2018年3月27日に開催された内閣府規制改革推進会議の公開ディスカッションでは、オンライン診療やオンライン服薬指導について、たっぷり3時間の議論がなされた。ここでの議論やその後の動きをみると、もしかしたら服薬指導の対面原則が取り払われ、オンライン服薬指導が解禁になるのではないかと考えられる。また、今回の診療報酬改定では、退院時共同指導などの多職種によるカンファレンスにおいて、テレビ通話による参加が認められるようになった。
医療ICT化の波は止められない。今後医療がますますデジタル化、機械化されていく中で、人と人とのコミュニケーションはどう変わっていくのだろうか?
今回は、医療機関や製薬企業向けのコミュニケーションシステムを提供しているDr.JOY株式会社の石松氏と杉原氏に、医療ICT化が医療従事者のコミュニケーションをどう変えていくのか、どんな課題があるのか、熱い議論を交わしていただいた。
スタッフ間のコミュニケーションを円滑にしたい
―まず初めに、貴社のことからお聞きしていきたいと思いますが、Dr.JOY株式会社はどんな想いから生まれた会社なのですか?
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石松
最初の問題意識はスタッフ間のコミュニケーションでした。私の実家は19床の小さな診療所です。スタッフも少ないですから、当然コミュニケーションは円滑です。しかし、大学病院での研修医時代などを考えると、スタッフ間のコミュニケーションは非常に複雑で、効率が悪く、時間もかかっていました。これをシステムやアプリで解決できなかと思い、今の事業を立ち上げました。医療機関内のスタッフ・部門間のコミュニケーションを円滑にするシステム、地域医療における情報共有システム、医療機関と製薬メーカーのMRさんとのコミュニケーションシステムなどを手掛けております。
医療者も患者もITリテラシーが問題になるのか?
―貴社は医療機関向けの情報共有システムを提供しているわけですが、システム導入の際に医療従事者のITリテラシーが問題になることはありませんか?
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石松
この会社を立ち上げてからの5年でだいぶ変わりましたね。スマホやSNSがリテラシーを押し上げたと思います。弊社のシステムがLINEやFacebookに似せて作っているという側面もありますが、50・60代の医療スタッフもほぼ問題なく使いこなせている印象です。
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富澤
薬局での電子薬歴への移行の際に現場スタッフの抵抗にあうという話を時々耳にします。使い慣れた紙の良さというのもわかりますが、もしかしたらITリテラシーの低さによって新しいシステムへの抵抗感があるのかなと。
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石松
ユーザーインターフェースや操作性の向上、クラウド化、デバイスの進化によって、おそらく今後出てくるプロダクトは特別な訓練を受けなくても、直感的にすぐに操作できるものになると思っています。また、そうでなければ忙しい医療従者に使ってもらえないですしね。
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杉原
在宅医療でシステムを使っている医師は、すでに音声入力を多用しています。業務効率化が求められる時代ですから、ユーザー側もどんどんシステムの恩恵を享受しようとしていると思います。
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石松
時代の流れはIT化ですが、医療においては地域の基幹病院からその流れが起きると思っています。すなわち大きな病院がシステムを導入し、次にその門前の薬局や中小病院が、そして面の薬局やクリニックが、という順番で徐々に、おそらく向こう3年ぐらいで変わってくるのではないでしょか。弊社の「薬薬連携システム」が地域の薬局に対してIT化を推し進めるきっかけになれたらいいなと思っています。
―一方で患者さん側のハードルもあると思います。オンライン診療では患者さんも自宅で何らかのデバイスを使ってテレビ通話をするわけですが、患者さんが使いこなせるかという問題もありますよね。
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石松
忙しく通院できないビジネスパーソンがオンライン診療を利用するという場面では、患者側のITリテラシーは問題にはなりません。現役世代は普段からスマホやパソコンを使っていますから。
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富澤
実は先日、内閣府規制改革推進会議の公開ディスカッションを一般傍聴してきたのですが、そこでは、オンライン診療は医療資源の乏しい過疎地域でまず必要だという話でした。都心部のビジネスパーソンではなく、地方の超高齢者に必要とのことでした。やはりそこで問題になるのは、患者側のITリテラシーですね。
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石松
今の70代もスマホとか使っていますから、その方々が80代を迎えて、通院困難になってもオンライン診療のためのデバイスは使いこなせるかもしれませんね。
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富澤
過疎地域でオンライン診療を実施している医師の話では、訪問看護師が患者さん宅にiPadを持って行って、テレビ通話を援助しているそうです。患者自身が使いこなせないので、結局医療スタッフが介在しなければならないというケースもまだまだあるようです。
―この公開ディスカッションでは、「オンライン服薬指導」についても議論されました。薬機法の改正が必要ですが、もしかしたら服薬指導の対面原則が取り払われ、オンライン服薬指導が可能になるのではないかと思います。
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石松・杉原
オンライン服薬指導ですか!?
