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栄養学 第6回 薬剤師が知っておくべき食事と栄養の話

栄養学 連載新宿溝口クリニック院長 溝口徹(医師・寄稿)

この連載では、“食と栄養”が人の健康に密接に関わっていることと、“食と栄養”の正しい実践が多くの病態を改善させること、そして、身体に吸収された栄養素がどのように作用して病気の改善に役立っているのかについて、例を挙げながら説明していきたいと考えています。

脂溶性ビタミンを正しく知ろう!

脂溶性ビタミンと聞いて何を思い浮かべますか?
『水溶性ビタミンは、尿から排泄されるので過剰症の心配はないが、脂溶性ビタミンは肝臓に蓄積し過剰症があるから注意が必要である』と刷り込まれていませんか?
栄養の専門家でもこのように理解していることが多いと思います。今回は、健康のエキスパートである薬剤師として知っておくべき脂溶性ビタミンについてお伝えしたいと思います。
ビタミンA・D・E・Kなどが脂溶性ビタミンといわれます。それぞれ薬理作用を有しているので、病態改善のために処方薬として使われることも多くあり、薬剤師の方々であれば、およそ個々の脂溶性ビタミンの中心的な薬理作用は理解していると思います。
私が実践しているオーソモレキュラー栄養療法では、治療で用いる栄養素はできるだけ天然物か天然に存在するものに近い組成で調整したものを使います。オーソモレキュラーにおける合い言葉は、『Crude(天然)なPrecursor(前駆体)』なのです。
つまり、栄養素(サプリメント)は活性化されていない状態の、天然に近いバランスで補充することが重要と考えています。ところがビタミンなどの作用を薬剤として期待して合成するときには、CrudeなPrecursorとは真逆でなければ、薬剤として認められません。脂質代謝障害や循環改善を目的に処方されるビタミンEについて、具体的に見てみましょう。

処方で使われるビタミンE製剤の一つである『ユベラN』について見てみましょう。

次に天然のビタミンEに含まれる、α-トコフェロールについて見てみましょう。

トコフェロールは、クロマン環にイソプレノイド側鎖が結合したものが基本構造になります。イソプレノイド側鎖にも生理活性がありますが、クロマン環のフェノール性-OH基が抗酸化作用としては重要な役割を持ちます。
ビタミンEの代表的な生理作用である抗酸化作用は、この-OH基の水素原子が引き抜かれることによって生じます。つまり-OH基の水素が引き離され醋酸がエステル結合しているユベラやニコチン酸がエステル結合している『ユベラN』には天然のビタミンEのような強い抗酸化作用は期待できないことになります。エステル化されたビタミンEについては様々な作用があることが近年理解されていますが、抗酸化作用についてはエステル化によって著しく減弱することになります。
先ほどα-トコフェロールは天然のビタミンEの一つであると書きました。合成の処方可能なビタミンE製剤は、すべてdl-α-トコフェロールのみですが、天然のビタミンEには、トコフェロールとトコトリエノールの2種類があり、それぞれにα・β・γ・δの4種類の同族体があるため合計で8種類存在します。つまり本当の天然のビタミンEは8種類の同族体として存在していることになります。そしてそれぞれが見事に調和して作用しているのです。

Crude & Precursorの安全性と重要性

ほかの脂溶性ビタミンでも同じようなことが知られています。
ビタミンAとはどのようなものでしょうか?
ビタミンAといわれるものの中には、魚の脂に多く含まれるレチノール、網膜で作用するレチナール、レバーなどに多く含まれているレチニルエステル、そして時に体内に吸収された後にレチノールへ変換されるβカロチンもビタミンAに含まれることがあります。そして生体内でもっとも活性が高いビタミンAがレチノイン酸になります。
つまりビタミンAの弊害…といわれたときに、レチノールなのかレチナールなのか、レチニルエステルなのかを吟味することが必要なのです。実はビタミンAの弊害の多くは、抗がん剤やにきびの治療薬に含まれる活性化されたレチノイン酸誘導体によって引き起こされたものなのです。
これまでビタミンEとビタミンAについて書きましたが、ビタミンDもKも同様に、天然では活性をもたないか活性が低い前駆体として数種類が混じり合い存在しているのです。
近年、オーソモレキュラー栄養療法の分野では、ビタミンD3が、インフルエンザの予防や花粉症の治療のためにとても注目されています。
ビタミンD3製剤は薬剤の分野では、古くから骨粗鬆症の治療薬として利用されてきました。
その場合には、活性化されたビタミンD3である1,25-(OH)2-D3に近い構造になります。そのため副作用として高カルシウム血症が生じやすく異所性石灰化などの原因となり注意が必要です。
ところが、魚油などに含まれるビタミンD3は、25-(OH)-D3であり活性をもたない前駆体です。サプリメントの多くはこのタイプで含まれています。前駆体として摂取し、必要な組織や細胞に運搬されその場で必要な量だけが活性化されるため、副作用を心配することなく摂取することができるのです。
ビタミンDに話が進んだところで、ビタミンDのサプリメントについて少し触れたいと思います。市販されているビタミンDのサプリメントは、原材料として羊毛が使われています。刈り取られた羊毛に紫外線を照射することによって、25-(OH)-D3が生成されます。そして生成抽出することによってビタミンDの原料となるのです。ここでオーソモレキュラー栄養療法のポイントであるCrude(天然)では何に含まれているのでしょうか?シイタケやキクラゲに含まれていることは知られていますが、古くから人がビタミンDを摂取していたのは、魚の内臓だと考えられています。昭和でいえばタラの肝油になります。
さらに、魚の脂にはビタミンDだけでなくビタミンA、EPA、DHAなどが多く含まれているのです。それらが相乗的に作用していることも知られているため、Crude(天然)を重視する場合には、ビタミンDの原材料は魚油であることが望ましいのです。
とかく誤解される脂溶性ビタミンについて、思いつくままに記載してしまいました。健康に関係する専門家として脂溶性ビタミンを正しく理解し応用することは、とても多くの病態改善に有効なのです。

溝口 徹氏(医師)プロフィール
溝口 徹氏 著書

プロフィール

新宿溝口クリニック院長。一般社団法人オーソモレキュラー.jp代表理事。2000年より慢性疾患の治療にオーソモレキュラー療法(栄養療法)を導入。2003年に栄養療法専門の新宿溝口クリニックを開設するとともに、栄養療法の基礎と理論を医師、歯科医師へ学会やセミナーを通して伝え始める。2014年より、薬剤師、看護師、管理栄養士など医療系国家資格所有者を対象とした栄養療法の基礎と理論について講義を行う「ONP(オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル)養成講座」を開始。

オーソモレキュラー.jp

http://www.orthomolecular.jp/

著書

「この食事で自律神経は整う」(フォレスト出版)
「血糖と腸を同時に整える食事」で健康になる。不安・イライラ・頭痛・疲れやすい・自律神経失調症・糖尿病・肥満・うつに効く!オーソモレキュラー栄養療法の専門医が教える、自律神経が整う新健康法!