薬学女子突撃取材
平根 愛美
東京薬科大学薬学部5年
ペルー人を母にもつ私はスペイン語を話すことができます。その語学力を活かせる就職先がないかと思案中。やっぱり製薬企業かなと思い、誰もが名前を知る大手の製薬会社のインターンシップに応募しましたが、あえなく惨敗。正直言って、大手と中小の違いとか、外資系と内資系の違いとか、製薬会社のことをわかっていませんでした。もっと言うと、自分にどんな会社が合っているのか、自分の本当にやりたいことは何か、実のところ分かっていないような気がします。それって私だけ? もしかしたら多くの薬学生に共通する悩みかもって思います。
今回は、ご縁があって日本の中小製薬メーカーさんを取材する機会をいただきました。大洋製薬株式会社の本間靖明社長に私の就活の悩みをぶつけてみました。
大洋製薬株式会社
本間 靖明
大洋製薬株式会社
手指殺菌消毒薬、スキンケア製品、鼻炎用点鼻薬、咽頭消毒薬、コンタクトレンズ用ケア製品などを扱う。最近は、ニュージーランドから輸入したマヌカハニーを使った製品の開発に力を入れている。ミャンマー、ベトナム、台湾、モンゴルなど10数カ国との取引をおこない、ニッチでこだわりのあるラインナップを揃えている。また、地域貢献として「子供向け理科じっけん教室」「ウォーキングイベント」なども開催。
本社所在地:東京都文京区本郷3-14-16
従業員数:70人
資本金:8,000万円
設立:昭和33年2月
いろんなことを経験した魅力のある人材を採っています
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平根
製薬メーカーではどのような人材が求められているのでしょうか?
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本間
ITやロボティクスの発達、疾病構造の変化、人口動態の変化、グローバル化、いろいろな要素が製薬業界を変える要因になっています。変化を先読みして、その変化に順応できる人材が必要です。それと新しいことにチャレンジするイノベーティブな人材も。たとえば、国の社会保障費の増大を抑えるために、予防医療に力を入れることになると、それによって予防される疾病の治療薬の需要は下がります。一方で予防医療分野の薬のニーズは高まるでしょう。医薬品市場が激変するかもしれません。
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平根
MRの需要も減りますか?
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本間
単に情報を伝える役割がMRと定義されるならば、減るでしょう。ただし、例えば担当エリアにおける病診や薬薬といった地域連携を構築できるようなMRは重宝されると思います。
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平根
貴社ではどんな人材を採用されているのですか?
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本間
当社は学歴やキャリアは関係なく、実績や能力を重視しています。いろんなことを経験した魅力のある人材を採用しています。映像業界、メーカー、卸、サービス業を経験した社員もいますよ。今の会社にない要素を補ってくれる人材が会社を強くしてくれると思っています。
世の中の会社の99%は中小企業
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平根
中小企業の良さって何ですか?
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本間
中小は、組織が小さいので意思疎通は早いです。製品をゼロから作るためには、いろんな部署が関わらなければなりませんが、部署間の横串を刺しやすい。一方で、一人で何役もこなさなければなりません。でもそれはメーカーでなくてもどんな職業でもそうだと思います。あとは、現場の声を開発に反映させやすいことでしょうか。
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平根
学生だと、つい名前を知っている大手を選びがちです。それに中小メーカーの採用情報があまりありません。やはり中小のイメージを持ちにくいという現状があります。
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本間
当社も新卒を毎年一定数採用しているわけではないので、学生さんに知ってもらう機会を作るのが難しいという現状があります。中小でも良い会社はたくさんありますので、学生さんにはもっと中小企業にも目を向けてほしいですね。一般的に知られていないだけで、世界屈指の技術を持っていたり、世界進出を果たしていたり、目の付け所がいい製品を作っていたり、OEM(original equipmentmanufacturer:他社ブランドの製品を製造すること)によって実はとてもたくさんの製品を製造していたり。世の中の会社の99%は中小企業ですから!(笑)
OB・OGを尋ねるとか、製薬メーカーや化学メーカーが集まる展覧会に参加してみるとか、自ら動けば情報を得る機会はいろいろありますよ。 -
平根
外資と内資の違いって何ですか? 私は、外資は個人プレー、内資はチームプレーというイメージを持っているのですが。
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本間
外資/内資というくくり方よりも、各社の文化や風土の方が影響があるでしょう。大手/中小や外資/内資といったステレオタイプな見方をしないで、各社を個別に、自分の目で見て確認したほうがいいと思います。
製品を通してユーザーの問題を解決したい
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平根
製薬メーカーでの仕事の魅力って何ですか?
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本間
なんといっても製品を通してユーザーの問題を解決することですね。「売れそうだから作る」とか「世の中にないから作ってみる」という発想は自分たち視点です。そうではなくて、ユーザーの困り事を製品で解決するという顧客視点が重要だと考えています。
同時に責任も重大です。製造販売業は、一つの製品が売れれば売れるほどたくさんのお客様に及ぼす影響は大きくなるわけですから、自信をもって商品化する一方で、何かあったときのリスクを考えると私は時々眠れなくなることがあります。世の中に与えるインパクトが大きいからやり甲斐もあるんだと思います。 -
平根
私はスペイン語を話すことができますが、それを活かせる仕事に就きたいと思っています。
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本間
ビジネスの世界では、基本は英語ですよね。当社も海外取引をしていますが、やはり必要なのは英語。でも、これまで国内でしか展開してこなかった業種もどんどんグローバル展開しています。チェーン薬局だって、そのうち海外の薬局と提携したり、M&Aをしたりといったことが起こるかもしれません。日本国内では売れない商品でも海外では需要があって、日本の中小メーカーが有している技術や製品を必要とする国を見つけ出すという仕事もあります。取引は英語でも、現地での仕事ではやはり現地の言葉を使うのが一番。ちなみにアメリカは英語に次いでスペイン語人口が多いのはご存知ですか? きっとその強みを活かせる就職先がありますよ。
「〇〇がしたい!」「子供のころから〇〇が好き」という気持ちに素直になって、それを実現できる仕事に就くべきです。モノづくりが好きならぜひ製薬業界へ来てください!equipmentmanufacturer:他社ブランドの製品を製造すること)によって実はとてもたくさんの製品を製造していたり。世の中の会社の99%は中小企業ですから!(笑)
OB・OGを尋ねるとか、製薬メーカーや化学メーカーが集まる展覧会に参加してみるとか、自ら動けば情報を得る機会はいろいろありますよ。
誌面の都合上、載せきれませんでしたが、本当はもっともっとたくさんのお話を聞くことができました。企業研究をしていく中で、大手/中小、内資/外資で分けて上辺のみを見ていましたが、各社の考えや方針が自分と合っているかで判断することが重要であると気づきました。そして、もっと多くの薬学生に中小製薬企業の魅力を知ってもらいたいと思いました。薬学生と中小製薬企業の出会いの場を作れないものでしょうか・・・。何はともあれ本間社長、今日はありがとうございました!