茨城と聞いて、何を思い浮かべるだろう?県庁所在地の水戸市から連想できる水戸黄門様や水戸納豆?学術・研究都市として知名度の高いつくば市からサイエンスのイメージを持つ人もいるかもしれない。今回はその両市からも近く、筑波山と霞ヶ浦を臨む土浦市を拠点に気の向くまま各地を訪れ、そこで出会った人たちの人柄の良さに触れる、心温まる素敵な旅となった。
先が見える、見通しがきく縁起物として、お正月や慶事には欠かすことができないレンコン。
茨城県はレンコンの生産量日本一で、全国の3割、東京市場では約9割ものシェアを誇る。なかでも土浦市霞ヶ浦周辺は作付け面積、生産量ともにレンコン作りの中心地だ。低湿地帯で野草が堆積し、肥えた土壌が水温を高める自然環境が、シャキシャキとした歯ざわりの良いレンコンを育てる。夏は緑に覆われ、早朝には蓮の花が咲いているそうなので、また訪れるとしよう。
土浦城のお膝元、中城通りには県指定の文化財や、寺社仏閣など江戸情緒を残した建物が集まっている。目を引く土浦まちかど蔵「大徳」と「野村」は向かい合って建ち、「大徳」は呉服商「大国屋徳兵衛家(大徳)」の土蔵造りで1831年建造。
訪れた日は「土浦の雛まつり」(2月4日〜3月3日)の準備で2階へは上がれなかったが、観光協会の方とお話をしながら、お土産の「れんこんカレー」と「ツェッペリンカレー」、「蓮根の実 甘納豆」を買った。店内の居心地の良さが印象に残る素敵な蔵だ。
土浦まちかど蔵「野村」。こちらは江戸時代より商家だった野村家が明治期に砂糖商を営み1860年に建てられたものだ。
こちらは裏に回るとレンガ蔵を改装した喫茶店があり、門をくぐると中庭風の玄関前がなかなか可愛い。さらに右奥に白い蔵が見えたのでそちらに移動する。
蔵ギャラリーの中を覗くと、飛行船の模型と青と白に塗り分けられた大きなオブジェが見える。入り口の横には「土浦ツェッペリン伯号展示館」とある。
小ぢんまりとした空間の壁には写真パネルが所狭しと掛けられいる。要約すると1929年8月19日に、ドイツから飛び立った巨大飛行船「ツェッペリン伯号」は、世界一周の途中、霞ヶ浦飛行場に立ち寄った。その当時の写真やツェッペリン伯号の歴史などが収められている。
また、土浦の人々が乗務員にカレーを振る舞った史実から、2005年に土浦特産のレンコンを使ったツェッペリンカレーが開発されたそう。だからカレーなのか、謎が解けた。
2年後の1931年にはアメリカ合衆国の飛行家、リンドバーグ夫妻も愛機ロッキード・シリウス号で霞ヶ浦湖畔に着水し、太平洋無着陸横断に成功! 土浦の人々が大歓迎した記録も展示されている。土浦・霞ヶ浦はスゴイところだった。
昼食は中城通りの入り口角にある老舗店「保立食堂」へ。ご家族で経営されているお店は、土浦で現存する最古の食堂で、創業は150年前の1869年(明治2年)! 店内は広くていい感じに年季が入った風情豊かな空間で、テーブル席とお座敷がある。看板メニューの天丼上と天ぷら定食を注文。運ばれてきた天丼上は大きな海老がドーンと2匹乗っている。色が濃いのは、揚げた天ぷらを受け継がれた伝統のタレにくぐらせているから。プリプリの天ぷらをご賞味あれ。
天ぷら定食はレンコンも当然添えられているが、海老よりも手前に盛り付けられているのが粋だ。どちらにも豆腐のあら汁が付く。
平日のお昼時はサラリーマンたちがどんどん吸い込まれて行く。ここは長い時の流れも一緒に味わえる、地元の人々に愛されている食堂だった。
筑波温泉ホテルは関東の霊峰、筑波山の中腹にある自家源泉の静かな温泉旅館だ。
泉質は多様なミネラルを含むアルカリ性単純温泉。ほぼ無色透明で匂いもなく、サラっとした肌触りの温泉に浸かれば、肌はツルツル、スベスベに、まさに「美肌の湯」だ。湯加減も丁度良く、熱い温泉が苦手な方にもおススメだ。こちらは日帰り入浴も可能なので、ジオパークでもある筑波山を散策した時にも気軽に立ち寄れるのが嬉しい。
