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平成30年度診療報酬改定後も活躍できる薬剤師であり続けるために

診療報酬改定は2年毎に行われる。医療サービスの価格や要件が大幅に変わるので、その度毎に、経営者も現場の薬剤師も、対応に右往左往する光景を目にする。確かに診療報酬改定で評価が下がれば、薬局経営も、現場の業務も大きく影響を受けるのであるから、仕方がないとは思うが、実はそれは唐突に起こるものではないし、予測できないものでもない。医療のあるべき姿(ビジョン)は公開されているし、国家財政財源に限りがあることも周知のとおりである。診療報酬改定は保険医療に関わるプレイヤーをあるべき姿に誘導していくための手段であり、限られた財源の中で、医療のあるべき姿を実現するための過程の区切りにすぎないのだから、あるべき姿を読み解いていけば、何時どんな環境変化が起こるのか、今後、薬剤師として果たす役割が、活躍できる薬剤師が、どうかわっていくのかを予測することができる。但し、診療報酬改定にはいくつかの暗黙のルールのようなものや、試行錯誤の類がある。ときにこうしたノイズを区別することも必要となる。

まずは改定内容の要点を整理してみよう。「患者のための薬局ビジョン」※では、2025年までにすべての薬局がかかりつけ薬局となり、かかりつけ薬剤師が患者の状態や服用薬を一元的・ 継続的に把握し、重複投薬、相互作用の有無や、副作用・期待される効果の確認による、薬物療法の安全性・有効性向上を図ることとした。従って診療報酬改定では、かかりつけ薬局とかかりつけ薬剤師の評価を上げて、それ以外の評価を下げることになる。そのためにはかかりつけ薬局か否かを測ることが必要なので、中医協は、集中率85%以下という指標を採用した。加えて、チェーン薬局や規模の大きい薬局は効率性が高いという理由で評価を下げた。規模の指標には処方箋枚数(1店舗2000枚以上、チェーン薬局4万枚以上)を採用した。この2つの指標のマトリックスで薬局の評価が決まる(図1)。加えて集中率の高い且つ規模の大きい薬局には、さらに厳しい要件が課せられた。紙面の都合で詳細を割愛するが、地域支援体制加算算定のための8項目(図2)である。地域包括ケアを担う、かかりつけ薬剤師の指標が細かく定められている。

(図1)

(図2)

さて上記の改定内容から、今後起こることを予測してみた。診療報酬で厳しい評価を受けたチェーン薬局は、生き残りをかけて評価を取り戻すために、かかりつけ薬剤師と8項目をクリアできる薬剤師の育成に注力し、門前薬局から面応需への転換を図るために、医療機関・地域・顧客との接点を増やし、健康サポート薬局の取得などを積極的に行うことになるだろう。8項目をクリアする薬剤師には相当の努力と力量が必要になる。そのため、それができる薬剤師の評価を上げていくことになる。一方で規模の小さい薬局には、チェーン薬局ほど厳しいハードルはないため、それほど努力をしなくとも、評価が下がることはない。結果としてチェーン薬局では薬剤師の質が高まり、顧客からの評価が高まるだろう。規模の小さい薬局では、現状に甘んじて努力を怠れば、逆に顧客からの支持を失っていき、チェーン店に顧客を奪われていくことになる。個人的な見解ではあるが、規模の指標(処方箋枚数)は前述のノイズだと考えている。数年後には規模の指標はなくなり、全ての薬局で等しく努力が求められるようになるだろう。薬剤師も同じであり、数年後に個々の薬剤師の努力と力量の格差が広がっていけば、即ち待遇の差も広がっていくことになる。

薬剤師の価値には2つの意味がある。1つは保険薬局、保険薬剤師として、地域医療の一端を担っている価値であり、その価値は診療報酬として評価される。もう一つは地域で暮らす人々の生活と健康を支え、予防・未病のサービスを提供する価値であり、その価値は顧客の信頼により評価される。これから活躍する薬剤師には2つ価値をともに高めていく力が求められる。今の給料や勤務条件も勿論大切ではあるが、これから活躍できる薬剤師を目指して、長い視点で力量を高めて欲しい。

宮田 武志氏 プロフィール
宮田 武志氏

プロフィール

株式会社メディテール代表取締役
昭和39年生まれ、第一薬科大学卒、広島大学修士課程修了。研究職を経て総合メディカル(株)に入社後、薬局開発、人材育成、経営戦略、情報システムなどの構築を担当し、調剤薬局経営のノウハウを習得。その後ドラッグストアの(株)スギ薬局に移りドラッグストアと調剤の経営を学ぶ。現在は(株)メディテールの代表として中小調剤チェーンとドラッグストアに特化した経営支援を事業として展開をしている。無類のゴルフ好きであるが、冬はスキーもやる。座右の銘は「あるがまま」。

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