定常状態のない薬
薬学部の講義で習う薬物動態学では「定常状態のある薬」で話が進められます。薬を服用するごとに血中濃度が上がっていき、やがて定常状態に達するというものです。しかし、世の中には定常状態のない薬がたくさん存在します。まずは、これについて理解していきましょう。「半減期」の考え方を応用するだけで、「定常状態のない薬」を理解できます。
最高血中濃度(Cmax)から半減期が経過すると、血中濃度は50%になります。さらに半減期が経過すると、25%にまで血中濃度が減ります(合計2半減期)。もう半減期経てば、12.5%です(合計3半減期)。さらに半減期が経過すると6.25%にまで落ちます(合計4半減期)。
Cmaxを基準にして、血中濃度が6.25%にまで下がると「薬の効果はほとんどない」と考えて問題ありません。つまり、薬は4半減期の時間をかけて消失していくということです。
もし、「4半減期が経過した後に投与するタイプの薬」であった場合、この薬は定常状態のない医薬品です。なぜなら、薬が体内から消失した後に服用するからです。言い換えれば、定常状態のない薬は「半減期×4≦投与間隔」となります。それでは、例を挙げて考えましょう。
グルファストは定常状態がない
速効型インスリン分泌促進薬グルファスト(一般名:ミチグリニド)の半減期は約1.2時間です。4半減期かけて薬が消失していくため、約4.8時間で薬の効果がなくなると予測できます。1日3回服用するため、投与間隔は分かりやすく8時間とします(24時間/3回服用=8時間)。約4.8時間で薬の効果がなくなるにも関わらず、次の投与は8時間後です。つまり、グルファストは定常状態のない薬であることが分かります。この場合は「半減期(約1.2時間)×4≦投与間隔(8時間)」と計算できます。
グルファスト(一般名:ミチグリニド)の薬物動態
定常状態のない薬では、初回投与から血中濃度がピークに達します。定常状態のある薬のように、徐々に血中濃度が上がっていくわけではありません。そのため、定常状態のない薬は「すぐに効果を表す薬」であると言えます。
インスリン分泌を促す糖尿病治療薬の場合、副作用として低血糖が問題となります。グルファストは定常状態のない薬(すぐに効果を表す薬)であるため、初回投与時から副作用である低血糖に注意しなければならないことが分かります。
ちなみに、SU剤で多用されるアマリール(一般名:グリメピリド)も同様に定常状態のない薬です。そのため、グルファストと同じように服薬指導で「初回投与時から低血糖に注意させる」ことを意識しなければならないことが分かります。このように、薬の効き目を予測して指導を行うことが重要です。