オリーブオイルソムリエ、ジョセフ・カペラスさん 「食のヘルシー」
連動企画「安全な食にこだわる」 〜神戸コッタボス・伊藤宏明さん〜
現在、注目を集める「食の健康志向」。安全で健康な食事にこだわるお2人に、良い食材との出会いについて対談形式でお話をうかがいました。
ギリシャから、こだわりのオリーブオイルの輸入を手がけるジョセフ・カペラスさんと、素材にこだわったフード&BARを展開する伊藤さんにコラボメニューのご提案もいただきました。
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前田(以下 M)
本日はお忙しい中、この座談会にご参加くださいまして有り難うございます。さっそくですが、ギリシャ産であるこの「イリニ・プロマリウ」をご紹介下さい。
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カペラス(以下 K)
まずは、故郷であるギリシャのオリーブオイルをご紹介できる機会を頂きましてお礼申し上げます。ご存知のようにギリシャはいま大変な経済危機で、ヨーロッパのお荷物とまで言われています。しかし、エーゲ海の風景や気候、アテネの古代遺跡など、多くの観光資源は陳腐化するものではありません。バカンスシーズンのミコノス島やサントリーニ島など、煌びやかなナイトライフも健在です。ただ、実際のギリシャ人の生活や人柄は極めて素朴で、オリーブオイルの本場でありながらイタリアやスペインのオイルのように商業ベースで輸出することに関してはまだまだ立ち後れているのが現実です。数百年の間、先祖代々伝わるオリーブ畑をコツコツと守り続け、昔から何も変わらない手法でわずかづつ生産しているんです。これでは大量の供給が不可能で、家族や地元で消費されるだけになってしまう・・・。私はこの貴重なオイルを日本の皆様にご紹介することで「本当のオイルのおいしさ、楽しさ」を伝えたい、そう考えたのです。
この「イリニ・プロマリウ(以降「イリニ」)」ですが、名前の由来は「プロマリウ村のイリニお婆ちゃんの畑のオイル」みたいなもので、ギリシャの一番東にあるミティリニ島(旧レスポス島)のたった一つの畑でコロヴィ種という単一品種のオリーブを家族が大事に育成し、島の搾油所で絞っているだけなんです。出荷量もわずかで、2013年に私が確保できたのはボトルにしてたったの2,400本。ここが重要なんです。
百貨店などで取り扱ってもらうには、この供給量では相手にされません。もちろん、大量に発注すれば現地は喜ぶでしょうし、あちこちの畑からオイルを集めてブレンドして輸出してくれると思います。ただし、そこで問題になるのが「品質」なんです。イタリアやスペインなど、オリーブオイルを大量に生産し輸出している大手ブランド品は、製品としての衛生面や味のむらなどに関しては安定しているかもしれませんが、多くの事を犠牲にします。我々は「ディフェクト」(イタリア語でディフェット=欠陥オイル)と呼んでいますが、収穫段階、製造工程や保存の過程で細心のケアーをしてやらないとオリーブオイルは傷みます、日本で流通しているエキストラバージンオリーブオイルがディフェクトオイルの疑問のあるものが決して少なくないと思います。(あくまでも個人的意見…)一般のクッキングオイルなどと競争できる値段に揃えるためには仕方のないことかもしれませんが・・・
私はギリシャの素朴なオリーブオイルを少しでも多くの方に安心して楽しんで頂くため、必ずオリーブの畑と搾油所は自分の目で視察します。昨年の2,400本には生産者にムリを言って全てのボトルに一本一本、手書きのシリアルナンバーをつけてもらいました。
これは、一本一本手売りすることで、お客様に味わっていただければどなたにもきっと気に入っていただける、そう信じているからこそのこだわりです。 -
M
この「イリニ」ですが、非常にマイルドですね。フレッシュな草の香りが非常に新鮮ですが、味はガツンと刺激的ではなく、ナッツのような穏やかな後味でふくよかな印象です。
日本でオリーブオイルを愛好している人は、刺激的な香りを好む人も多いと思うのですが。 -
K
「イリニ」のコロヴィ種は果実の段階ですでにマイルドでふくよかな味です。その持ち味を活かし、料理に使った時点でその力が発揮されるのかもしれません。普通は不純物や雑味を取り除くためにオイルの製造過程で「濾過」するのですが、イリニはアンフィルタードです。収穫時のフレッシュな香りを余さずおたのしみいただくため「無濾過」としました。
魚介料理には特にオススメで、カルパッチョはもちろん、お刺身やお寿司など和食との相性も驚くほど良いので、いろんな料理と出会ってレパートリーが増えていくことが楽しみで仕方ありません。
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M
それではここで神戸市垂水区のFOOD & BAR<コッタボス>オーナー、伊藤さんにお話を伺いましょう。
このオリーブオイルを気に入られてプライベートでも使われておられるとのことですが「美味しいオリーブオイル」の魅力についておうかがいします。 -
伊藤(以降I)
私自身、実は「シェフ」とか「料理人」とか紹介されるのが、ちょっと苦手なんですよ。少し違和感があるというか・・・
