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質の高い外来がん化学療法の提供を目指して 東京都がん薬物療法協議会とがん研有明病院の2つの取り組み

山口 正和さん

山口 正和さん

公益財団法人がん研究会有明病院 薬剤部 薬剤部長
東京都がん診療連携協議会 研修部会 薬剤師小委員会 委員長
日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)顧問

今や2人に1人が罹患すると言われ、日本人の死因第1位でもある「悪性新生物(がん)」。
病院外での患者の日常を支えるためにも、薬局薬剤師ががん治療において豊富な知識を持ち、病院薬剤師と連携し、適切な調剤ができることは必要不可欠です。
そんな”がんに強い”薬局薬剤師を育てるべく2つの研修・セミナーの舵取りを担う山口さんにお話を伺いました。

スピーディーな薬薬連携の推進に向け「東京都がん薬物療法協議会」を発足

当院は東京都のがん診療連携拠点病院の1つで、都立駒込病院とともに東京都がん診療連携協議会を運営しています。そこでの当院の役割はがん医療にかかわる人材育成で、地域のがん医療に向けて数多くの研修会や勉強会を開催しています。

連携協議会では2008年から毎年1回研修会を開催していますが、2021年の研修会よりがん薬物療法における薬薬連携の推進を強化させ、病院の薬剤師だけではなく保険薬局の薬剤師にも参加していただける場に、さらに言うと薬剤師だけではなく、薬薬連携やその推進に関係するすべての方に集まっていただきたいと考えました。

そんな想いから、2022年に東京都がん診療連携協議会、東京都薬剤師会、東京都病院薬剤師会の3団体合同の「東京都がん薬物療法協議会」(以下協議会)を発足させました。それまでは各団体や個々の施設で薬薬連携に取り組んでいましたが、それだけでは世の中への普及は難しいと感じたので、団結することで共に考え、前進させることをこの協議会の目的としています。
同年12月には第1回の協議会研修会をWebで開催しました。東京モデルと銘打って東京都の取り組みを紹介する内容ではありましたが、東京以外の地域でも参考にしていただけたらと思いオープンにしたところ、有り難いことに定員500名のところに全国から600名を超える多数のお申込みを頂きました。協議会の研修会は薬薬連携を進めるためのシステムや理論などが中心で、薬薬連携を広めることに積極的な方々が参加されました。

座学で終わらせない、実のある連携を目指した研修

今年の3月に開催した第2回では、1部は前回同様Webでの基調講演を、2部に少数精鋭ではありますが実際に集まっていただきグループワークを行いました。このときのグループワークのテーマはトレーシングレポートについてでしたが、実際に病院側が保険薬局から患者のどういった情報が欲しいのか、レポートを書くうえで必要な情報はどういうことなのかを薬局薬剤師へ伝える機会でもありました。
トレーシングレポートに限らず、病院と保険薬局間のコミュニケーションを円滑にすることが研修の大きな目的です。処方の背景や、処方した医師がどういうことを考えているのかというところを知っていただけると次の調剤に生かしやすいです。そういった実のある連携を目指しているため、研修はただ座学で終わるのではなく”自分たちで考える”ことを非常に重要と考え、グループワークには力を入れてやっていきたいと思っています。
このような場に参加していただくことでがん化学療法の知識のある人材を育て、やがてはリーダーとして、各方面で薬薬連携を広げていってほしいと願っています。

どんどん輪を広げるべく、今度は学会にもご参画願えたらと考え、今年7月開催の研修会ではがん領域の学会に深く関わっている方を演者としてお招きしております。だからというわけではありませんが、当研修会はJASPOの外来がん治療認定薬剤師制度の認定単位も取得しています。受講者のモチベーションの一つになればと思っています。

がん研有明病院独自のセミナーは、誰でも参加可能!

協議会とは別に、当院ではABCセミナー(Ariake Basic in Cancer seminar)を独自に開催しています。こちらも当院から出た抗がん剤の処方せんを受け取られた際にスムーズに調剤をしていただいたり患者へ薬の説明ができるようになっていただきたいという連携目的のために作ったものですが、がん種ごとの一般的な薬物療法についてお伝えする講座で、初学者から中級者を対象としています。そのため、薬剤師はもちろん学生の参加や他職種の方の参加も歓迎しています。
今のところ薬局薬剤師の参加人数が最も多いですが、ほかには病院薬剤師、メーカー勤務の方、大学教授、看護師も参加されています。こちらも第1回は約500名、第2回は約800名、第3回は1,000名を超えるお申込みを頂き大盛況でした。

ABCセミナーと協議会の研修会は、目的や内容は異なりますがリンクはしています。どちらかに参加された方が、もう一方にも参加していただくことでより知識や興味の幅を広げ、深めていただければ嬉しいですね。

がんの処方せんを受け入れてくれる薬局を増やしたい

発足間もないですが、協議会の研修会は薬剤師の実務に本当に生かしてもらえるような充実した研修会にしていきたいと思っています。回を進めていくごとに、受講者にできることが増えていけばとても嬉しく思います。そして将来的に、分からないからと他店に回すことなく、自信を持って「大丈夫です」とがんの処方せんを受け入れていただける保険薬局が増えることを期待しています。

 

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