情報が錯そうする現代社会においては、患者様と接する際、薬剤の種類や働きはもちろんのこと、正しい栄養の知 識を身に着けておく必要があるでしょう。本連載では、“食事と栄養”のチカラを用いて病態の根本的な治療を行う “オーソモレキュラー栄養医療”を実践するドクターに、診療科ごとの最新の栄養医療をご紹介いただきます。
皮膚は内臓(栄養)の鏡
皮膚といえば、塗り薬というイメージが強く、皮膚科を受診され る患者さんの多くは「よく効く塗り薬」「適切な塗り方」「正しいス キンケア」を皮膚科医や薬剤師に期待されます。確かに内臓の臓 器と違い、目に見える皮膚はどうしても表面的な治療やケアが中 心となりますが、実際は、「塗るのをやめたら再発した」「塗り薬 が合わない」「塗り薬やスキンケアが面倒」「塗っても良くならな い」という患者さんも少なくありません。
そのため、塗り薬やスキンケアを続けていただくさまざまな工夫 や指導が医療現場で行われますが、皮膚の機能や働きを考えれ ば、同時に内面からの対策が必要となります。
昔から「皮膚は内臓の鏡」と言われ、風邪を引いたときには口唇 ヘルペス、胃腸の調子が悪いときには口内炎やじんましん、とい うように、皮膚の変化は内臓の現れとして捉えられています。
また、「目利き」という言葉どおり、新鮮で美味しい野菜や魚を選 ぶ基準も食材の見た目の変化から判断されるように、見た目の皮 膚というのは内臓の状態に左右される臓器ということになります。 つまり皮膚を良くするためには、内臓の働きを良くすることが必 要であり、そのポイントとなるのが日々の食事や栄養となります。
体(皮膚)は食事から摂取する栄養から作られ、適切な食事や栄養補給により、十分な栄養が体全体に行き渡れば、当然、皮膚の働きも向上します。
当クリニックでは、一般的な皮膚科診療だけでなく、「皮膚は内臓(栄養)の鏡」という観点から、皮膚の変化を体の栄養の問題として捉え、食事指導やサプリメントによる栄養補給(オーソモレキュラー栄養医療)を併用しています(症例写真)。
症例写真
かゆみ、丘疹、紅斑、亀裂、鱗屑など皮膚の変化はさまざまで、こうした見た目の変化を詳しく診ることで、体(皮膚)の栄養の問題を推測することが可能となります(表)。
不足している栄養 | 素皮膚の変化 |
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鉄不足 | かゆみ、ブツブツ(丘疹) |
亜鉛不足 | ジクジク(湿潤)、ひび割れ(亀裂)、色素沈着 |
ビタミンB群・ビタミンC・ビタミンE不足 | 赤味(紅斑)、毛細血管拡張 |
ビタミンA・タンパク質不足 | カサカサ(乾燥)、ゴワゴワ(苔癬化) |
皮膚とタンパク質
皮膚の機能や働きに最も必要な栄養素といえばタンパク質です。
角質層における保水効果は角質細胞と細胞間脂質が中心で、角質細胞内に存在するNMF(天然保湿因子)はアミノ酸から成り、細胞間脂質はセラミドとコレステロールで構成されます。
コレステロールというと、動脈硬化の原因というよろしくないイメージがありますが、①細胞膜を構成する成分②ステロイドや性ホルモンの材料③ビタミンDの材料など、体には無くてはならない成分です。コレステロールは肝臓で生合成され、その材料となるのがタンパク質です。
また、表皮の角化にはビタミンA、ビタミンD、亜鉛が必要で、肝臓に貯蔵されたビタミンAを取り出して末梢組織に運搬するのが亜鉛とタンパク質です。
さらに、真皮の約7割を占めているコラーゲンはタンパク質、ビタミンC、鉄で作られます。皮膚細胞、毛髪、爪の主な成分であるケラチンもタンパク質でできています。
このため、タンパク質の不足は、乾燥肌、角化異常、皮膚炎の遷延化、ニキビ、老化、床ずれ、髪の毛や爪の異常などさまざまな皮膚のトラブルを生じます。
タンパク質の1日の摂取量は、体重1㎏あたり約1gで、成人であれば約60gですが、実際はほとんどの方が必要量を満たしていません。そのため、できるだけ多くのタンパク質を摂取していただく食事指導を行います。ただしタンパク質の摂取で注意すべきことは、消化不良やアレルギーの問題が指摘されるため、よく噛む、消化酵素の活用、同じ食材のタンパク質の摂取を控えていただくような指導も併せて行います。
食事でタンパク質が十分摂取できない場合にはプロテインを活用しますが、メーカーによって成分や配合や効果は違いますので、①吸収の良い低分子加工したもの②メチオニンが強化されている③消化吸収に配慮した配合など、栄養に精通した医師のアドバイスの上でサプリメントを選んでいただきます。また、プロテインの原材料のほとんどが大豆や乳であるため、大豆・乳アレルギーのある方は、各種アミノ酸やグルタミンでの摂取となります。
タンパク質以外の栄養素である糖質や脂質に関しては、まず砂糖や果糖液といった精製された糖質を控えていただきます。糖質を摂取する場合には、タンパク質、野菜などの食物繊維を先に摂取して、食後高血糖を防ぐことが重要です。過剰な糖質はタンパク質と結合して糖化を引き起こします。糖化によってタンパク質本来の働きが失われ、皮膚のコラーゲンにおいては、しわやたるみを生じます。また、余分な糖質は脂質に変化するため、皮脂の増加からニキビや脂漏性皮膚炎の悪化を招きます。
脂質に関しては、ω6系油脂やマーガリンを控え、EPAや亜麻仁油などのω3系油脂、バターなどの飽和脂肪酸を積極的に摂取していただくようにしています。
通常、糖質が約6割、タンパク質が約2割、脂質が約2割の、“いわゆる”バランスのよい食事とは異なり、タンパク質を中心に、血糖コントロールに気を配るという食事や食べ方がオーソモレキュラー栄養医療の基本であり、かつ皮膚や見た目のアンチエイジングには必要な食事だと言えます。
次回は、皮膚科ではあまり注目されない鉄について述べたいと思います。
プロフィール
奈良県生まれ。愛知医科大学卒業後、兵庫医科大学皮膚科勤務などを経て、2010年に兵庫県西宮市に甲子園栗木皮膚科クリニックを開院。
食事とサプリメントによって、体の内側から皮膚をケアするオーソモレキュラー栄養医療に取り組んでいる。