僕も思っていましたが、それがゴールではなくて、取得して早く次のことをしたいという感覚でした。そこに向き合うのもいいかもしれませんね。人生100年あるとして、薬剤師免許を取得した後も70年、80年と人生があると思うので、薬剤師免許を取ってやりたかったこと——地域医療を支える、目の前の人を助ける、お金儲けがしたい、楽がしたい……いろんな考えがあると思いますが、それらを言語化してみると関連することが見つかると思うので、そこにもアンテナを張っておくとより豊かな時間を過ごせると思います。

 

岡崎さんがGMを務める広島ドラゴンフライズの公式サイトはこちら▼ https://hiroshimadragonflies.com/