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研究室訪問記 第1弾 OTCを探求する 東京薬科大学薬学部一般用医薬品学教室

研究室訪問記

東京薬科大学薬学部一般用医薬品学教室

成井 浩二(ナルイ コウジ)講師

講師、博士(薬学)、神奈川県出身 ●マイブーム:子供と遊ぶ ●子供のころの夢:教師 ●薬剤師へのおすすめ書籍:OTC医薬品学.薬剤師にできるプライマリケア/南山堂
●担当授業:人間と薬学Ⅱ介助(1年生、演習)/実務実習事前学習 服薬指導入門3 一般用医薬品(4年生、演習)/一般用医薬品学(4年生、講義)/地域薬局実務特論(6年生、演習)

全国の薬学部における最新の研究を紹介する「研究室訪問記」。卒業して何年も経つと研究という言葉すらノスタルジー?日常業務に追われ、研究マインドを忘れてしまったそこの薬剤師さん! 思い出してください薬剤師綱領を。「薬剤師はその業務が人の生命健康にかかわることに深く思いを致し、絶えず薬学、医学の成果を吸収して、人類の福祉に貢献するよう努める。」とあるではないですか。そう、絶えず最新の研究をトレースし続けなければならないのです。
「そんな暇はない」と嘆くあなたのために、薬剤師業務にかかわりの深い研究を行っている研究室をファーネットマガジンが取材して、最新の研究をご紹介しちゃいます。これを読んで、再び研究マインドに火をともしましょう。

株式会社ツールポックス、城西国際大学薬学部 富澤 崇/取材

「研究テーマは現場から、研究成果は現場に」

全国でも珍しいと思うのですが、一般用医薬品をテーマにしている研究室です。もともとこの研究室は、佐藤製薬株式会社の寄付講座として1999年4月に立ち上がりました。2007 年4 月からは寄付講座としてではなく、大学の通常の研究室として一般用医薬品学教室が開設され、私は2009年1月に助教として着任しました。
「研究テーマは現場から、研究成果は現場に」をポリシーに、特に一般用医薬品を扱う薬局やドラッグストアにおける消費者ニーズや顧客行動、従業員の業務改善ニーズなどを研究対象としています。本来なら、調査研究ニーズが発生する現場で、現場スタッフ自らが調査研究を行えれば理想ですが、日常業務で忙しいですからね、我々がそこを担いたいと思っています。

  • ●登録販売者を対象とした業務改善ニーズのアンケート調査
  • ●一般消費者を対象とした「セルフメディケーション」の認知度・実施度調査
  • ●一般消費者を対象とした「機能性表示食品」の認知度・理解度調査
  • ●保険薬局来局者を対象とした「スイッチOTC医薬品」に対する意識調査
  • ●保険薬局における検体検査の導入
  • ●保険薬局における業務改善分析

(当研究室がこれまでに行ってきた研究の一部)

1〜3類の一般用医薬品と要指導医薬品を合わせてOTCと呼んでおり、当研究室ではOTCが研究の範囲となっています。研究対象は、一般消費者、薬剤師、登録販売者などOTCやセルフメディケーションに関わる人たちです。特に、OTC販売においては登録販売者を重視しています。現在、その数は20万人を超え、店舗販売業に従事する薬剤師の10倍以上にあたること、OTC販売の9割は登録販売者が販売できる2・3類であることなどを踏まえると、登録販売者の存在は大きいと言えます。
登録販売者向けの調査では、外国語対応、処方薬との相互作用、薬の体内動態など様々なニーズがあがってきました。登録販売者が直面する業務上の課題を薬剤師が知ることで、そこに支援の手を伸ばすことができるかもしれません。ドラッグストアのような薬剤師と登録販売者が一緒に働く職場では、相互の協力によって業務効率を上げられるのではないでしょうか。

処方せん患者の主疾患ではなく、別の訴えに対してセルフメディケーションを適応させる

改正薬事法施行の2009年に一般市民を対象としたセルフメディケーションに関する意識調査を実施したことがあります(医薬品情報学vol.12 No.4 161〜169 2013)。新宿西口イベント広場で開催されたOTC啓発イベントに来場した方々にアンケートを行いました。セルフメディケーションという言葉の意味を理解している人のうち約6割が実践もしているのに対して、言葉の意味を知らない人の実践率は約4割と有意に低い結果でした。当然のことですが、まずは意味を理解してもらうための啓発が重要であると言えます。
たとえば、処方せんを持参した患者さんの疾患に対して、処方薬による治療からセルフメディケーションに変更するという考えはあまり現実的ではありませんが、その疾患以外の体調不良や健康について気になっていることなどを聞き出せれば、そちらに対してはセルフメディケーションが適応できます。患者や顧客が主体的にセルフメディケーションを行うことに期待するだけではなく、処方せんを持参した患者さんのその他の症状をトリアージし、薬剤師の働きかけによってセルフメディケーションを推進するというアプローチも必要ではないかと考えています。医療費削減の観点からも、「その程度ならこのOTCで十分対処できますよ」と薬剤師が促すことで、軽い症状での受診を抑制できるかもしれません。

