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INTERVIEW 女性らしさを活かして、真のプロフェッショナルになりましょう

昭和女子大学 学長

坂東眞理子さん

昭和女子大学
1920年に創設した歴史と伝統ある女子大学として、数多くの卒業生を輩出。 学園目標の「世の光となろう」には、新しい時代を切り拓くには世のため人のために進んで自分の力を役立てようとする女性を育て、女性の力で新たな世界を築かねばならないという思いが込められています。これからの社会に貢献できる女性ならびに、アメリカボストンにある海外キャンパスを活用し、グローバルな視野とコミュニケーション力を持つ人材を育成しています。 

まずは昭和40年代からずっと女性の働き方について携わってこられた坂東先生に、その働き方の変遷などをお聞きしたいのですが。

21世紀になって15年経ちましたが、日本ではいよいよ本格的に少子高齢化を迎え、社会を支える働き手が減少してきたこともあり、ここにきて女性の活性化や社会進出が不可欠というように社会の雰囲気も少し変わってきました。20世紀後半の高度経済成長期の日本型経営は、女性にとっては適合性が悪いものでした。いわば「男性の男性による男性のためのシステム」だったのですね。社員は新卒で入社させ会社が育てる。定年まで年功で昇給昇進する。会社に入ってから教育訓練するので、大学では勉強しなくていい。そんな空気感がありました。そんな風潮の中、女性の場合は会社に入ってからも結婚→出産→育児と、職場を離れることが多いことも事実であり、そんな女性は会社の中で冷遇されていました。多くの経営者がおっしゃるのですが、以前から新卒入社時は女性の評価の方が高く、成績もよく、人物もしっかりしている。しかし、いずれ辞めていく人だという先入観が会社にあるため、教えない・育てない・チャンスを与えない。それだと当然、女性にとっては面白く無いから辞めていくという悪循環が20世紀後半の日本にはありました。年功序列・終身雇用と言う制度は男性のためのシステムだったのですね。

そのような時代を経験してこられてどのように感じておられましたか?

やはり女性も資格を持った方が有利だということです。会社をあてにしないで、自分で仕事ができることを証明するために、何か資格があることが自分を助けることになります。女性は自分に投資して資格を取る方が有利とは常々思っていました。そして今21世紀になって、多くの女性がそのことに気づいていると感じます。残念ながら私の大学には薬学部はありませんが、管理栄養士・保育士・教員などの資格を取る事が出来る学部は人気がありますね。手に職を持つということを考えると薬剤師さんはその代表的な仕事ですし、優秀な女性がその道にたくさん進んだことはとてもよくわかり、また正しい選択であると思っています。私の両親は私を医者にしたかったようで、幼少の頃からずっと医者になったらと言っていましたが、まったく違う方向に進んだ今振り返ってみると、やはり専門職は女性にむいていると思います。そんなこともあり、自分の長女は薬剤師の道を選びました。(笑)

先生のお嬢様も薬剤師でいらっしゃるんですね!さて、資格を取る重要性はよくわかりましたが、資格を取ることが手に職をつけることになるのでしょうか?

資格を活かして仕事をするためにはまず資格を取得することが必要ですが、それだけでは専門家としては通用しません。専門職というのは、その道のプロフェッショナルになることです。そのためには資格を取ってからが勝負です。最新の知見を吸収し、職場の中で苦しみもがきながら、人に教わり常に自己研鑽していくことで、どこでも通用するプロフェッショナルになることが出来るのです。国家資格はプロフェッショナルへのあくまで入り口でありスタートであることを肝に銘じておかなければなりませんね。いま薬学部は6年制になり、薬剤師の資格も医師と同じ年数の勉強をしないと取得出来なくなりましたが、6年間勉強してきたから十分な能力があるといばっているようではダメということです。

それでは具体的に何を心がけていけばいいのでしょうか?

