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研究室訪問記

第3弾 クリニカルクエッションを抱えている薬剤師のために
名城大学薬学部病態解析学Ⅰ研究室

研究室訪問記

名城大学薬学部病態解析学Ⅰ研究室

吉見 陽( ヨシミ アキラ)助教

助教、博士(医学)、愛知県出身
●マイブーム:運動、読書、旅行 ●子供のころの夢:弁護士 ●好きなアーティスト:フジコ・ヘミング ●薬剤師へのおすすめ書籍:アンサングシンデレラ ●担当授業:薬物治療マネジメント、実務実習事前学習講義・演習、薬学卒業研究基礎、多職種連携、発展キャリア形成7(プロフェッショナリズム)②、薬学卒業研究1、薬学卒業応用演習1、薬学卒業研究・演習

全国の薬学部における最新の研究を紹介する「研究室訪問記」。卒業して何年も経つと研究という言葉すらノスタルジー?日常業務に追われ、研究マインドを忘れてしまったそこの薬剤師さん!思い出してください薬剤師綱領を。「薬剤師はその業務が人の生命健康にかかわることに深く思いを致し、絶えず薬学、医学の成果を吸収して、人類の福祉に貢献するよう努める。」とあるではないですか。そう、絶えず最新の研究をトレースし続けなければならないのです。
「そんな暇はない」と嘆くあなたのために、薬剤師業務にかかわりの深い研究を行っている研究室をファーネットマガジンが取材して、最新の研究をご紹介しちゃいます。これを読んで、再び研究マインドに火をともしましょう。

株式会社ツールポックス、城西国際大学薬学部 富澤 崇/取材

当研究室は、野田幸裕教授、大学院生:4年生1人、2年生1人、1年生1人、学部生:6年生9人、5年生10人、4年生10人からなります。臨床薬学教育・研究推進センターという部門に属しますが、研究室自体は名古屋大学医学部附属病院内にありますので、名城大学薬学部のある八事キャンパスではありません。
私は、2006年に名城大学薬学部を卒業し、そのまま修士課程へと進学しました。その後、名古屋大学医学部附属病院薬剤部に勤務する傍ら、名古屋大学大学院医学系研究科の博士課程にも進学しました。そして、病院や薬局、医局での勤務を経て、2016年4月から現職に就いています。
当研究室は、医局や薬剤部と共同して動物や細胞を用いた基礎研究とヒトを対象とした臨床研究を橋渡しするトランスレーショナル・リサーチにより、臨床現場に還元できるような成果を目指しています。特に、精神疾患を研究の対象としています。精神疾患は、診断や治療反応性を問診などの主観的な評価に頼っています。他の疾患同様、血液検査などの客観的指標による評価ができないものかと考え、脳や中枢神経系の細胞における特異的な変化や末梢組織・細胞における分子動態の関連性を見つけ、その分子機能を明らかにすることでパーソナライズド・メディスン(個別化医療)の実現を目指しています。

  • ●幼若期社会的敗北ストレス負荷による社会性行動障害における発現脆弱因子の探索と興奮性アミノ酸の役割に関する研究
  • ●精神行動障害の発現や精神依存の脆弱性におけるニコチン受容体や炎症性生理物質(PGE2)に関する研究
  • ●クロザピンの薬効・副作用に関する標的分子の探索と機能解析:基礎と臨床の連携研究
  • ●精神疾患患者のリンパ球を用いたトランスクリプトーム解析
  • ●薬剤師外来における吸入指導の有用性に関する研究
  • ●がん化学療法に伴う消化器障害に関する因子の探索研究

(当研究室がこれまでに行ってきた研究の一部)

もっと簡便で客観的な指標で精神疾患を同定できないか?

精神疾患の診断は問診などの主観的な評価がほとんどです。また、早く治療を開始する方が薬物療法の反応が良いため、より早い確定診断が望まれます。
しかし、実際の臨床現場では、薬物治療の反応性をトライ&エラーしながら観察していくため、確定診断が遅れがちです。それは疾患の治療のみならず社会復帰の遅延につながります。これまで多くの研究者による死後脳を用いた病態解析により、病態の解明や客観的な指標の開発が進められてきましたが、私たちは末梢血液を使うなど、もっと簡便な方法で診断できないかと考えてきました。中枢の疾患であっても末梢の材料で調べられること、どの病院にも備えてある機器ですぐに測定できること、安価であること、そんな条件を満たした検査方法を確立できないか……それが目下私の関心事です。

