薬物動態には、吸収・分布・代謝・排泄の四つの過程があります。こうした薬物動態の概念を用いれば、「老化と薬」について考えることができます。
年齢を重ねると、薬物動態のパラメーターが変化します。したがって若いときと同じように薬を服用すると、気づかないうちに薬の作用が強く出て、副作用を引き起こすことがあります。これは、「吸収・分布・代謝・排泄」の値が、年を取ると変化するためです。
それぞれの過程についてみていきましょう。まず、「吸収」に関しては、高齢者であってもあまり変化しないといわれています。加齢によって腸の活動が弱くなるなどの影響はありますが、ほとんどの場合は大きな変化はないと考えられています。つまり、高齢者と若年者を比べると、「体内に入ってくる薬物量はあまり変わらない」ということです。一方、加齢によって変化が起こるのは「分布・代謝・排泄」です。
まず、「分布」です。高齢者では、体内で脂肪の占める割合が増え、水の割合が減っていきます。
薬には「油に溶けやすい薬」と「水に溶けやすい薬」があり、前者は肝臓で代謝されやすく、後者は腎臓で排泄されやすいという特性を持っています。体内の脂肪量が多くなると、「油に溶けやすい薬」は脂肪組織の中に移行しやすくなります。脂肪量が増えると体内に薬が蓄積されやすくなるため、その分だけ薬が長く体内に留まることになります。つまり、薬の作用時間が長くなります。
また、加齢によって体内での脂肪の割合が増えて水の割合が減ると、「水に溶けやすい薬」では水の割合が減った分だけ居場所が少なくなってしまいます。水の量が少なくなっているにもかかわらず、溶けている薬の量が同じ場合、その分だけ薬の濃度が高くなります。その結果、薬の効果が強く出て副作用が表れやすくなります。
要は、いずれの場合でも「薬の作用が強くなり、副作用の可能性が高まる」ということです。このことから、高齢者に対しては「薬の投与量」を調節しなければならないことが分かります。
一方、肝臓での「代謝」は、加齢によって機能が低下することが知られています。肝臓そのものの重量が減り、肝臓の血流量も減少します。その結果、薬の代謝が進まなくなり、それにともなって体内の薬物濃度が上昇してしまうのです。
腎臓での「排泄」も同様です。腎機能は加齢によって低下するため、排泄もスムーズに行われなくなります。腎臓での排泄能力は、25歳を境にして年々低下していくといわれています。つまり、年を取る分だけ薬の排泄能力が弱まるということです。逆にいえば、薬の効果がそれだけ強くなるということでもあります。
高齢者が若いときと同じような量の薬を服用すると、薬の濃度が知らない間に中毒域に近づき、副作用を引き起こす可能性が高まります。そのため、加齢に応じた薬の調節を行うことは大切です。
通常、服用量の調節は医師・薬剤師が行います。そのため、薬剤師である以上は常にそうした視点をもったうえで、患者さんと向き合わなければいけません。