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栄養学

第8回 薬剤師が知っておくべき食事と栄養の話

栄養学 連載新宿溝口クリニック院長 溝口徹(医師・寄稿)

ビタミンCの効果発見から臨床応用までオーソモレキュラー栄養医学の発展

ビタミンCは、サプリメントとして利用されているだけでなく、OTC医薬品ではかぜ薬などにも多く含まれる栄養素です。ビタミンCの発見から最近の臨床応用までの経緯をたどると、栄養素の臨床応用への困難さを知る機会になると思います。

ビタミンCの効果発見と応用

多くのビタミンは、欠乏症の原因物質として発見されました。ビタミンCの欠乏症である壊血病の歴史を振り返ってみましょう。大航海時代といわれる15〜18世紀は、壊血病が大きな問題になっていました。イギリス海軍の医師ジェームズ・リンドは、1747年に壊血病症状を有する乗組員12名を選び、2名ずつ6組に分け、それぞれに異なった内容の食事を与えました。そのうち1組の2名に新鮮なオレンジとレモンを与えると、この2名だけが数日以内に壊血病の症状が改善し、快復したのです。
この結果から、リンドは長期間の航海では新鮮な柑橘類を船員の食事に入れることを、イギリス海軍省に提言します。ところが、“一流学者が調べても原因不明の壊血病がオレンジで治る”という事実には目が向けられず、50年間にもわたって、柑橘類が航海時に乗せられることなく、多数の船員が壊血病にかかり、亡くなる方も後を絶ちませんでした。

その後、ビタミンCの効果に注目したのが、20世紀最大の科学者の一人といわれるライナス・ポーリング博士です。ポーリング博士は、1960年代に最適量の栄養素の補給によって様々な病態を改善させるオーソモレキュラー栄養医学の基礎的概念を確立しました。1974年には、『Vitamin C and the Common Cold(ビタミンCと風邪)』という本を出版、さらに、末期がん患者への数グラム単位のビタミンC点滴によって、生存期間が延長する効果があることを主張しました。ところが、これらの功績は医学界だけでなく、栄養学界からも激しく否定され非難されたのです。その理由は、ポーリング博士は量子化学や生化学の専門家であって、医師でもなく栄養学者でもないという感情論が背景にあったようです。
現在では、OTCのかぜ薬には500mgのビタミンCが含まれているものもあります。さらに、1回量として50〜100gのビタミンCを点滴する高濃度ビタミンC点滴療法が、がんの代替療法として世界的に行われています。“水溶性ビタミンであるビタミンCは、大量に摂取しても尿に排出されてしまうので意味がない”などといわれてきたのですが、実際の臨床では目的に応じた最適な投与量が知られ、積極的に応用されているのです。

臨床応用までの長い道のり

ジェームズ・リンドが壊血病の治療に柑橘類が有効であることを発見してから、長期航海で柑橘類が船に乗せられるようになるまで50年かかりました。ライナス・ポーリング博士が、ビタミンCの最適量投与はがん治療に効果があることを報告してから、代替療法の分野で高濃度ビタミンC点滴治療が認知されるまでは40年でした。
現代では、インターネットの普及とSNSなどによって、情報の拡散はこれまでとは比較にならない早さになりました。そのため、人の健康に関する意味のある貴重な発見などが、実際の臨床へ応用されるまでの期間は、今後さらに短くなるでしょう。
ところが、栄養素の分野で意味のある発見から臨床へ応用され、一般的に認知されるまでは、常に医学界から無視→否定→非難が起こります。最近ではSNS上で医学界だけでなく、多くの分野からの議論が繰り広げられているかもしれません。このような過程を経て、正しい発見だけが認知され、臨床応用され、多くの患者さんの改善につながることになるのです。

オーソモレキュラー栄養医学の偉大な功労者

この連載で紹介しているオーソモレキュラー栄養医学は、このような経緯でライナス・ポーリング博士と、カナダの精神科医であるエイブラム・ホッファー先生によって作られました。

ホッファー先生と筆者。2004年カナダ・ビクトリアにあるホッファー先生のクリニックにて

ホッファー先生は、統合失調症の患者さんに、オーソモレキュラー栄養医療を実践されました。その後、多くの疾患の患者さんへ臨床応用を広げ、ポーリング博士とともにがんの分野で多くの実績を残されました。ホッファー先生は常に「精神疾患の患者さんの治療のゴールは、『Tax Payer(納税者)』だ」と話されていました。つまり統合失調症であっても、うつ病であっても、治療し改善した結果として仕事を持ち、働いている状態をゴールとしたのです。多種類の抗精神病薬などを用いて症状だけを抑え、実際には仕事もできず日常生活に支障があっても良しとする日本の精神科医療とは、根本的なゴールの設定が異なっているのです。
ホッファー先生は、常に患者さんの訴えにじっくりと耳を傾ける診療スタイルでした。2009年に91歳でお亡くなりになる直前まで、オーソモレキュラー栄養医療の発展のために貢献されていました。
ホッファー先生も、オーソモレキュラー栄養医学を実践した当初は、一般的な精神科界からは非難され、功績を評価されることがありませんでした。ホッファー先生とのメールには、日本の医師などが広い心でオーソモレキュラー栄養医学を受け入れてくれることを望むという内容が記されています。この連載も伝え聞いたところ、薬剤師の方々から好意的に受け入れられていると聞いています。薬剤師、看護師、管理栄養士など医療や健康に関わる有資格者の方々から、オーソモレキュラー栄養医学を学びたいという声から始まった勉強会も、本年で5年目になります。これからも、人の健康に関わる皆さんとともに学ぶことができればと思っています。

溝口 徹氏(医師)プロフィール
溝口 徹氏

プロフィール

新宿溝口クリニック院長。一般社団法人オーソモレキュラー.jp代表理事。2000年より慢性疾患の治療にオーソモレキュラー療法(栄養療法)を導入。2003年に栄養療法専門の新宿溝口クリニックを開設するとともに、栄養療法の基礎と理論を医師、歯科医師へ学会やセミナーを通して伝え始める。2014年より、薬剤師、看護師、管理栄養士など医療系国家資格所有者を対象とした栄養療法の基礎と理論について講義を行う「ONP(オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル)養成講座」を開始。

オーソモレキュラー.jp

http://www.orthomolecular.jp/