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UNIV
配偶者控除内で働く女性薬剤師さんも多く、2016年10月の「配偶者控除廃止見送り」というニュースは大きな関心事だと思います。そもそも配偶者控除とはどういったものでしょうか。
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田中
配偶者控除制度は元々1940年、「扶養控除」の対象に「同居の妻」が追加されスタート、1961年には扶養控除から独立した制度として創設されました。目的の一つの側面は、専業主婦世帯に税制でのメリットを与え、女性は子供を産み育て、家で夫を支えるという家族の形を推進することでした。しかし、専業主婦世帯が段々減り、2000年には共働き世帯が逆転、現在では共働き世帯が多数派を占めています。これはご主人の給与減少もありますが、女性の社会進出が進んできたことが要因だと思います。このような環境の中で、女性の働き方を制限する「配偶者控除」は果たして正しいのかと議論になっています。
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UNIV
女性の生き方が多様化しているにも関わらず、制度は1940年から変わっていないということですね。
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田中
税制は人の行動に影響を与えるので、「税制は国の政策を写す鏡」だと言われますが、共働き世帯が主流となった今、税制面での対応が非常に遅れていると思います。世帯収入でみる夫婦控除という仕組みも検討されていますが、減税額が相当な規模に上るため、財政的に厳しいというのもこの制度が変わらない要因かもしれません。ただ、配偶者控除適用の収入上限引き上げ等、将来の廃止に向けての機運は高まっていると感じています。
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UNIV
それでは、控除内で働く薬剤師の皆さんは今後、どのような働き方を考えていくべきでしょうか。
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田中
年収130万円を超えると社会保険に加入しなければならないので手取りの減少に気を付ける必要がありますが、160〜170万円以上稼げば、所得税や社会保険料を支払っても手取り収入は増えていきます。まずはそのラインを目指してみるというのはいかがでしょうか。
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UNIV
なるほど。時給2000円で1日4時間・週4日勤務すると年収170万円弱になります。もちろん家庭でのご相談の上ですが、今後の流れを考えると、今までの103万円という枠より少し多めに働いてみるのも良いかもしれませんね。
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田中
皆さんが薬剤師を目指したきっかけや、薬剤師としてのやりがいを感じられることがあると思います。「やっぱりこの仕事を選んでよかった」「これからも薬剤師として人の役に立っていきたい」という思いを持たれているのであれば、せっかくそんなお仕事に出会えたのだから、是非そこを活かして欲しいですね。「控除内で働かないと損」と考えて人生を制限してしまうのは、私はとてももったいないと思います。
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UNIV
ただ、今後復職を考える薬剤師さんから、家庭と仕事の両立について不安のお声をよくお聞きします。
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田中
両立も大変ですが、専業主婦も本当に大変ですよ!私は第2子出産を機に退職し、1年間だけ専業主婦をしましたが、2人の子供が小さかったこともあって1日が本当にあっという間でしたね。仕事をしていたらお昼休みは自分の時間で、ちゃんと座ってお昼ご飯を食べられるのですが、家にいると洗濯して干して取り込んで畳んで、掃除して、ご飯作って、自分のご飯は座って食べられないし自分の時間もない……でも、それを誰も評価してくれないんです。それまでの「専業主婦はいいな」という思いは全くなくなりましたね。そして、夫の方はというと結婚しても出産してもキャリアには何の影響もなく、同じ大学を出て就職したので、余計に悔しい気持ちもありました。
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UNIV
その後、家庭と仕事を両立しながら税理士試験に合格されたのですよね!是非、読者の皆さんへ両立についてもアドバイスをお願いします。
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田中
全てを完璧にやろうと思わないことですね。昔は私も、仕事と家事と育児、全部完璧にしないと!と思って頑張りすぎたことがありました。でもそれもずっとは続かず、ポキンと折れてしまいました。完璧を求めずに、それでも一生懸命に、夫としっかりコミュニケーションを取りながら、周りにも甘えながら両立するというのが大切ですね。
あと、子供を保育園に預けることや、子供が学校から帰る時間に家にいないことを「かわいそう」だと思わないことです。私はずっと後ろめたい気持ちを持っていました。子供にもそのマイナスの思いは伝わってしまいます。私が、頑張っている母親の姿をしっかりと見てくれていると気付いたのは子供が高校生になってからでしたが、皆さんにはもっと早い段階でそのことに気付いて欲しいですね。子供にも「お母さんはこんな仕事をしていて、大変なことも沢山あるけど、こんなに楽しいしやりがいがあるんだ」としっかり伝えていくことが大切だと思います。母親の一生懸命な背中を子供は必ず見ていますし、いずれ自分の一番の理解者になってくれると思います。 -
UNIV
税制を気にして人生を制限してしまわずに、職場や家庭でのコミュニケーションを大切に両立していくことで、より充実した人生が待っているかもしれませんね。
貴重なお話をありがとうございました。