会社というのは英語でCompanyと書きます。ものの本に寄れば、この言葉の語源は、一緒に(Com)パン(panis)を食べる人(y)という意味があるそうです。このパンは、今のパンではなく、キリスト教のミサで行われる聖体拝領で出てくるパンがもともとのオリジンだと思われますが、宗教的というよりも、むしろ、概念的・思想的なものの象徴だと思います。つまり、会社に入って一緒に働くというのは、その会社という枠組みのなかに集うメンバーが、社長も管理職も社員も、そして、常勤もパートも同じ概念や思想を共有して1つの目的に向かって突き進もうということなのではないでしょうか。
ただ、一般の会社選びの基準というのは、少し趣が異なります。どのような業種か、業務内容かということを業界研究の中で行い、自分の能力や経験、やりたいことは、その中で活かせそうかがやはり重要になります。様々なイベントや取り組みが、薬剤師や薬学生に限らず行われていますが、基本的には会社のプロフィールを知り、自分自身を知り、それらをマッチングさせるということになります。
そして、もちろんですが、会社で共に働く仲間や職場の雰囲気は毎日のことで大切ですし、何より福利厚生や給与も大切です。自分の特性やキャリアアップの可能性など自分自身のことを考え、職場や業界の特性や将来性を考え、最終的な候補が2つや3つに絞られてくれば、最後はやはり給与や福利厚生を含めた待遇面ということになるのが多いように感じます。
一方、転職になると、業界のことも、また、一定の年齢を超えれば自分のスキルや方向性もはっきりしてきますから、ターゲットや方向性も絞りやすいですし、標準的な自分の価値、希望する待遇の条件なども明確になり、なお一層この方向は定まってきます。昨今は、転職を支援する人材紹介エージェントも数多くありますから、事前に担当の方といろいろなお話をして、あと多少テクニカルな部分はそういったプロにお任せして、納得いく転職を行うというのは1つの方向性だと思います。
実際、私どもの会社も、新卒採用の際には、会社の雰囲気を体験してもらったり、待遇面でのメリットを強調したりすることがあります。また、中途で転職されてくる方16の中には、人材紹介会社からのご紹介で転職される方も数多くいらっしゃいますし、その中で、本当に最高の活躍をしてくださる方も少なくありません。
ただ、上手くいく人、いかない人というのがあるのも事実です。上手くいかない理由は様々です。私たち会社側がご期待に添えなかったというものもあるでしょうし、その方が思っていたイメージと異なっていたというものもありますし、また、決して多くはありませんが、能力や気力として薬剤師さんが気後れしてしまうケースもゼロではないようです。
ただ、上手くいく人、つまり、新卒・転職を問わずその方がいきいきとして、楽ちんではありませんが、楽しそうに現場で活躍をしてくださり、そのことを、私たち経営者サイドも本当に有り難く思っているというケースが最近は急速に増えてきました。潤沢とは言えない経営資源を、いかに、やりくりして会社運営をしようかということを、固い言い方をすれば、雇用側と被雇用側が一体となって知恵を絞りながら、毎日を過ごしていくということが行えるように少しずつなってきました。
先だっても、当社の管理薬剤師が一堂に会する会議の中で、どうして、この会社で働いているの?というお話になりました。どういういきさつでこういう話になったのかは、覚えていないのですが、経営者としては表面上は平静を保っているようでも、内心は、心臓ばくばく、冷や汗だらだらの状態で、各スタッフが一体どんなことを言ってくれるのか、文字通り固唾をのんで見守る状況となりました。というのも、私自身が2006年に「門前薬局を離脱する」と社内外に宣言し、それを、実際に推進していった中で、私たちは組織として大変な危機を何度も経験してきたからです。その危機の理由は、結局は、薬剤師にとっての業務は薬を飲むまでの仕事から、飲んでからの仕事にシフトすることによって、様々な問題が一斉にわき上がったことでした。薬剤師の仕事は、教科書がある仕事から、教科書がない仕事へとシフトしました。それによって、薬剤師は考えて仕事を進めていかなければならなくなりましたが、どちらかといえば、処方箋が来てからお渡しするまでというシンプルな仕事を、いかに早く・正しく・正確にするかということに慣れていた薬剤師にとっては様々なストレスになったと思います。
また、試行錯誤をしてきた中で、決してベストではないやり方でやってきましたから、業務の無理・無駄・ムラは避けられず、結果的にそれは現場の薬剤師の精神的・肉体的負担となってのしかかっていきました。残業が多いことは、薬剤師にとっても良いことではありませんし、それへの付加的な賃金のことを考えれば、経営的にもプラスとは言えません。
さらに、これらの業務は、調剤報酬上で評価されていませんでしたし、そもそも、当時は想定すらされていませんでしたから、当社の収益体制は一気に悪化することになりました。給与ベースはなんとか標準よりも上をとがんばりましたが、結局、賞与は必要最小限しかご用意できず、日頃の様々ながんばりに十二分にお応えできない状況が続きました。
こうなると、やはり、人も心も離れていくのは当然です。となると、さらに忙しさには拍車がかかり、職場の雰囲気は乱れ、さらに退職が相次ぐという事態に陥ります。会社を運営していくためには、人、もの、カネが大切だと言いますし、人材を人財と表現する場合もありますが、これは、本当に痛手でありましたし、会社の社長としては、自分の実力のなさを痛感するとともに、そもそもこういう仕事をしてきた意味はあったのかと思っていたからです。
そんな思いで当社の薬剤師がなんというのかを聞いてみると、みんな、すごいことを言ったのです。「ここでしかできない仕事がある」「自分がやりたいことがここにある」「新しい医療環境の創造(注 当社の経営理念です)実現のためにがんばりたい」など、私もいますし、みんないるという場所だからということを差し引いても、なんともうれしいことを言ってくれたのです。
しかも、ひとりひとりの顔を見ると、みんな本気で言ってくれているように、欲目があるとしても、感じたのです。内心、わきあがってくる、感激というか感謝というか、感動の気持ちが顔に出るのをなんとか押さえながら私が思ったのは、あぁ、これは、どこかで読んだCompanyの語源になっていると思いました。
こういったことは、もちろん当社だけではありませんし、薬局業界に限ったことでもありません。むしろ、普遍的に重要なことではないかと思います。是非、就職や転職の際には、このCompanyの語源から来る会社選びの新基準を参考にしていただければと思います。