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「薬剤師さんに相談しよう」を日常に 零売をきっかけに新しい薬剤師の活躍を創造する急成長企業GOOD AID株式会社

近年注目されている「零売」。医療用医薬品を医師の処方せん無しで購入できることは、患者にとって大きなメリットもあれば、薬局的には踏み込みにくい難点も。
その両方や零売の可能性、今後の展望について、零売薬局を一つのきっかけにさらなる薬剤師の活躍の場を生み出すベンチャー企業 GOOD AID株式会社 取締役の小瀬さんにお話を伺いました。

GOOD AID株式会社 取締役 小瀬 文彰さん

 

―まずは小瀬さんご自身のキャリアとGOOD AIDに参画された経緯について教えてください。

大学在学中にケアプロ株式会社というベンチャー企業でインターンを経験し、そのまま入社しました。看護師としてはちょっと変わったキャリアでして、勤務先は病院やクリニックではなく訪問看護でした。当時、新卒で訪問看護をすることは業界的にタブーとされていましたが、若手が携わる道も作っていかなくてはならないということで、新卒から訪問看護師を育てる教育プログラムを会社と一緒に作っていきました。

インターンを含め7年ほどお世話になりましたが、ある程度新卒から人材を育てる教育体制や業界自体の認知ができあがってきたので、そこでの自分の役目は達成したと感じて独立しました。都内のある病院の立ち上げを一部お手伝いさせていただいたり、ヘルスケア系の新規事業のコンサルティングなどを行う中で零売という事業に関わらせていただいていました。

弊社では「セルフケア薬局」という零売に特化した薬局を展開していますが、初めはSDC株式会社という会社名で立ち上がり、私もその創業メンバーとして携わりました。その後、零売専門の手段と、調剤と零売を併せ持つハイブリット型の薬局の両軸があるほうが世の中のためになるなという話になり、もともと付き合いがあった代表の服部に声をかけられたことがきっかけで、GOOD AIDグループとして「セルフケア薬局株式会社」と社名を新たに子会社化しました。

 

―率直に、零売の利点とは何でしょうか?

対ユーザー視点では、やはり日常生活で受診が難しい方にとっては大きなメリットがあると思います。個人的に印象的だったお客様で、ご自身がアトピー持ちでステロイド剤を購入された子育て中の女性がいらっしゃいました。背景を伺うと、子供のことだったら何としてでも病院へ行くけれど、家事も育児もある中で命に関わるわけでもないアトピーのためだけに子供2人を抱えて病院やクリニックへ行く時間はなかなか取れなくて……ということでした。

零売では処方せんが不要のため、受診する時間がまったくないという方と、病院やクリニックで長い待ち時間を取られてしまう方たちの負担を軽減できるということは、わかりやすい特徴の一つです。

 

―処方せん無しで薬を出すということは、患者さんの状態をある程度薬剤師が判断するということだと思います。注意しないといけないことや、責任の所在について考えられることはありますか?

そこは非常に大事なポイントで我々も徹底しているのですが、「絶対に薬局の中だけで完結してしまわないようにしよう」ということはスタッフ全員で話しています。

昨今零売というものが取り上げられて、処方せん不要で薬を販売できることは薬局の新しい収益の柱に……と言われることが多いのですが、収益ありきでどんどん販売するサービスなのかというと、決してそうではありません。本来の趣旨からすると、”受診できない方たちに適切に薬を販売する”ということが肝です。

以前採用面接に来られた薬剤師の方が「責任が伴うので零売をやるのが怖い」といったことを話されました。

確かに零売だと裁量権が薬剤師にあるがゆえに、当然責任も伴います。薬剤師がよくわからないまま薬を売ってしまうということはあってはいけませんし、「受診したほうがいいかもしれないけれど、患者さんが薬を欲しがっているからとりあえず売ろう」という倫理観に欠けた判断をするという状況になってしまうと、零売として本来あるべき姿ではなくなってしまいます。患者さんに健康被害が出てしまうことが一番あってはならないことなので、我々の薬局だけで完結させてしまうのではなく、「このケースは受診したほうがいいな」と感じることは患者さんにきちんと説明して受診を勧めるということは大事にしています。

過去に、「店頭へ行ったのにお薬を売ってもらえませんでした」の一文から始まる口コミを頂いたことがあります。クレームかと思ったのですが読み進めると「薬剤師さんが丁寧に自分の症状や背景を聞いてくれて、必要なときなきちんと受診を促してくれるから安心できる薬局です」といった内容でした。確かに、行ったのに売ってもらえなかったとクレームになることもありますが、そこは薬のプロとして、なぜ今薬を売ることができないのかということを、ちゃんとお客様が解るようにしっかりお伝えすることはすごく大切にしています。我々は安易に売ったり儲けのためではなく、しかるべき薬剤師の活躍の仕方・医療の在り方というのを徹底してスタッフと考えているところは、運営上特に注意しているところです。

 

―零売薬局の数が全国的に普及しているとは言い難い状況と、面接に来られた薬剤師さんのように責任が発生することに現場が躊躇うということは関係しているのでしょうか?