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杉原
そこに薬剤師のインセンティブはつくんですか?
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富澤
わかりませんが、オンライン診療とセットで、といった何らかの条件もつくでしょうし、医師と一緒にオンライン医療を行うことで、双方に何らかのインセンティブがつくということはあるかもしれませんね。
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杉原
インセンティブがないと進まないという事情と、一方で高すぎるインセンティブによって医療費が上がってブレーキがかかるというジレンマがありますよね。そこに不安を覚えながらだと、いいものも進まない。
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富澤
国としては、診察から投薬まで一気通貫のオンライン化を目指していますから、きっと規制緩和されると思います。公開ディスカッションの場でも大きな反対意見はありませんでしたから。
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石松
業務効率はどうなんですか?負担が増えるんですか?
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富澤
医師も薬剤師も患家を訪問して在宅医療をしている場合においては、その移動時間が削減されるので負担は減るでしょうね。ちょっと飛躍していますが、何人もの薬剤師がパソコンの前にずらっと座って、ヘッドセットをつけて、ひたすら画面越しに服薬指導をしている、そんな光景も無きにしも非ずかもしれません。
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石松
飛躍ついでに。そのうち患者さんにVRゴーグルとか貸し出して、吸入薬のデバイスとかインスリンの注射器の使い方とか、めちゃくちゃわかりやすい説明ができるかもしれませんね。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)
第九条の三
薬局開設者は、医師又は歯科医師から交付された処方箋により調剤された薬剤の適正な使用のため、当該薬剤を販売し、又は授与する場合には、(中略)その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により、(中略)必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。
システム上もリアルもコミュニケーションの本質は同じ
―今回の診療報酬改定で退院時共同指導などのカンファレンスに、テレビ通話を使って参加することが認められました。ICTによって今後の多職種間のコミュニケーションや情報共有のあり方ってどう変わっていくと思いますか?
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石松
基本は対面原則だと思っています。弊社のシステムも対面でのコミュニケーションを後押しする、補助するというコンセプトで使ってもらっていますが、たしかにICTによってコミュニケーションは促進されていくと思います。
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富澤
患者情報を多職種で共有するために、地方自治体で導入されている医療情報クラウドサービスがありますが、患者情報を共有するためという側面が強くて、チャット機能とかメール機能とかも付いていますが、あまりコミュニケーションツールにはなりにくいのかなと思っています。
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石松
そうですね、それにクリニックの医師は実際あまり使っていませんよね。
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杉原
重厚なシステムですから、地元の医師会の意見とか大病院の意見とか、いろんな考えが交錯して、導入も利活用もスムーズに進まないという話も聞きます。
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石松
地域医療でのコミュニケーションを支えるシステムって、薬局から導入するのがやりやすいと思っています。薬剤師さんって合理的だし、薬薬連携とか積極的だし、病診連携よりもスムーズ。医師会や大病院を巻き込むよりも薬剤師会の方が、話がしやすい。
それとICTによる多職種コミュニケーションにおいて重要なポイントがあります。医療情報クラウドサービスもそうですが、そこに参画する人数が増えると発言しにくくなるということです。自分の投稿を顔も見たこともない数百人が閲覧する状況になると、誰だって発言を控えたくなります。業務報告ぐらいはよいとしても、大勢に対して自分の意見を述べるのって躊躇しますよね。システム上であれ、リアルであれ、コミュニケーションの本質は同じだと思います。 -
杉原
結局そうなるんでしょうね。Facebookでも他人の投稿を見ているだけの人もいて、インフルエンサーがいることで情報が拡散されるのは、多職種連携でも同じかもしれませんね。
平成30年度診療報酬改定
「情報通信技術(ICT)を活用した医療機関連携の推進」
対面でのカンファレンス等を求めている評価について、各項目で求める内容や地理的条件等を考慮し、一定の条件の下でICTを用いたカンファレンス等を組み合わせて開催できる。
1.感染防止対策加算
2.入退院支援加算1
3.退院時共同指導料1の注1、退院時共同指導料2の注1
4.退院時共同指導料2の注3
5.在宅患者緊急時等カンファレンス料
6.在宅患者訪問褥瘡管理指導料
7.精神科在宅患者支援管理料
―今後の医療ICT化においてどんなシステム・機器が医療現場に求められると思いますか?