社会人になると、人は3種類の人に分けられます。「言われたことも出来ない人」「言われたことはきっちりと出来る人」「言われなくても出来る人」です。言われた事も出来ない人は論外として、やはり優秀な人というのは「言われなくても出来る人」なのですが、これまでは職場の女性に対する期待はそこまで大きくなく、2番目の「言われたことはきっちりと出来る人」が重宝がられました。それ以上のことは求められてきませんでした。しかし女性の社会進出が必要不可欠な時代になり、女性で支えられている薬剤師という仕事を考えた場合、これからは3番目の「言われなくても出来る人」を目指すことが大切です。処方箋どおり間違いなくお薬を患者さんに提供することは当たり前で、そこから本来の薬剤師=医療人としての本分である「患者さんの健康を支える」という観点で行動できるかどうかが重要だと思います。自分で疑義照会や飲み合わせに気を配るなど、相手=患者さんの立場に立ってものを考え、先回りして患者さんの生活そのものに関わっていくことが出来るかどうかということですね。

女性に薬剤師の世界を引っ張っていく気概を持って欲しいということですね。

20世紀の高度経済成長期には、「良きリーダー」イコール「強いリーダー」という図式でした。 戦闘力があり、競争を勝ち抜く力を持っている人が良きリーダーであると。これはリーダーシップ論ではよく言われることなのですが、それはイケイケどんどんの高度成長期に望ましいリーダー像であって、今は少し違っています。成熟して豊かになり、高齢者が多くなった今の日本では、まず人々が助け合わなければならない。その中でリーダーシップをとっていくためには、相手の立場に立って物事を考えられる共感力や、相手に合わせて自分の役割を務める忍耐力、そしてそれらを一生学び続ける姿勢が必要になってきます。自分は何でも知っている、自分に黙ってついてこいといった強引なリーダーは今の時代では通用しません。薬剤師の世界は他の業界に比べると格段に日進月歩の世界であり、常に努力し成長し続けなければならないと思います。昔は職人として、個人でいい仕事が出来る人が優れていましたが、薬剤師の役割も大きく変わってきている現代では、チームを大切にし、周りの人と共感しながら、患者さんの生活全体へと関わっていけるような薬剤師が理想だと思いますね。そう考えると、男性より女性の方がより適した職業と言えるのではないでしょうか。

さて女性が仕事を続けていく上では、やはり結婚・出産・育児などにどう対処していくかが問題になると思うのですがいかがでしょうか?

日本で急速に少子高齢化が進んだこともあり、育児・介護休業法が整備され、女性の社会進出の後押しになってきました。しかし、まだまだ社会は女性の都合に合わせて働くことは難しいのが現状です。ワークライフバランスを考えて働きましょうと言うだけでは、一般職の場合なかなか思うように働くことが出来ないのですね。その点フレキシブルに、自分のライフステージに合わせてギアチェンジして働くことが出来る、稀有な職業が薬剤師であると思います。女性の平均寿命が86.4歳になり、その間社会人としてずっと同じペースで働き続けるのは困難ですし、その必要もありません。

今まで女性は、出産育児で休業した時点で社会からは切り捨てられていました。それが薬剤師さんだと、40年~45年の職業生活のうち、お子さんを出産してから3年~15年ペースダウンしても、30代~40代から十分復活できます。しかも休業中や時短勤務などの経験もそれ以降の仕事に必ず役に立ちます。仕事も他のスタッフもまだ残っているのに、保育園のお迎えのために職場を後に帰らざるをえない無念な経験なども、自分が逆の立場になった時に必ず生きてきますね。そうした中、有効な時間の使い方や物事を並行してパラレルに業務を進めていくコツも身につけられるのは、女性の特権では無いでしょうか。そういう経験から、私も30分あれば、一通り夕食の準備が出来るようになりました。(笑)多様な経験をすることで、自分の引き出しがどんどん増えていき、人生がどんどん豊かになっていくと思います。

それでは先生のお考えになる「女性らしさ」についてお話頂けますか?

