第24回 薬剤師の奨学金と返還支援制度

木元 貴祥(きもと たかよし)氏
パスメド ‒PASS MED‒ 代表 https://passmed.co.jp/
1986年生まれ
滋賀県出身日本イーライリリーのMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の薬理学講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。
現在はSkypeを利用した薬学生向けのオンライン家庭教師や看護師国家試験対策予備校講師業の他、下記サイトの運営を行っている。
●運営サイト
- 新薬情報オンライン:https://passmed.co.jp/di/
新薬の作用機序等を分かりやすく解説。月間アクセス数10万PVの人気サイト - メディカルタックス:https://passmed.co.jp/setsuzei/
医療スタッフ向けの節税・資産運用について税理士・薬剤師・FPが解説 - パスメド薬学部試験対策室:https://passmed.co.jp/pharmacy/
無料の演習問題2000題以上。薬学生向け、試験対策サイト
●著書
- 薬剤師国家試験のための薬単・病単・薬問・病問
- 薬剤師になったら最初に読みたい 大学で教えてくれなかったお金の本
- 薬の使い分けがわかる! ナースのメモ帳:
こんなときはどれを選ぶ? 薬剤師さんと一緒に作った薬のハンドブック - 新薬情報オフライン 新薬の特徴がよくわかる!
既存薬との比較と服薬指導のポイント - 知らないと絶対損する 薬剤師のためのお金の強化書
株式会社PASS MED(パスメド)の木元貴祥です!
前回の記事「第23回:薬剤師の奨学金事情」では、薬剤師における奨学金の状況(平均借入額は461万円!)について解説しました。
今回は、返済の際に活用できる返済支援制度について紹介していきます!
奨学金の返済支援制度の利用状況
奨学金の返済にあたっては、地方自治体や企業による支援制度が用意されているケースがあります。しかし、認知度が低かったり、制度が整備されていなかったりします。
そのため、奨学金を利用した薬剤師の多くは、「支援制度を受ける予定がない/受けたことがない」と回答していました(病院薬剤師:82.4%、薬局薬剤師:75.1%(図1))1)。
返済支援制度は、大きく分けると「地方自治体によるもの」と「企業(病院・薬局)によるもの」の2つがありますので、それぞれ紹介していきましょう。
1) 薬剤師確保のための調査・検討事業報告書 P.76(PDFファイルP.79より)
地方自治体による支援制度
地方の自治体では、その土地の薬局や病院に就職すると、独自の支援を受けられる場合があります。
たとえば、鳥取県の「鳥取県未来人材育成奨学金支援助成金」では、県内企業に就職した方を対象に、最大216万円の助成を行っています! 35歳未満が対象で、なんと鳥取県出身かどうかは「問わない」そうです。新卒での就職が対象で、転職者は含みません。
就職先の都道府県によっては、このような地方自治体による助成制度があるため、上手に活用したいですね。鳥取県のほか、富山県、島根県、山口県などでも支援制度があります。新潟県の「Uターン促進奨学金返還支援事業(30歳未満、最大120万円)」など、一部の自治体では転職者を対象とした支援制度もありますので、就職・転職前には確認しておきたいところです。
都道府県における奨学金返還支援制度については、日本学生支援機構(JASSO)のHPに一覧がまとめられていますので、併せてご確認ください。
JASSO「 都道府県における奨学金返還支援制度」
返済には支援制度を活用
薬局・病院などの企業でも独自の支援制度を導入していることがあります。主には以下の2つに大別できます。
①給与上乗せ型支援制度(貸与型と給付型)
②返還支援(代理返還)制度
これまでの支援制度は「①給与上乗せ型支援制度(貸与型と給付型)」が中心でしたが、2021年4月からは「②返還支援(代理返還)制度」の変更に伴い、企業から代理で直接JASSOに送金できるようになりました。主な特徴については図にまとめています。
大きく異なるのは、「従業員を介するか介さないか」という点です。①は従業員の給与に上乗せするため、本来であれば課税対象(税金がかかる)ですが、奨学金返済のためという要件を満たせば非課税になります2)。しかし、標準報酬月額には算入されるため、社会保険料は増額となる可能性があります。一方、②は従業員を介さないため、非課税かつ標準報酬月額にも算入されません。つまり、税金も社会保険料にも影響を及ぼしません。
どの支援制度を採用しているかは、企業(病院・薬局)によって様々です。転職で利用できる場合もありますので、一度調べてみるのもよいかもしれませんね。
2) 国税庁HP:タックスアンサー(よくある税の質問)No.2588 学資に充てるための費用を支出したとき
支援制度別のシミュレーション
最後に支援制度を利用した際のシミュレーションをしてみましょう。いずれも年収500万円で、右の3パターンの場合を考えてみます。結果は以下の通りです。
① 支援制度を利用しない場合:額面年収500万円で支援制度なし
② 従来の給与上乗せ型の支援制度を利用する場合:額面年収500万円(うち、返済の上乗せが50万円)
③ 代理返還制度を利用する場合:額面年収450で別途50万円が代理で返済される
最後に支援制度を利用した際のシミュレーションをしてみましょう。いずれも年収500万円で、右の3パターンの場合を考えてみます。結果は図3の通りです。
最後に手元に残る手取り額が、最大で年間12万円(351万円-
339万円)の差になりました。同じ年収で、同じ奨学金返済支援額であれば、代理返還制度を利用したほうが金銭的なメリットが大きいと考えられますね。
ただ、代理返還制度を導入している企業数は非常に少ないため、注意が必要です。薬局に限定すると、全国で10企業くらいが導入していましたので、今後の広がりを期待したいところです。
導入企業は、JASSOのHPから検索することが可能ですよ!
まとめ
● 返済支援制度には「地方自治体によるもの」と「企業(病院・薬局)によるもの」がある
● 企業によるものは、①給与上乗せ型の支援制度と②返還支援(代理返還)制度がある
● 税制上、最もお得なのは代理返還制度
● 代理返還制度は導入企業が少ないため、事前に確認してみよう
高校生の時は奨学金のことを深く考えず、「まぁ借りて、薬剤師になったら楽に返せるでしょう」と安易な気持ちで借りている人も少なくありません。しかし、実際に薬剤師になった瞬間、新卒で1,000万円超の奨学金は非常に重くのしかかります。
学生時代は進級・CBT・国試対策の勉強に時間を割かれるため、なかなかお金の勉強をしたり奨学金のことを考えたりする
余裕がないのも事実です。働きだすとその重さにびっくりする方もいらっしゃることでしょう。
今回、奨学金を借りている薬剤師向けに少しでも有益な情報提供ができればいいなぁと思って執筆しました。正直、奨学金の大小や就職先の年収は個々人でバラバラですので、自治体の制度や返済サポート制度は利用してもしなくてもどっちでもいいと思っています。また、薬剤師になってから、奨学金返済のためだけに、高年収な職場に無理に転職をすることもありません。
しかし、「知らないから選択肢に無かった」というのだけ避けて欲しいと思っています。
知っていて利用しなかったならそれでOKです。本記事がお役に立てれば幸いです。