この時の調査で「普段、薬や健康に関する情報をどこから入手するか?」との問いに、「薬剤師」との回答が最も多く、医師を上回っていました。当時、厚生労働省の一般用医薬品販売制度定着状況調査において、改正薬剤師法が順守されていない、すなわち第一類の販売時に文書による情報提供が十分でないという指摘がありましたが、アンケート結果を裏切らないよう、消費者から頼られる健康情報拠点として機能していってほしいと思います。

選択肢 割合(%)
薬剤師などの専門家(薬局・ドラッグストアで) 44.5
医師(病院、医院などの医療機関で) 41.3
インターネット 37.5
書籍、雑誌 28.2
テレビ、ラジオ 24.3
人づて(家族、友人など) 17.1
ヘルスケアショップ、化粧品店など薬局・薬店以外のお店 6.6
スポーツクラブなど 2.7
その他 1.5
回答なし 5.5

(医薬品情報学vol.12 No.4 161.169 2013 表3「薬や健康についての情報源」N=1.084)

薬剤師や登録販売者の経験値を可視化していきたい

登録販売者の経験談を一つ紹介します。下痢が長く続くお客さんがいました。病院を受診してもなかなか下痢が止まらないとのこと。登録販売者が改めてそのお客さんにヒアリングしたところ、ひまし油が含まれる健康食品を摂取していることがわかりました。おそらくこのような好事例はたくさんあると思いますが、世の中にアウトプットされる機会がありません。処方薬とOTCを組み合わせた好事例とか、セルフメディケーションによって処方薬を減薬できた例とか、薬剤師や登録販売者の経験値を可視化することを当研究室で実現したいと考えています。

卒論生にも聞いちゃいました!

私は、セルフメディケーション税制をテーマに消費者向けアンケート調査を行いました。医療費控除の税制度をどれだけの人が認知していて、どこまで理解されているかを制度施行の前後で調査しました。写真は、ショッピングモールで開催された健康をテーマにしたイベントで、ブース出展した際にアンケートをお願いしている様子です。
制度が施行された平成29年1月の直後の調査では、「名前も内容も知っている」と回答した人は25.7%で、施行前の調査の16.6%から有意に上昇しましたが、それでも認知度・理解度ともに低い状況でした。税制優遇を利用したいかとの問いには、施行前も後も8.9割が利用したいと回答しています。利用したいが、仕組みがよくわからないという状況だったわけです。
ドラッグストアの店員さんにもお話を伺いましたが、制度を詳しく説明できる方は少数でした。国からの告知も大事ですが、やはり実際に商品を購入する店で、薬剤師や登録販売者が制度の理解促進を図るべきではないかと思いました。

プロフィール

臼井 葉月(ウスイ ハヅキ)さん
6年生、千葉県出身
●マイブーム:野球観戦
●将来の進路:製薬メーカー
●指導教官に一言!:これからもご指導お願いします。

私は、機能性表示食品に対する消費者の意識調査を行いました。スポーツジムの利用者約200人を対象にアンケートを行いました。比較的健康意識の高い集団だと思いますが、約8割の人が認知していないという、予想に反した結果でした。また、健康診断で異常が判明した場合、機能性表示食品を利用して様子を見るという人が約2割いました。これは決して正しい判断とはいえません。機能性表示食品は疾患を治療するものではないからです。施行後2年が経ったときの調査でしたが、認知度・理解度ともに高いとは言えませんでした。機能性表示食品を摂取することは悪くないのですが、誤った理解によって、疾患の発見が遅れたり、治療の妨げになったりすることは避けなければなりません。食品であるため、薬局が扱う範疇ではないかもしれませんが、正しい理解を促す場として薬局が機能したらいいなと思っています。

プロフィール

島田 翠(シマダ ミドリ)さん
6年生、秋田県出身
●マイブーム:野球観戦、旅行
●将来の進路:薬局
●指導教官に一言!:冷蔵庫のアイスを食べたいです。

私が薬局で勤務していたとき、糖尿病患者さんにオーラルケアの重要性について話をしたところ、歯磨きやマウスウォッシュの商品を合わせ購入されて行かれました。処方せん調剤ばかりに明け暮れていると、OTCやヘルスケア商品のことをついおろそかにしがちです。しかし、疾患の治療だけではなく、QOL向上のためには処方薬以外もうまく活用していくべきです。欲を言えば、処方薬とOTCの組み合わせで症状が改善したなどの症例報告やエビデンスが蓄積できることが望まれます。今回取材を受けていただいた一般用医薬品学教室は、臨床現場との共同研究も積極的に行っているとのことです。ご関心のある方はぜひファーネットマガジン編集部または成井先生へご連絡ください。

株式会社ツールポックス、城西国際大学薬学部 富澤 崇