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研究室訪問記 第2弾 地域医療で薬剤師に何が求められているか
高崎健康福祉大学薬学部 地域医療薬学研究室

研究室訪問記

高崎健康福祉大学薬学部 地域医療薬学研究室

土井 信幸(ドイ ノブユキ)准教授

准教授、博士(薬学)、東京都出身 ●マイブーム:ドライブ ●子供のころの夢:船乗り ●好きなアーティスト:L’Arc.en.Ciel ●薬剤師へのおすすめ書籍:未来の授業(著/瀧本哲史)
●担当授業:実務事前学習Ⅰ、薬学と社会、薬事関連法規、育薬倫理学、チーム医療アプローチ論、チームアプローチ演習、製剤学実習、物理薬剤学実習、模擬薬局実習

全国の薬学部における最新の研究を紹介する「研究室訪問記」。卒業して何年も経つと研究という言葉すらノスタルジー?日常業務に追われ、研究マインドを忘れてしまったそこの薬剤師さん!思い出してください薬剤師綱領を。「薬剤師はその業務が人の生命健康にかかわることに深く思いを致し、絶えず薬学、医学の成果を吸収して、人類の福祉に貢献するよう努める。」とあるではないですか。そう、絶えず最新の研究をトレースし続けなければならないのです。
「そんな暇はない」と嘆くあなたのために、薬剤師業務にかかわりの深い研究を行っている研究室をファーネットマガジンが取材して、最新の研究をご紹介しちゃいます。これを読んで、再び研究マインドに火をともしましょう。

株式会社ツールポックス、城西国際大学薬学部 富澤 崇/取材

当研究室は、2015年に臨床薬学教育センターから独立し、現在准教授である私、助手の小見暁子先生、6年生5人、5年生4人の所帯です。超高齢化、医療財政問題、地域完結型医療の実現、セルフメディケーション推進など、薬剤師を取り巻く環境変化を捉え、「地域医療で薬剤師に何が求められているか」を研究テーマとし、地域医療の課題解決に貢献したいと考えています。

  • ●在宅医療における薬剤師の役割の認知度向上
  • ●学校薬剤師とのコラボレーションとその活動の評価
  • ●明治薬科大学、千葉大学との共同研究:「患者登録システム」を使った患者への介入研究
  • ●東京薬科大学、北陸大学との共同研究:錠剤取り出し器具の使用感の評価と改善
  • ●抗HIV薬処方せん応需のための勉強会の開催、薬局における応需状況の評価

(当研究室がこれまでに行ってきた研究の一部)

薬剤師の認知度は低いけど、期待値は高い

本学では、看護学部、附属のクリニック、薬局、訪看ステーションを有しており、高崎市の地域包括支援センターとも協力して、「退院支援を考える会」というものを運営しています。病院の退院調整室、医療ソーシャルワーカー、在宅支援看護師、ケアマネなどの多職種が、患者を地域・在宅に戻す際の課題って何だろうといったテーマでグループディスカッションをするなどの活動をしています。そのディスカッションでは「薬剤師の顔が見えない」というお決まりの話が出ていました。薬剤師の役割がわからないという意見です。この会にはそれまで薬剤師は参加していなかったのですが、私が関わるようになってから、多職種向けに薬局薬剤師の役割や機能についてレクチャーするなどして、認知度向上に努めました。
私は、大学教員になる以前はドラッグストアや保険薬局で勤務しており、在宅医療にも関わっていましたから、多職種の方々にもっと薬剤師を使ってほしいという気持ちがあります。たしかに薬剤師の認知度は低いけど、役割や機能について話をすると、期待されていることも同時に感じます。そこで最近では、ケアマネさんを対象とした研修会を開いて、ケアプランの中で薬剤師をどう活用したらよいのかといった話をさせていただいています。

服薬コンプライアンス向上が目的になってしまう

介護職目線ではどうしても“薬をちゃんと飲ませる”ことがゴールになってしまいがちですが、重要なのは治療ゴールです。薬を使うことは目的ではなく手段ですから、手段が目的化してしまうと、それこそポリファーマシーにつながったりします。医療職と介護職の間で、しっかりと治療ゴールに関する情報を共有しましょうという啓蒙をしています。そこで今後の研究としては、医師が定めた患者の治療ゴールを在宅医療に係る多職種がどれだけ把握できているか、そのゴールに向かう治療の進捗管理をどれだけできているかを調査していきたいと考えています。