調理長は「料理四季報」という、プロの料理人が見る機関誌にレシピが紹介されたり、全国日本料理コンクールで入賞したりするなど、これまたすごい方。今回機会を逃してしまったが、次こそは旬の素材を使った評判の会席料理を頂くとしよう。
国道125号沿いに「マンモス」「巨大」「いちご」 の看板が目に飛び込んできた。早速店舗に入りショーケースの中の巨大ないちごにクギ付けになる。いちごの名前はマンモス。「大きないちごですね」と声を掛けると「隣にもっと大きないちごがございます」
その名もマンモススペシャル! 本当に大きい。 即買いして試食タイムだ。比較のために「ホーム」というレギュラーサイズのいちごも購入した。手のひらに乗せて並べるとマンモススペシャルの大きさが際立つ。
筑波山の形に似たマンモススペシャルを摘む(持ち上げるという表現が近いかもしれない)。ずしりと重い。正直なところ、見た目のインパクトが強かったため味と食感にはあまり期待をしていなかったが、ひとかじりしてみると、これが驚くほど甘くて美味しい!
生産者、星さんの愛情がたっぷりと感じられるような、甘くて美味しいいちごだった。
あんこう鍋が食べたくなってスマホ検索。出てくるお店の所在地は大洗町がほとんどだ。日はすっかり暮れたがお店に予約を入れて、大洗町へ向かった。この辺りかとウロウロするもそれらしきお店が無い。暗闇に明りが灯るのはトラックが2台並んだ魚屋さんだけだ。
尋ねると、この魚屋さんの裏がお店で、横の細〜い路地を行くと入り口があった。小洒落た店内、通されたのは広々としたカウンター席だ。
目の前に立つ人が魚屋と鮨店の社長で料理人でもある大将だ。お通し(付き出し)のアワビと大根の煮物からはじまり、炙りまぐろのほほ肉は絶品。あんこう友酢、白子の天ぷら、お目当のあんこう鍋に締めの雑炊も平らげ、どれも旨かった! 食リポもそこそこになるほど、この大将に触れずにはいられない。彼はかつて「TVチャンピオン」に出場し準優勝。繁忙期で見送ったものの、年末の番組にも出演打診があるなどメディアからも注目されている料理の腕の持ち主。そもそも鮨屋の大将を務めるに至った経緯も、「いろんな人に旨いものを食べて楽しんでもらいたい」という気持ちだけで、料理経験が無いにも関わらず魚屋を引き継ぎ融資に走るという、超がつくほどのポジティブ行動派。そんな魅力溢れる大将の作る料理はどれも大胆かつ繊細。握りはネタに合せて絶妙な味付けがされていて、醤油をつけないのが新鮮。お皿は生け花用の鉢をひっくり返して盛り付けるなど、アイデアとセンスに溢れていた。
地域に頼られる大病院で働くということ
土浦協同病院 薬剤部長
堀越 建一さん
〝JA〟という病院の特徴と薬剤師のスキルアップに嬉しい環境
業務自体は普通の病院と変わりませんが、経営母体が農協なので患者さんが農協の組合員の方が多いかもしれませんね。例えば、抗がん剤の副作用で直射日光を避けてくださいとか、手荒れに気を付けてくださいとか、その人の職業を加味しつつ話をする必要があるので、そういう点で農協の病院ならではだなと思うこともあります。
本院は救命救急センターやがんセンター、周産期母子医療センターなど多くの機能を有する地域中核病院で、都内で考えても大学病院並みの規模にありますし、それなりの業務内容をやっているという自負もあります。もちろん、大学病院ではないので研究機関・施設ではありませんが、ここで働いていただければ各種認定薬剤師・専門薬剤師の受験資格を得ることができます。本人にその気さえあればモチベーションはいくらでも上がる環境だと思うので、できるだけバックアップはします。ドクターヘリもけっこうな頻度で来ます。だからということではありませんが、地域から期待される病院に勤めているというだけでもやりがいはあると思いますね。
