薬剤師のための心と身体のスタイル提案マガジン ファーストネットマガジン

カウンセライダー日並の『こみコミ通信』 あなたらしく、美しくキャリアをデザインする 最終回

カウンセライダー日並の『こみコミ通信』

第1回・2回ではキャリアデザインの概要と「自分で決める力」の磨き方についてお伺いしました。
最終回では、特に薬剤師のキャリアデザインについてお伺いしたいと思います。

  • UNIV(以下 U)

    早速ですが、「薬剤師のキャリアデザイン」についてどのようにお考えですか?

  • 日並(以下 H)

    今後キャリアデザインを考えるにあたって、いくつか織り込むべきことがありますが、そのひとつに「人工知能(AI)」があります。野村総研とオックスフォード大学との共同研究で、今後10〜20年後には現在の仕事の約半数はAIやロボットに代替えされる可能性があるとしています。薬剤師の業務の中でも、AIやロボットの方が効率よく出来るものがあると思います。例えば「処方箋通りに早く正確に調剤をする」という仕事などは、うっかりミスが大きな事故になることもあるので、疲れや体調、ストレスに左右されないロボットの方がいいかもしれません。いずれはどんな職場にもAIやロボットが導入されていくと考えられます。

  • U

    それでは、薬剤師の仕事は今後どのようになっていくとお考えですか?

  • H

    推測の域は出ませんが、AIが深層学習によって発達しても人間には及ばないこと、ロボットには不得手な仕事というところが注目されるでしょうね。脳科学者の茂木健一郎氏は、人間ならではの仕事の領域として次の5つをあげています。コミュニケーション能力・直感力・身体性・イマジネーション・イノベーション。薬剤師としては、やはり患者さんとコミュニケーションを取ることのできる方が残っていくのではないでしょうか。前回お話した通り、人間ならではの五感と第六感を磨いていくことがより重要となっていきます。
    また、地域の健康サポート薬局としてセルフメディケーションなどの情報発信を行う部分で、より薬剤師の活躍が期待されると思います。私は現在受刑者の就労支援に関わっていますが、刑務所にも薬剤師さんがいます。服薬している受刑者が多いことと、違法ドラッグ関連の犯罪が増えていることでその需要も高まっているようです。今後更に、薬物乱用防止について薬剤師の視点からの活動が増えていくのかもしれませんね。

  • U

    なるほど、薬剤師の仕事もどんどん変わっていくということですね。

  • H

    そうですね。変化のない仕事は人の手から離れていき、今までそこで使われていた労働力は新しい価値に向けられます。
    「キャリアドリフト」という言葉をご存知ですか?ドリフトとは漂流を意味します。キャリアデザインの中で大きな方向付けをし、そちらへ向かっていると思っていても、気付けば想定した結果から離れたところにいた…ということは往々にしてよくあることです。その予期せぬドリフトの中には、大きなチャンスや気付き、出会いがあります。意外な展開をポジティブに捉えることで、新しい価値も生まれてくるのではないでしょうか。

  • U

    そうですね、全く異なる経験をすることで、同じものに対しても違った見方ができるようになり、新しいアイディアが浮かぶかもしれませんね。

  • H

    人の能力というのは、ずっと同じことを繰り返しているとそれ以上の大きな成長は見込めないそうです。その中で意外性のあることをすると、格段に能力が伸びるのだとか。現在、医療機関の多くで薬剤師が不足しています。これはある意味とてもチャンスで、極端に言うと「薬剤師」という職種から一時的に離れても、資格があればまた薬剤師に戻れるということです。薬剤師という仕事しかしたことのない方が多い中で、全く異なる経験を積んだ方というのは視点が増え、文化や風土の違いを受け入れる耐性も強化され、とても重宝されると思います。薬学部を卒業すると、薬剤師以外に道はないと考える方が多いように思うのですが、逆に薬学部を卒業した方や薬剤師の経験をした方を「薬剤師」という職種以外で欲する会社は世の中にたくさんあると思います。また、職種は同じでも病院・薬局・ドラッグストアなど異なる環境の中で、様々な経験を積むことも強みになりますね。「薬薬連携」の際もそのような方が増えると、よりスムーズに行えると思います。

  • U

    ユニヴでも薬学部を卒業した方を社員に迎えました。薬剤師の皆さんを取り巻く環境や状況が実感を持って分かるというのは、薬剤師や薬局・病院を支援する立場として非常に魅力ある存在です。このように考える企業さんもたくさんあるでしょうね。

  • H

    もう一つ、現在様々なところで「かかりつけ薬剤師」になるには何が必要かという議論がなされていますが、私は「連携」が不可欠だと考えています。チーム医療における他の専門職との連携や社内での連携、患者さんの家族との連携など…、他者と連携することで「かかりつけ薬剤師」の目指すものが実現できるのではないでしょうか。そして連携にはやはり、相手の立場に立って考え、主体的に行動できることが重要ですね。
    薬剤師の仕事は今後、よりサービス業的になっていくのではないかと考えています。そして「新しい薬剤師」の姿は突然変異的に発生するものではなく、社会や医学の歴史、薬剤師・薬学の歴史の中に必ずヒントがあると思っています。今までの大きな流れを汲みながら、新しい薬剤師として新しい価値を提供していけるよう、皆さんにもキャリアデザインを見据えていって頂きたいと思います。

  • U

    ありがとうございました。

【キャリアドリフトとは】
自分のキャリアについて大きな方向付けさえできていれば、人生の節目ごとに次のステップをしっかりとデザインするだけでいい、節目と節目の間は偶然の出会いや予期せぬ出来事をチャンスとして柔軟に受け止めるために、あえて状況に“流されるまま”でいることも必要だという考え方を言います。ドリフト(drift)とは「漂流する」という意味。キャリアドリフトは、神戸大学大学院の金井壽宏教授が提唱するキャリア理論のひとつで、職業人生はキャリアデザインとキャリアドリフトの繰り返しであると考えられます。

日並 昭夫氏プロフィール
日並 昭夫 氏

株式会社 パーソナルヴィジョン研究所

経歴

2003年武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科を修了すると同時にカウンセラーとして独立。現在は、個人のキャリア開発支援、若年者の就労相談をメインとしたカウンセリングを行う。就職だけを目的とせず「個人の生き方」をベースとして、現実に則した実践的なスタイルを確立している。また高校・大学等でのキャリア教育推進、企業に向けての社員定着支援も積極的に行っている。