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狭間研至氏 連載 在宅医療を考える

第9回 薬剤師業務を対物から対人に変えるための3つのポイント

ファルメディコ株式会社 狭間研至氏 連載 在宅医療を考える

「患者のための薬局ビジョン」の意味

2015年10月23日に厚生労働省から「患者のための薬局ビジョン」が公表されました。超高齢社会を迎えた我が国で、「地域包括ケア」という概念を具現化していくためにも、薬局や薬剤師も変わっていく必要があるとされ、「立地から機能へ」「対物から対人へ」「バラバラから1つへ」という3つのキーワードが示されました。
この「ビジョン」が出されたとはいえ、すぐに薬局業務や薬剤師のあり方が変わるわけではありません。今までも、薬局の「グランドデザイン」とか「あるべき姿」というのは職能団体や学会がとりまとめるような形で発表されてきました。薬学教育が6年制に移行し、医薬分業率が70%を超え、地域医療のあり方が大きく変わろうとしている中では当然のことだと思います。しかし、それらが発表されたからといって、あまり薬局や薬剤師の日常には変化がなかったものですから、それは当然の反応かも知れません。
しかし、今回は違います。それは発表したのが、医療のあり方を構想し様々な施策を実行していく「厚生労働省」だということです。その大本が「薬局」に関する「ビジョン」として発表したということは、今後まずは2025年を見据えてこういうものを目指すよ、ということが明らかにされたわけで、現在の薬局の薬剤師のあり方に疑問を抱き、これからの展望に悩んでいる私たちにとっては、まさに、羅針盤ともいうべき重要な文書だと思います。

対物から対人へといわれても

とはいえ、急に対物から対人といわれても困ってしまうということがあるのではないでしょうか。毎日の業務は、処方箋を応需し、中身をチェックし、必要な疑義照会を行った上で、正確・迅速に調剤し、わかりやすい服薬指導とともにお薬をお渡ししたあと、一連の業務内容を遅滞なく薬歴に記載するという仕事です。薬を間違えずに、早くお渡しすることは大切ですし、間違った服薬指導をしては患者さんに健康被害が及びますから、現在の薬剤師の仕事は極めて重要です。また、この業務をきちんと行うことは、薬局経営の観点からも非常に大切であることは誰の目にも明らかなのですが、「お薬をお渡しする」という「対物業務」だと言われてしまえば、なかなか反論が難しいのも事実です。でも、毎日の仕事のことを考えると、この業務から脱却するというのは決して容易なことではありません。むしろ、通常では不可能だと思ってしまうのではないでしょうか。
しかし、時代は大きく変わりつつあります。薬剤師が対物業務にのみ専念することは、薬局経営にとっても、薬剤師にとっても、地域医療にとっても無理がある時代はすでに到来しはじめています。薬剤師の業務は、いよいよ対物から対人へとシフトしなくてはならなくなってきているのです。では、どうすれば良いのか。私たちの薬局での経験も踏まえて、薬剤師が変わるための3つのポイントをご説明しましょう。

薬剤師の業務に余裕を作る

まず、一番やってはいけないことは、現在の薬剤師の業務に「対人業務」を負荷することです。これは、絶対にやってはいけません。なぜなら、薬剤師のほとんど全てが疲弊し崩れてしまうからです。医療従事者全般に言えることではありますが、現在の薬剤師も基本的に過重労働気味です。そこに、患者の状況を見に行くとか、バイタルサインを採集しフィジカルアセスメントを行うとか、医師との訪問診療に同行するといった新たな業務を加えることは、現実的ではありません。
最初の1〜2週間は、なんとか過ごせるかも知れませんが、それを超えると慢性的な疲労に陥り、結局は心身の限界を超えてしまいます。どんなに良いシステムも永続性が担保できなければ、医療従事者はもとより、患者さんにも大きな迷惑をかけてしまいます。
これを避けるためには、現在の薬剤師業務を大きく見直して、薬剤師に時間と体力と気力の余裕をつくる体制を構築することです。そのキーワードは、機械化・ICT化と非薬剤師の活用です。その際に注意すべきことは、一足飛びに薬剤のピッキングといったことに手をつけるのではなく、例えばちょっとした機器やシステムを導入すれば薬剤師の手から離すことができる機械的な繰り返し業務をしかるべきシステムでの業務に置き換えたり、在庫管理や納品、居宅療養管理指導の契約業務など明らかに薬剤師免許が必要ではない業務を非薬剤師のスタッフでサポートすることです。これらにより、週に3時間でも隙間時間ができれば、その余裕の部分で薬剤師は次の業務に取り組むことができます。

対物業務で果たしてきた責任を対人業務にシフトする

当然のことですが、薬剤師は無責任に仕事をしてきたわけではありません。いわば「対物業務」の責任は、周囲で見ていても感心するほど果たして来られていると思います。例えば、毎日の棚卸しで抗凝固薬の規格間違いが発生したことに気がついたとしましょう。それが例え夜10時半を回っていたとしても、薬剤師はすぐに患者宅に電話をして直接お宅までお伺いし、心からの謝罪ととともに正しい規格のものと交換するのではないかと思うのです。ただ、調剤を担当した患者さんが、極端な話、急変されて生命の危機に瀕するような状態になったとしても、正しく調剤していれば、それは自分の範疇ではないと考えられてきたのではないかと思います。これは決して悪意があったわけではなく、薬剤師はそういうところにタッチする職種ではないというのが業界全体のコンセンサスとしてあったのかも知れません。
新しい業務を行い、新たな責任を負うとなると多少なりとも緊張し、場合によっては躊躇してしまうことがあるかも知れません。しかし、対物業務で果たしてきた責任を、対人業務にシフトするのだというように考えれば、最初の一歩は意外に踏み出しやすいように思います。

自分自身が薬剤師を目指したWhyを問い直す

頭や理屈ではわかっている、でも、いざとなると実際に行動ができない…というのは、私たちが日常生活の中でよく経験することでもあります。特に人間は、自分が新たなことをやらなくて良い理由を極めて上手に作り上げ自分自身を説得することができますから、なかなか新たな行動を起こすことは難しいものです。
そのようないわば膠着状態を動かすきっかけになるのが、薬剤師一人一人が、なぜ、自分がこの職業についたのかということを考えてみることなのではないかと思ってきました。現在の業務がどのようなものであれ、薬学部に入って薬剤師を目指すようになったきっかけや出来事を思い出して見ると、決して薬を準備したり、説明して渡したりといったことがやりたかったわけではないことに気がつくことがほとんどです。やはり、薬剤師は、患者さんの状態を見て、お一人お一人に最も適した薬物を選択・準備をし、正しく服用していただくことで、その方の治療がよりよい方向で進むように薬学的見地からサポートすることをしたかったのだと思うのです。これは、まさに薬剤師がやりたかったことは、対物ではなく対人だったということであり、ここに気がつけば、行動を起こすためのちょっとした勇気が湧いてくるのではないでしょうか。
毎日の業務やあり方が急激に変わるわけではありません。しかし、ちょっとした時間の余裕を作り、考え方を変え、自分がそもそもこの業界を目指した理由を問い直すことで、半年後、1年後、3年後、10年後の薬剤師の姿は大きく変わっていくはずです。考え方が変われば行動が変わり、行動が変われば結果が変わる。是非とも、今が勝負時と考えて、考えを行動に移していただきたいと思います。

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