薬を活用するとき、やみくもに投与するのではなく「その人の遺伝子に合わせて薬を活用する」という方法が存在し、これは遺伝子診断によって実現できます。実際にその人の遺伝子を診断し、そこから薬が効くか効かないのかをあらかじめ判断しておくのです。
遺伝子診断を考えるうえで重要な薬に、イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)があります。イレッサは2002年に承認され、世界に先駆けて日本で発売された薬です。イレッサは薬害を起こした薬の一つで、「イレッサ訴訟」などでも知られています。
イレッサはまったく新しいタイプの肺がんの治療薬であり、発売前は「がん細胞だけを狙い撃ちする、副作用の少ない新薬」として宣伝されていました。ただ、実際に使用してみると、重大な副作用である間質性肺炎によって半年で180人が亡くなったといわれています。
肺炎とは違い、間質性肺炎は呼吸不全を引き起こす致死性の高い疾患です。調査によると、イレッサの投与によって間質性肺炎を発症する確率は約4%であり、その3分の1程度の方が亡くなるという報告があります。
イレッサが効きやすい人の特徴に、特定の遺伝子に変異があることが分かっています。そのような人では、71.2%の確率で腫瘍が縮小するとの報告があります。ちなみに、「遺伝子に変異が起こっていない人(イレッサが効かないであろうと遺伝子診断で推測できる人)」では、1.1%の方にしか腫瘍縮小効果がありませんでした。
そのため、イレッサを有効に使用するためには「遺伝子に変異が起こっているか」を調べることが重要になります。薬の説明書である添付文書にもそのような記載がされています。そのため、イレッサを使用する場合、基本的には遺伝子検査を事前に行うようになっています。
イレッサが発売された当初は、遺伝子検査が行われないまま薬が使用されていました。こうした状態では、全体の27.5%の人にしか腫瘍縮小効果がなかったと報告されています。
ということは、発売当初はイレッサを投与しても効果のない大多数の人に薬が投与されたということです。その後、研究が進んで医療技術も発達し、また、イレッサ訴訟の傷跡もあって、現在では「遺伝子に変異が起こっているためにイレッサが効きやすいと判断された人」だけに薬を使用することが、治療における基本方針になっています。