経営的な視点から見ると、零売薬局が増えない理由は単純に、今までと違う薬の買い方がどういうものなのかユーザーが分からないことだと考えます。例え良い立地に出店したとしても、わざわざ店舗を訪ねて「どんなふうに薬を買えるのですか?」と聞くに至るにはかなりのハードルがあります。まだ市場がないところを我々が切り開いていかないといけませんし、かと言って一般消費者で零売を知っている方は本当にごくわずか……薬剤師でも知らない人がいるくらいですから。

調剤薬局は門前のドクターとの関係性もあるので、なかなか零売に踏み出せないというのが経営的な課題かと思います。オペレーション側のことは先ほどの質問内容に尽きると思うのですが、会社として零売ができるようになり、お客さんにも来てもらえるようにアナウンスもして、じゃあ現場ですぐに対応できるかというと、そう簡単な話ではありません。今までの処方せんありきから、”相談から始まる薬局”として薬剤師が関わるということにスキルセットを変革させていかなければいけないんですよね。事故無くより適切な薬の販売を行うという観点でスタッフの意識とモチベーション、学ぶ姿勢、そこにスキルをつけていくことが非常に重要だと感じています。

同時にそこが経営的に踏み込みにくい点でもあります。また零売を始めた他社の薬局スタッフさんから「会社として(零売を)やると言っているけれどオペレーションが何も決まっていなくて……」といった相談を受けることもあります。こうなってしまうと経営と現場の足並みが揃わず、うまくいかないと思います。

 

―都内に零売4店舗を構えられていますが、お客様が初めて足を運ばれるきっかけはどういったことでしょうか?

何らかのきっかけで薬局のサイトを見つけてくれたという人が多いでしょうか。ただ、医療業界は広告規制がかなりしっかりしているので、積極的に広告やプロモーションができないことはハードルの一つでもあります。弊社は幸いにもいろんなメディアからの取材やニュース番組の中で取り上げていただいたことで一般の方の目に触れる機会が増え、来店のきっかけにもなっています。あとは、コロナ禍ではありますが、薬局の看板を見つけて入ってきてくださる方もいます。

 

―JR西国分寺駅の中にも店舗がおありですが、実際に駅を利用される方でふらっと気軽に来られる方はいらっしゃいますか?

はい。店舗は改札の中にありますが、乗り換えのついでに来られる方や、日中は仕事で受診できず、退勤後DSはまだ営業しているけれど薬剤師さんがもういなくて第1類が買えない、といった方にお越しいただくことが多いですね。

 

―駅への出店は『JR東日本スタートアッププログラム2020』で採択されたことがきっかけですよね。このプログラムにエントリーされたきっかけを教えていただけますか?

我々のサービスは時間がない方が主なターゲットですので、駅は非常に利便性が良く、ぜひ展開していきたいと考えておりました。先にお話したように我々は薬局だけで完結したくないと思っています。駅に出店して人々の保健室的な窓口になり、そこからニーズに応じて、例えばJR東日本グループが運営するリラクゼーション施設や、駅にテナントとして入っている飲食店、マルシェなどに薬剤師がいろいろと提案をしながらお客様をつなげて「健康に関するいろんな提案をしてくれてそのサービスが受けられる。駅に来ることで健康になれるような新しい未来型の駅=スマート健康ステーション」を実現させたいと思い、提案させていただきました。1号店である西国分寺店にて、そもそも駅の中に零売薬局があったら人は来てくれるのか? というところを実証実験しているのが第1フェーズの取り組みです。

 

―駅ナカ店舗はこれから増やされる予定ですか?

はい。コロナの影響もあって1号店から期間が開いてしまいましたが、今2、3、4店舗目の準備をしているところです。アクセスが良いところで挑戦していく予定です。

 

―御社の採用について。”薬剤師×〇〇”を採用メッセージに書かれていますが、武器や何かキラッと光る個性を持っていることを重要視されているのでしょうか?

持っていたらなお良しですが、マストではありません。一方、受け身な状態や同じ業務をこなすだけの薬剤師は弊社のカラー的に合わないかなとは思っています。処方せんに対応して、服薬指導をして、納得感を持ったうえで薬をきちんと服用してもらうこともちろんですが、そこから一歩踏み込んでより深い提案をしていける方や新しい事業に挑戦していける気概を持っているということを非常に重要視しています。

弊社ではユニークなメンバーは多いです。将来ジムを作ってそこで薬剤師の職能も生かしたいと言っている人や、漢方の提案をしたい人や美容が得意な人、患者さんと対話する能力がずば抜けている薬剤師など。手前味噌ですが、弊社に入社してくれる薬剤師は意識やモチベーションが高い人が多いですし、患者さんファーストという人がほとんどなので、私自身医療職ですが、いいメンバーしかいないところが弊社の強みだと思います。

 

―具体的に目指されている会社の規模を教えてください。

店舗数は2024年9月までに160店舗(調剤薬局110店舗・零売薬局50店舗)まで拡大することを考えています。薬剤師が窓口の相談の場というのは、どうしてもデジタルではなくてリアルである必要があると思っているので、窓口を増やすために急拡大を目指しています。セルフケア薬局はまずは都心部で拡大させますが、大阪や名古屋などでの出店も今後計画しています。

 

―最後に、GOOD AIDやセルフケア薬局をどんな会社・薬局にしていきたいですか?

代表の服部の言葉も借りると、薬剤師の価値を最大化することを重要なテーマにしています。

よくある調剤薬局の現場では薬剤師は患者さんからとにかくスピードを求められていて、一方で調剤薬局も、薬剤師が患者さんとすごく良い関わりをしてリピートにつながったとしても、やはり門前から処方せんが何枚来るのか、薬剤師が何人必要なのか、どう効率よく回すのか、ということがビジネス上の肝になってしまっているんです。

私たちはもっと薬剤師が本来持っているスキルを最大限に生かして、今の日常にはない「薬剤師さんに相談しよう」と思ってもらえる、新しい薬剤師の活躍の仕方を一般の方に感じてもらえるような社会を作っていきたいと思っています。零売以外にも未来の薬局・未来の薬剤師の活躍のためにいろいろと仕込んでいることもあります。新しい薬剤師の活躍の仕方を我々で創造して、そこで薬剤師がいきいきと活躍し、患者さんや一般の方へ貢献していくような未来を会社として作っていきたいと思っています。