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薬剤師が予防接種!? カナダと日本でここまで違う薬剤師の職能

株式会社オーラコンサルティング リードコンサルタント

若子 直也 氏

2001年 京都大学薬学部卒業 薬剤師免許取得
2003年 京都大学大学院薬学研究科修了 薬学修士
2012年 カナダ薬剤師免許取得

日本での調剤薬局経験を経て、カナダで薬剤師としてご活躍される若子直也先生に日本とカナダの違いについてお伺いしました。

薬剤師の地位

日本において、一般の方に「薬剤師のイメージ」について尋ねてみると、「病院やクリニックでもらった処方箋をもとに薬をくれる人」という回答が多いですね。医師が決めた治療方針に対して、薬剤師が調剤をする。患者に対して何をするにしても医師の許可が必要であり、ほぼすべての権限が医師にあるといっても過言ではありません。薬剤師が医師の許可なく独自で決定できることは非常に少ないのが現状です。対して、カナダでは薬剤師自身の決定権が格段に大きく、薬剤師の「職能の広さ」が日本とは大きく異なります。その職能の広さから、薬剤師は医療系の中で最も信頼される職業に選ばれ、全ての職種でも第3位にランクインしています。カナダの国民の間では軽度の疾患はまず医師よりも薬剤師へ相談するのが常識となっており、プライマリケアにおいて大きな役割を果たしているのが薬剤師だといえます。すぐに医師にかかれない患者の相談に応じることも薬剤師の大きな役割の一つであり、患者から厚い信頼を置かれているのもこの役割のためかもしれません。日本に比べカナダのほうが世間における薬剤師の地位が高いといえます。

薬剤師の職能

日本とカナダで異なる点について見てみましょう。

株式会社オーラコンサルティング リードコンサルタント 若子 直也

●リフィル
カナダではリフィルという制度があり、慢性疾患で受診した場合、6ヶ月、1年分の処方箋を受け取り、薬局に保管して薬剤師と相談しながら、2ヶ月、3ヶ月分の薬を調剤してもらいます。薬を薬局で受け取る際に、その都度、薬剤師と相談しながら、医師に相談するべきか、そのまま薬を続けるべきかを決めていきます。薬剤師の判断で数ヶ月分の薬を出すことができますので、薬が必要になる度に医療機関を受診しなければいけないといった患者の負担を減らすことができます。

●予防接種
カナダでは薬剤師が予防接種をします。ブリティッシュコロンビア州では小児の定期予防接種以外なら全て薬剤師が行えます。冬場だとインフルエンザの予防接種が多いですね。他にも、子宮頸がんワクチン、肝炎のワクチン、帯状疱疹ワクチンが挙げられます。

●テクニシャンの存在
カナダの薬局では、薬剤師の数が少ない代わりに、テクニシャンの存在が欠かせません。テクニシャンは調剤助手のことで、カナダの薬局では対物業務のほとんどをテクニシャンが行います。テクニシャンがいることで、薬剤師は患者ケアや医師との薬物治療の共同作業など対人業務に注力することができます。薬剤師の数が多い日本では導入が難しい制度かもしれませんね。

●保険請求と患者負担額の軽減
カナダは国民皆保険であり、カナダ国民は日本でいう国民健康保険に入ることができます。これにより受診、手術など、基本的な医療費はすべて無料です。ただ、お薬代は所得に応じて自己負担になります。長期的に服用する患者にとってはお薬代の負担が高くなってしまうため、薬剤師が国保とプライベート保険の仕組みを理解し、負担額を軽くしつつ、同じような薬効が得られるよう処方提案をしたり、独自の判断で変更したりする必要があります。

以前は、カナダの薬剤師の職能も非常に限られていましたが、職能団体の働きかけと薬剤師の組織的な活動によりここ10年で大きく職能が広がりました。日本でも薬局が健康サポート機能を担う中で、これから薬剤師が団結して職能を拡大していくべきだと考えています。
「これからの薬剤師の職能拡大と服薬指導の在り方」セミナーでは日本とカナダの薬剤師の違いをより詳しく、また患者の信頼を獲得するための服薬指導についてお話します。是非、これからの日本の薬剤師の職能拡大について一緒に考えていきましょう。