「女性らしさ」「男性らしさ」「人間らしさ」と、いろんな「らしさ」がありますが、すべてに共通する『良い』らしさとは「やさしさ」や「思いやりの心」そして「責任感」だと思います。社会人として、また薬剤師として医療業界を引っ張っていくリーダーと言う意味の女性を考えますと、先ほどもお話し致しましたとおり、相手に対する「共感力」がとても大切になってきますね。これは多くの女性が元々持っている資質のひとつですので、一人ひとりがその部分を磨いていくことで、どんどん光ってくると思います。またよい女らしさを目指す上でもうひとつ重要なことは「コミュニケーション力」でしょう。しゃべることだけでなく、しっかりと聞くことができる女性は皆素敵です。個人差があることを大前提として申し上げますと、比較的男性は人と接することが苦手な人が多いと思います。女性は愚痴を聞いて欲しいのに、解決策を求められていると誤解する男性のどれだけ多いことか!(笑)ただ聞いてくれるだけでいいのに、それを面倒だと感じる男性との違いは、男性はアウトプットが得意、そして女性はインプットも得意と言うことかも知れませんね。「傾聴する」「傾聴できる」ということは、素敵な女らしさを形成することに大きく役立ちます。

では反対に「悪い女性らしさ」というものもありますか?

こちらも個人差があることは大前提ですが、一般的に女性は、細かいことにこだわりすぎて視野が狭くなることが多いと感じます。考え過ぎて慎重になり過ぎると、結局行動に移せなくなり立ち止まってしまうのですね。また視野が狭いと自分の物差しだけで相手のことを判断してしまい、間違った判断を下してしまうことも多くなります。そして、異性に対しては寛容で同性に対して厳しいことは人間の常ですが、特に女性はその傾向が強く現れることがあります。チームワークを形成する上で最も大切なことはお互いに相手のことを尊重することです。相手の悪いところにばかり敏感に反応することなく、お互いのいいところを認め合うことで一緒に成長していくことができるのです。このような「悪い女らしさ」などをひとつひとつ放置せずに直していくことで、人間は必ず成長していきます。相手の悪い部分をカバーして、いい部分を伸ばしていくことで自分自身も大きくなりますし、チームの結束も固くなっていきます。女性同士が協力するためには、自分よりも優れている女性を素直に認め、劣っている人も大きな心で受け入れることが大切です。そうすれば、女性が多い薬局や病院など、薬剤師の世界もどんどん明るくなり、活性化し、職場の風通しもよくなっていくでしょう。

それでは最後に、人生のギアチェンジのために、転職や復職を考えている薬剤師さんにひと言お願いいたします。

「嫌だから次を見つける」というネガティブな転職は成功しないと思います。あの人が嫌だから辞める、この仕事がしたくないから転職するという理由だけでは、次にどこに行っても同じことを繰り返す可能性が大です。もちろん転職は、現職に何か問題がある場合が多いことも事実ですが、それだけの理由では本当に自分に合った職場を見つけることは出来ません。「こんな仕事がしたい」「自分のこの部分を生かせる職場を見つけたい」など、積極的な転職はOKです。それには情報収集することがとても大切です。復職を考えておられるママ薬剤師さんなども、その薬局・その病院に入ってどんなことがしたいか、どのように働きたいのかなど、前向きに情報を収集して活動されると、いざ入社されてからも気持ちよく働くことが出来ると思いますよ。社会から必要とされ、今後ますます活躍の場が広がっていく薬剤師という仕事こそ、個々の志を高く持って、常にプラス思考で明るい未来を見据えながら職務に精励して欲しいと思います。

本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。

こちらこそ有り難うございました。

(聞き手 : 本誌 岡)

坂東眞理子さんプロフィール

昭和女子大学学長
昭和21年 8月17日 富山県生まれ

最終学歴

昭和44年 6月
東京大学卒業

職歴

昭和44年 7月 総理府入府
平成 6年 7月 総理府男女共同参画室長
平成 7年 4月 埼玉県副知事
平成10年 6月 在オーストラリア連邦ブリスベーン総領事
平成13年 1月 内閣府男女共同参画局長
平成15年10月 昭和女子大学理事
平成16年 4月 昭和女子大学女性文化研究所所長
昭和女子大学大学院生活機構研究科教授
平成19年 4月 昭和女子大学学長
平成26年 4月 昭和女子大学理事長
主な著書
『米国きゃりあうーまん事情』
『男女共同参画社会へ』
『日本の女性政策』
『女性の品格』