薬剤師の起源をご存知ですか?
13世紀、フリードリヒ2世が医師から毒を盛られることを恐れ、「完全なる第三者の専門家」を任命したことが薬剤師の始まりです。すなわち、イタリアでは当時から医薬分業がなされていたのです。一方日本では、医薬分業が段々と進んではいるものの、本来の医薬分業の意図からすると未だフリードリヒ2世の頃のレベルに達していません。しかし、薬剤師も転換期を迎える今、薬剤師としての在り方が問われています。
病気を治すのは薬だけではありません。『あなたのがんを消すのはあなたです(渡邉 勇四郎著)』という本があります。著者である渡邉先生は、余命3ヶ月と言われたがんをゲルソン療法という食事療法で完治しました。このような薬以外の療法も知った上で、患者さんの状況に対してベストな提案をしていくのが薬剤師の仕事です。医師が出す処方箋は最優先ですが、患者さんにとって常にベストであるとは限りません。その時には薬剤師が医師に提案をして良いはずなのです。医師と薬剤師を対等な立場にし、医薬分業を進めることが、薬学教育を6年制にした理由の1つです。
6年制教育への移行は「革命」です。
4年制の頃の学生は会話も多く、社会的な部分を知っていたように感じます。対して、丁度時代もあるのでしょうが、6年制の学生にはワンパターンな印象を受けることが多くあります。「夢」を持つというよりは、皆一様に「免許を取得する」というゴールを見据えているように感じるのです。一方で、6年制薬学教育を受けた学生は4年制の頃と比べ、知識は対等かそれ以上です。後はいかに実践を絡めて、知識を自分のものにしていけるかというところですね。
4年制から6年制への移行は薬学の世界において、革命のはずです。今の6年制の学生は「革命児」なのです。しかし、革命を起こしたはずが、革命が起きていないと言われています。例えば、6年制に移行したことで企業の研修が1年から半年に減らされているということもあります。これは、どういった意図で6年制へ移行したのかを理解していない指導者が多いことが一因だと考えています。
薬剤師の仕事は、薬を調剤することだけではありません。
多くの薬剤師は、医師に処方された薬から入ってしまいます。しかし、その薬がその患者さんに合っているかどうかは分かりませんよね。医師だけではなく薬剤師にも、この患者さんがどうしてこの病気になってしまったのかを考えてほしいのです。それは、まずコミュニケーションをとることから始まると考えています。コミュニケーションには観察力が必要です。例えば患者さんの服装1つとっても、2~3回お会いした患者さんが、毎回素敵なピンクの服を着ていたとします。そこで「ピンクがお好きですよね?」という会話をするだけで、患者さんは自分のことを気にして見てくれているという安心感と誇らしさを覚え、スムーズに会話に入れるものです。
薬剤師には「医学」ではなく、「医療」ができる人になってもらいたいと考えています。医学というのは研究、医療は患者さんの気持ちや生活も含めて考えることです。「この患者さんのこれからの日常に対しては何を改善すべきか」という観点を常に持っていなければなりません。“MayI help you?”という言葉のように、「してあげる」という気持ちではなく何をさせてもらえるかという気持ちでいることが大切です。また、薬剤師には黒田官兵衛ではないですが、彼は王様をコントロールする軍士であり策士でした。すなわち薬剤師も、医師から策を求められるほど、患者さんごとの治療に戦略的でワイドな視野を持って提案して欲しいのです。初めは薄く広くで構いません。その中で自分に合った分野を見つけていけば良いと思います。今後も、私は「医療ができる薬剤師」の育成、輩出と日常自らも薬剤師として尽力していきます。
(聞き手 : 本誌 玉田・髙山)