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インタビュー 若手薬剤師の独立チャンス到来!?薬局業界再編と今後の薬剤師

株式会社 ユニヴ
代表取締役

武内 弘之

株式会社 日本経営承継支援
代表取締役

伊東 裕人氏

ユニヴは日本経営承継支援の皆さまとタッグを組み、個人薬剤師の独立を後押しすべく積極的に活動して参ります。
今回は、日本経営承継支援の代表取締役である伊東氏に、今後の調剤薬局業界の再編や薬剤師の独立についてお話を伺いました。

  • 武内

    調剤薬局業界の再編について、どのようにお考えですか?

  • 伊東

    現在、調剤薬局は全国で約5万7000店舗あります。コンビニエンスストアが約5万店舗ですので、それを上回る数があるということです。しかし、調剤薬局大手10社の占めるシェアは売上ベースで全体の約13%しかありません。例えば、ドラッグストアでは上位5社で50%超、医薬品卸では上位4社で約85%、コンビニにおいては上位4社で90%超のシェアを占めており、業界再編が進んでいることが伺えます。調剤薬局業界も大手への集約化が進みつつあり、2年に1回の調剤報酬改訂を睨んで、今後更に加速していくと考えています。厚生労働省も社会保障費の増加を抑えるために、調剤薬局業界の効率化を考えており、一説によると将来的には半分ぐらいの数にするといわれています。

  • 武内

    大手への集約化というのは一気に進むものなのでしょうか。

  • 伊東

    大手の調剤チェーンは経営の効率性を求めます。例えば、一日あたりの処方箋枚数が最低80枚以上の薬局しか基本は手掛けたくない、あるいは大病院の門前や医療モールのような儲かる薬局しかしたくないということです。すなわち、ある程度規模のある中堅チェーンは大手への集約化が進むと思います。一方でクリニックの数はどんどん増加しています。今後ますます、在宅などきめ細やかな医療が求められる中で、処方箋枚数が一日あたり40枚程度で、地域に根ざした個人オーナーの薬局は残っていくのではないでしょうか。

  • 武内

    薬剤師さんのご転職をサポートする際、オーナーが薬剤師である薬局に転職したいとおっしゃる方が非常に多いんですね。大手のチェーンでは非薬剤師の経営者の方々がまずは経営を第一に意識されている。もちろん個人薬局でも経営を意識されつつも、薬剤師として医療人として、地域にどのような医療サービスを提供するかという意識を大切にされようとするオーナー薬剤師さんがいらっしゃるからではないかと感じています。ただ、後継者不足で譲渡を考えるオーナーさんのお話もよく伺います。

  • 伊東

    そうですね。オーナーがご高齢になられてお子さまがいない、あるいはいても継いでくれないというときに、役員の中で後継者がいるかというと経営的には問題なくても、何千万円〜何億円とする会社の株は中々買ってもらえないですよね。銀行の借り入れがあると連帯保証の兼ね合いもありますので、難しいケースが多いですね。
    それ以外にも、処方元のクリニックが急に廃業することになったり、逆に100店舗程持つ中堅チェーンの調剤報酬改訂での選択と集中による売却や、処方箋受付回数が月4万回を超えることでの切り離しもありますね。昨今、様々な理由で調剤薬局の譲渡案件は増えています。独立開業したいと考える若い薬剤師の方々にとっては、これからチャンスが更に増えてくるのではないかと思います。

  • 武内

    一般的に、薬剤師の年収は350〜600万円ぐらいの幅だと言われています。薬学部6年制の学生のうちの約6割が奨学金を借りており、借入額は多い方で1300〜1400万にのぼります。国家試験を通り、先程の年収幅でスタートしますが、奨学金返済の目処が立たず、結婚やマイホームなどのビジョンが持てない若い方が増えてきています。ある程度早期に薬剤師としての技能を身につけ、経営ノウハウも学べる環境であれば、若い方でも早く独立する時代が目先に迫っているように感じますね。

  • 伊東

    薬剤師になられて調剤経験を数年積まれ、これからのキャリアを考えられるときに、サラリーマンとして勤める生き方、一方で独立開業する生き方、それぞれメリット・デメリットがあると思います。個人の生き方ですので、一概にどちらが良いというのは言い切れません。一般的に言えることは、サラリーマンとして勤めると、経済的には安定します。ただ、働き方が不自由だったり、定年があったり、人間関係で悩まれたり、収入もそんなに上がらないということもあります。独立開業されて一国一城の主になると、場合によっては倒産してしまうという経営のリスクがある反面、働き方や方針が自由にできる、頑張ってうまくいけば収入も増える、あまり人間関係で悩むこともない、やりがいもあるといったメリットがあります。
    「雇われる」というのは短期的には安定しますが、私はそれが中長期的な安定とは言い切れないと考えています。私は大学を出て野村證券という会社に勤めたのですが、新入社員の時に銀行や証券会社が次々に潰れていくのを目の当たりにしました。また、企業内で求められるスキルや経験もどんどん変わっていきます。薬局もこれまでは、処方箋通りに薬を調剤してお渡しすれば良かったのが、これからは患者さんとのコミュニケーションが求められたり、在宅や24時間対応が求められるなど、求められることがどんどん変わっていきます。高度経済成長期のような終身雇用の時代でない今、大企業に長く勤めあげることを優先するよりも、自分で独立してもやっていけるという気概とスキル、経験を身につけて、自分でやっていくことのほうがかえって安全・安心と言えるかもしれません。
    豊かになるというのはお金や時間、生き方など様々な面があると思いますが、独立することはこの3つともを同時に追求できるチャンスがあるということです。ある程度リスクを取ってもチャレンジしたいという方にとっては、独立開業はとても夢のあることだと思いますね。