本院は総合病院であり、診療科が多くさまざまな症例を経験できます。そして、多くの領域で認定・専門資格を有している先輩たちがいるので、専門的な知識を教わることもできます。そういう点でレベルの高さは担保できると思っています。また、住宅環境が都内よりは随分住みやすく、意外と都心へのアクセスが良いところもポイントですね。
求める人物像について
勉強だけではなくて、人との付き合い方をきちんと経験されている人ですね。薬剤師って研究職のイメージを持たれるかもしれませんが、人(患者さん)を相手にする仕事なので、難しい情報を選りすぐり、分かりやすく噛み砕いて伝える力が必要です。そのためには、まず相手の話を聞くことが必要だと思います。私は採用面接のときに一緒に(面接する側に)居ますが、どんな人なのか、どんな話し方をするのかという点に興味がありますね。
ポイントとして大切だと思うのは、行き詰ったときにどうやって解決するのかということ。どこでもそうですが、理不尽なことって起こりますよね。それに上手く対応できること、何より人と上手く付き合えるかどうかというところが大事だろうと思っています。
サテライトファーマシー常駐のみなさん
トレンドワードの「地域医療」と土浦協同病院の取り組み
少し乱暴な言い方かもしれませんが、「在院日数を短くして地域に帰す」というのが今使われている地域医療という言葉の裏側に潜んでいるような気がします。「患者さんはどうしたいのか?」ということが抜けてしまっている気がします。患者さん本人が自宅の方が安心と仰るならそれで良いですけど、国としては病院だと医療保険がパンクするという懸念があり、看取りまではできませんよ、と。だから、地域医療という言葉の中に、核になる患者さんの想いや気持ちが抜けていると思うんですよね。患者さんが本当はどうしたいかしっかり訊かないといけないと思います。本当に自宅に帰すのが患者さんのためになるのかどうかということはまったく別問題なので。ただし、帰すにあたっては病院に居るときと同じくらいきちんと薬が飲めるように、そして安全な薬物治療が継続されるように在宅の薬剤師さんたちがきちんとアプローチできるよう情報共有することはとても重要なことだと思います。そのためにも、地域の薬局薬剤師の方に対して年4回くらい勉強会を設けています。
今、特に門前薬局は処方せんの数をこなすことに精一杯で、この薬がこの患者さんに絶対必要かどうかということ―患者さんを通して薬を見る余裕は多分無いのだと思います。だから処方せんどおり薬を渡すだけで終わってしまって、患者さん個々の病状や検査値などを勘案した薬学的ケアということをどれだけ実践できているのかということがちょっと疑問ではあります。でもそれは私が言うことではなく、ご自身で気付いていただくことが必要なので、そのために勉強会を開いています。
今後注力していきたいことや展望
今まで当院薬剤部でやってきたことですが、大前提として薬剤師1人ひとりにジェネラリストとして一人前になってもらわなければならない。その上で専門性を深めるという点で、例えばがん、感染症、糖尿病などいろんな選択肢があるので、やりたい分野に進んでもらいたいですね。その点では先に述べたように、土浦協同病院は診療科が多くさまざまな症例を経験でき、多くの優秀な先輩たちもいるのでバックアップのアドバンテージはあるかと思います。
あと、薬を取り揃えるのは、テクニックのある人なら薬剤師でなくてもできるはずです。例えば注射薬のミキシングにしても、ミキシング自体は薬剤師じゃなくて良いはずです。実際、アメリカには日本の薬局との大きな違いの1つとしてテクニシャン制度(pharmacy technician)があり、日本では「調剤技師」「薬局テクニシャン」などと訳されています。今後は、日本でも薬剤師以外でテクニックを持った人たちが働くように業務の棲み分けができれば良いなと思っています。
●取材協力 総合病院 土浦協同病院
茨城県土浦市おおつ野4−1−1
TEL:029−830−3711(代表)