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石松
オンライン診療は今後進んでいくと思います。でも、そこに必要なシステムってそんな大げさなものではなくて、本来Skypeとかメッセンジャーとか一般には誰でも無料の範囲で使用しているテレビ通話機能が、医療機関向けのものになると費用が発生するのってどこか違和感があります。大きなシステム投資をせずに、既存のアプリで気軽にやっていくという波がきっと起こると思います。
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杉原
診察のオンライン予約システムはもっと普及してもいいと思います。
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石松
離れた場所から聴診器の音が聞ける遠隔聴診器とでもいうのでしょうか、数年前にYouTubeで見て衝撃をうけたのを覚えています。
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富澤
聴診器にAIを組み合わせたものも開発されているみたいですね。ウェアラブル端末で生体情報を送受信するとか、ペッパー君がクリニックの受付で問診するとか、今の技術でも十分できますから、あとは医療スタッフがそれらをどう利活用するかですね。
総務省も厚生労働省も医療・介護分野におけるICT化を強く推進している。①地域の病院や診療所などをネットワークでつないで患者情報等を共有・活用する基盤.地域医療連携ネットワーク(HER:Electronic Medical Record).の高度化、標準化、相互接続化等を推進。②個人の生涯にわたる医療等のデータを自らが時系列で管理し、多目的に活用する仕組み(PHR:Personal Health Record)の具体的なサービスモデルやサービス横断的な情報連携技術モデルの構築、さらにはAIを活用した保健指導施策立案モデルの構築等を推進。③外科医からのニーズが高い「8K内視鏡」の開発、高精細映像データ及びAIを活用した診断支援システムの構築、8K画像を用いた遠隔医療の実現等を推進。という3つの柱を掲げている。今後ICT、AI、IoTによって我々医療従事者を取り巻く業務環境も人と人とのコミュニケーションの方法やあり方も変わっていくかもしれない。一方で変わることのない医療やコミュニケーションの本質的価値を見失うことなく、上手にシステムを利活用していく知恵と態度が必要である。
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石松
医師+αのキャリアデザインについてよく相談を受けますが、現場経験はあったほうがいいと答えています。診療現場で感じた課題解決に医師が、薬剤師が自ら取り組むことに価値があると思います。
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富澤
現場経験があったほうがいいかという問いは多いですよね。やりたいことがあるなら、旬を見逃さずに、卒後すぐに起業するというのもありだとは思いますが。
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石松
そうですね、一概にどっちがよいとは言えませんね。でも、医師・薬剤師の経験があるということが相手に説得力を与えるという場面もたくさん経験しました。
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杉原
私みたいに医療職ではない者からすると、医療に本気で向き合っている人って格好良いなと思います。でも医療って労働集約型で、効率も決してよくないし、だから医療職の人が+αの考えをもって、イノベーションを起こしていくのも必要。同時に、+αを外部に求めてもいいと思います。非医療職の専門家ともっとコラボすればいい。
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富澤
今回ちょっと変わり種の3人で対談しているので、キャリアの多様性にも少し触れましたが、たぶんこの話だけで特集記事が組めるぐらい。続きの話を聞きたい読者の方は、ぜひDr.JOYさんへお問い合わせください(笑)。