もちろん、美味しいものを食べることも、料理することも好きなのですが、感覚としては「美味しいものと出会って、それを最高の形で食べてもらう」という意識でこのお店をオープンしたんです。
「垂水」と言う街は基本的に住宅街で、駅前には商店街や市場があり、漁港があって昼網の魚が売られている、といった庶民の街で、オシャレでもなければ賑わっているわけでもない、「普通の生活の街」なんですよね。そこでヨーロッパ流のFOOD & BARがやっていけるのか、非常にチャレンジングなオープンでもあったんです。
基本的なコンセプトは「私が家で食べているものをそのまま」というスタイルで、それは手の込んだ料理という意味ではありません。常にアンテナを伸ばして感性を高め、良い食材に出会ったら、なるべくシンプルな形でご提供する。そういう店を目指しました。
前置きが長くなりましたが・・・カペラスさんが私のお店にいらっしゃって、お食事をされているとき、お手持ちのオイルをかけて食べておられたんです。「料理人の方が作られたものに手を加えるのは気が引けるんですが」と前置きされ「このオイルとこの料理の相性、最高!」と私たちが味見させてもらったんですよ。その場ですぐにプライベート用に注文させていただくほど衝撃的でした。
とにかく「食材との相性」に尽きるんです。
食材の持ち味を殺さず、鮮やかに味を引き立てる。これは素晴らしいオイルだなと。 -
M
お店のコンセプトである「良い食材との出会いをそのまま」だったんですね。
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I
今、「食の安全」に対して、意識が高まっていますよね。大量消費を前提にしたものを大量に生産し、さらに信じられないような安価で大量に売る・・・そこに疑問を持つ人が増えているんでしょうね。
本当に「食べ物」と呼んでいいのかどうか疑問になるような油脂などの材料に匂いや味をつけて食べ物のようなものを作る・・・これは果たして料理なのか?私が「料理人」と紹介される事をためらうのは、この印象があるからです。
良い野菜、良い肉は普通においしい。この「普通に美味しい」こそが、私の提供したいものであり「良い食事」なんですよ。だから極端な話をすれば「私なんていなくてもいい」というパラドックスに行き着くんですが・・・(笑)
でも、お店をやってると「質の良いパスタ」に「質の良いオイル」で「質の良いバジル」を和えた、例えばジェノベーゼを出したとしても、「具は入ってないの?」って聞かれてしまうんですよね・・・
ここのところを解ってもらえるお客様が徐々にではあるのですが、増えてきているのは非常に嬉しいことです。 -
K
シンプルな料理は本当に美味しいですね。また良いオリーブオイルは健康にも良いんです。
オリーブオイルも油脂ですからカロリーは高い食材です。なのに「地中海ダイエット」などでも紹介されているように地中海に暮らす人々はふくよかな体型をしていてもまったく健康体の人が多い。これは毎日の食生活がどれだけピュアで安全であるかの現れだと思うんです。 -
M
せっかくの「良い出会い」ですので、是非伊藤さんに「美味しいオリーブオイル」と「旬の素材」が出会えばどんな食事ができるのか、読者の皆様がご自宅で実践できるアイデアをお教え下さい。
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I
じゃ、材料を近くの市場で買ってきますね。
EIRINI PROMARIUとKOTTABOSによるコラボレーションメニュー
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MENU1自家製オイルサーディーン
捌いたイワシをオリーブオイルに数時間漬け込み、軽く炙ったもの。
ジャガイモの素揚げを添えて。お弁当にも。 -
MENU2塩豚とジャガイモのポトフ
豚バラ肉を塩で下味をつけ、ジャガイモとともに煮るだけ。
オリーブオイルとブラックペッパーで仕上げ、お好みでマスタードをスパイスに。 -
MENU3春菊のソースとチーズの手打ちパスタ
春菊を細かく刻みオリーブオイルで和えてソースに。
手で打ち込んだパスタにお好みでシュレッドチーズをふりかけて。
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K
もう撮影が終わるのが待ち遠しい!
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M
これなら家でも作れますね。オイルサーディーンは冷めても美味しいから、作り置きしておいてお弁当にも持って行けますね。
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I
栓を抜いて酸化していくのを楽しむワインなんていかがですか?バキュームせずに開けて3日目なんですが、空けたときと変化して味わい深くなっていますよ。こういったワインなんかもオーガニックならでは、ですよね。
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M
本日はお二方とも長時間にわたり興味深いお話しを有り難うございました。