    また、調剤薬局という事業は外食や小売に比べると、非常にリスクの低い事業だと思います。小売や外食であれば、新規出店の立地が自由な一方で、出してみないとどうなるか分かりません。調剤薬局の場合は、処方元の病院やクリニックがあり、その門前という場所は極めて限られています。国として、「門前」から「かかりつけ」へということはありますが、現実問題として住宅地のど真ん中に新規出店して経営していけるかというと難しく、やはり立地は非常に重要です。M&Aという手段を使うことで、その店舗のこれまでの実績とほとんど同じ処方箋を確保する、工夫と努力次第で更に上乗せしていくこともできます。

  • 武内

    最近、「独立支援制度があるのでいずれ独立できる」と言われて入職したにも関わらず、独立できないというケースをよくお伺いします。

  • 伊東

    我々もよく耳にしますね。中々事業承継というのは難しく、オーナーの方も将来を考えて勤務薬剤師を後継者候補として入れるのですが、いざ自分が引退するとなるとその後何をしたら良いか分からない、経済的に不安だということで、結局中々引退できないままこういった問題が出てきてしまいます。M&Aという形態できちんとお金を払って、自分が独立したいタイミングで独立するという選択肢をご検討頂くのもひとつの手段だと思います。

  • 武内

    独立希望の薬剤師の方がM&Aを検討される場合のポイントはどんなところでしょうか。

  • 伊東

    薬局規模は大中小とざっくり分かれると思っています。大は処方箋枚数が1日80枚以上、中は60枚前後、小は40枚以下です。独立薬剤師の方々がターゲットとすべきは小と中の間、30〜50枚規模が良いと思います。大手は80枚以上、中堅チェーンは60枚以上ないと買わないのですが、その規模だと1店舗で1億円以上になります。中々、個人の方には価格的に手が届きません。2000〜4000万円であれば自己資金プラス借り入れで買える可能性が十分あると思うのですが、それが30〜50枚規模の薬局になります。

  • 武内

    個人薬剤師が薬局購入にあたって借り入れるお金の上限はあるのでしょうか。

  • 伊東

    最初に日本政策金融公庫の無担保無保証の創業ローンで1000〜3000万円を借りて、足りない部分を銀行やノンバンクから借りるというのが多いですね。利益が出ている薬局であれば、外食や小売で新規出店するときに比べてかなり借りやすいというのは事実です。
    ちなみに大手が小規模の薬局を買わないのは、人件費を負担するとあまり利益が出ないからです。個人の独立薬剤師の場合は自分の報酬はしっかり取れるので割に合います。その辺りが狙い目ですね。また、薬局は買いたいという方が多く、売りたいというニーズが来て1週間以内で決まるケースも多くあります。独立を考えておられる方は、エリアや診療科目のニーズ、予算を先に登録して頂き、案件が来た時にすぐにご案内させて頂ける環境を整えた方が良いと思います。

  • 武内

    日本経営承継支援さんとタイアップさせて頂いておりますが、今の率直なご印象はいかがでしょうか。

  • 伊東

    ユニヴさんと日本経営承継支援は非常に補完関係があると思っております。薬局のM&Aを手掛ける際の、M&A自体のスキルや経験はもちろん、調剤薬局というある意味特殊な業界、事業の経営に対する知識や経験を我々は持っています。次にマッチング相手を探すとき、大手チェーンや中堅チェーンであればネットワークを持っています。しかし、処方箋枚数が30〜50枚ぐらいの、実はここがボリュームゾーンでご相談が一番多いのですが、これから独立したいという薬剤師にとってはちょうど手の届く範囲で、頑張ればもっと伸ばせる、というところの買い手候補さんを見つける部分は、我々にはネットワークがあまりありません。そこに関して個人薬剤師のネットワークを持つユニヴさんと一緒にセミナーを開催したり、ファーネットマガジンで情報発信して頂いたりして、補完して頂いています。個人オーナーのM&Aのお手伝いができないと、廃業してしまうこととなります。ユニヴさんと共に、1店舗でも残して、地域医療を守っていきたいと考えています。

  • 武内

    我々は独立も一つの転職だと考えています。薬剤師さんの次なるステップがより高い一歩となるように、今後も日本経営承継支援の皆さまとタッグを組み、より良い橋渡しをしていきたいですね。