学生発案の喫煙防止教室

本学の附属高校にて、当研究室の卒論生に高校生向け喫煙防止教室をプロデュースさせました。加濃式社会的ニコチン依存度質問票(KTSND)を使い、タバコへの興味関心や抵抗感を数値化することで、自分が将来喫煙してしまう傾向をどれだけ秘めているかを知ってもらいました。さらに、友人からの喫煙の誘いをどうやってアサーティブに断るかを演劇で生徒に伝えるという授業をやりました(日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会誌vol.12 No.2 6-12 2016)。
また、小学校などで学校薬剤師をしている薬剤師とコラボして、この喫煙防止教室を卒論生に実施させるということもありました。演劇はさておき、KTSNDとレクチャーをパッケージ化できたので、学校薬剤師さんに使ってもらえるとうれしいですね。

多職種連携教育

当研究室では、地域の薬局向けのHIVに関する学習と経験の共有を目的とした「smART応需プロジェクト」というものにも関わっています。プロジェクトの一環として薬剤師向け勉強会を開催したりしています。
近年IPE(interprofessional education)と言われる多職種連携教育がトレンドになっていますが、当研究室のように日ごろから地域の医療・介護従事者と連携を図っていると、そこに学生を連れていくだけで立派なIPEになります。大学や研究室が地域とコラボレーションする目的は、共同研究が定番かもしれませんが、大学のリソースを提供し地域医療に貢献することやそこでのネットワークを生かして学生教育の場にするといった目的があってもよいと思います。また逆に、現役の薬剤師さんが大学のリソースを利用して、自分たちのアイデアを実現したり、現場に新しい知見を取り入れたりなど、大学を積極的に活用していただきたいですね。

smART応需プロジェクト

抗HIV薬処方箋の服薬支援の質を更に高めませんか?職種を問わずどなたでも参加できます。
次回の第16回は合併症とその治療をテーマに、11月11日(日)の午後に神田須田町ホールにて開催予定です。参加ご希望の方は、事務局(smart-oju@umin.ac.jp)にお問い合わせください。

卒論生にも聞いちゃいました!

地域連携を考慮した保険薬局における抗HIV薬服用患者の応対状況と受け入れ体制に関する調査

地域の薬局薬剤師41名にアンケートを行いました。抗HIV薬服用患者の応対を経験したことがある薬剤師は26名(63%)でした。その薬剤師が勤務する薬局では、患者応対のための個室があったり、待合室と投薬カウンターの間に衝立があったりしました。
HIV拠点病院の門前薬局やそこからの処方せん応需の多い薬局が「高度薬学管理機能」を有して、それ以外の薬局と機能分化し、患者さんがそれを使い分けるのもありだとは思いますが、私は、本当の意味でのかかりつけ薬局になるために、どこの薬局でも抗HIV薬の処方を応需することができ、患者のプライバシーに配慮した応対ができることが望ましいのではないかと思いました。
薬局をほとんど利用したことがなかった私は、卒論研究と薬局実習を通して、薬局という空間、そこに来る患者さんの心情、薬剤師からの配慮という目に見えないものの重要性を知ることができました。

プロフィール

井上 将貴(イノウエ マサキ)さん
6年生、群馬県出身
●マイブーム:空手道
●将来の進路:病院
●指導教官に一言!:リスペクトしています!

点眼容器の違いがアゾルガ®配合懸濁性点眼液の容器の使用感に与える影響

4種類の点眼容器のスクイズ力ー容器から目薬1滴を滴下する際の押し出し力を測定したのですが、1本あたり2時間かかる測定を48回も行ったことがとにかく大変で、忍耐力が身に付きました(笑)。
アゾルガは粘性が高いので、滴下に要するスクイズ力や1本あたりの総滴数にばらつきがあります。加えて容器が固いので、出しにくさを感じます。緑内障の好発年齢とアゾルガの粘性の高さを踏まえると、この固い容器には改良の余地があると思いました。この研究結果はぜひ製薬メーカーさんにフィードバックしたいと考えています。また、薬剤師が後発品を選定する際には、容器の固さなどの点眼のしやすさを考慮してほしいと思います。普段の服薬指導でも、1本の点眼薬を何日で使いきるかをヒアリングすることで、正しく滴下できているかを評価してほしいと思います。

プロフィール

井出 美晴(イデ ミハル)さん
6年生、長野県出身
●マイブーム:書道・スポーツ観戦
●将来の進路:病院
●指導教官に一言!:叙々苑に連れてってください!