統合失調症の末梢血液による検査、実用化まであと少し

数多くの候補遺伝子・分子が同定されてきましたが、未だ病態生理が解明されていない統合失調症に着目し、末梢血液検体から統合失調症マーカー候補を同定する研究を行っています。正直、実験にはとても苦労しました。二次元電気泳動で使用するポリアクリルアミドゲルのサイズがとても大きく、作製途中で気泡が入る、ゆがむ、泳動後に破れてしまうなどの苦労がありました。試薬調製から電気泳動、泳動後の染色、画像取り込みに3日を要するため、失敗するととても残念な気持ちになりましたね。結果的には、22種類の統合失調症マーカー候補因子が同定され、ウエスタンブロットにより8因子(MX1、IGHM、MAPRE1、TBCB、GLRX3、HSPA4L、GART、UROD)の発現変化が確認できました(特許第5641471号、国際特許WO2014061456A1、論文投稿中)。
すなわち患者の末梢血液からこれらのバイオマーカーが検出されれば、統合失調症と診断できる可能性があるということです。これが実用化できれば、問診の有用な補助診断法になると考えられます。新鮮血液での検討を進める必要がありますが、実現すれば採血して1日で結果が出ますし、病院の既存機器でできるので汎用性も高く、普及すればコストが抑えられると考えられます。もう少しで実用化のめどが立つのですが、今はそのための研究資金の調達が課題となっています。
このようなバイオマーカーが臨床応用された場合には、診断、重症度、治療反応性、副作用発現、最適な治療薬の選択などの判断材料として役立つだけでなく、同定された因子そのものやそれらを修飾する分子が新規治療標的であった場合には、治療薬開発の種になるかもしれません。

実験手順は自己流

実験は指導者・先輩・同僚から教わることもありましたが、当時はラボで実験系が確立していないことも多かったため、立ち上げ当初は自己流です。同僚などと一緒にプロトコールを考え、調べながらとりあえずやってみて、やりながら習得していくという感じですね。修士の頃に羊土社から出版されている「手抜き実験のすすめ―バイオ研究五輪書」がラボにあり、実験の肝を押さえながら時短・無駄削減する上で役に立ちました。何事も「まずやってみる」という精神はとても大事だと思います。そして何にでも興味を持って、欲張ること。卒業研究を通して学生さんにもっとも伝えたいことですね。
私は、研究も好きですが、調剤や患者さんとの面談も好きです。卒論は製剤学でしたが、薬物動態学や遺伝子工学にも関心がありました。病院薬剤師として働きながら博士課程に進学もしました。ずいぶんと欲張りな性格だと思います。二足の草鞋を履くことでできることもあると思います。基礎研究を臨床にフィードバックしたいという気持ちになったのもそのおかげだと思います。

卒論生にも聞いちゃいました!

周産期や幼若期の環境的要因暴露により惹起される情動や
認知機能などの精神行動異常におけるprostaglandin E₂ の関与

髙須 光平( タカス ミツヒラ)さん
5年生、愛知県出身
●マイブーム:包丁研ぎ
●将来の進路:薬局
●指導教員に一言!:優しさ重視で、宜しくお願いします!

実験はなかなかうまくいかないこともあり、ストレスを感じることもありました。でも、「これぞ研究!」という感じがして、やりがいや責任感が芽生えました。私が携わっている研究は、精神疾患の原因を突き止めることです。精神疾患の発症には、周産期のウイルス感染、出産時の低酸素脳症、周産期や幼若期の育児放棄といった環境要因によって、PGE2、IL-6、TNF-αなどの炎症性メディエーターが誘導され、神経の発達障害を引き起こすことが原因の一つと考えられています。そこで、生後間もないマウスに免疫異常を起こさせたり、低酸素状態にしたり、母親と隔離したりといった状況を作ったところ、免疫異常や低酸素の環境要因を負荷した成体期マウスでは、社会性の低下や情報処理機能の低下が観察され、さらに脳内におけるPGE2の増加が確認されました。周産期や幼若期の環境要因とPGE2の増加が成長後の精神行動異常を引き起こしているのではないかと考えられました。
このように仮説を立て、実験計画を立て、実行し、何がうまくいって/いかなくてというPDCAサイクルを回すことは将来きっと役に立つものと思っています。

クロザピン服用患者における血漿中濃度とCYP2D6 遺伝子多型との関連解析

中村 真理子(ナカムラ マリコ)さん
5年生、愛知県出身
●マイブーム:おいしいものを食べたり調べたりすること♪
●将来の進路:病院
●指導教員に一言!:これからも必死についていきます!!!

私は、CYP2D6の遺伝子多型によるクロザピン(CLZ)の臨床効果や副作用発現頻度について研究しました。
治療抵抗性統合失調症に対し唯一適応を有するCLZは、無顆粒球症、耐糖能異常や心筋炎などの重篤な副作用を持ち、それが原因で薬物治療をドロップアウトするケースもあります。CLZはCYP1A2、3A4、2D6で代謝されノルクロザピン(NCLZ)となります。CLZとNCLZの比(NCLZ/CLZ)が高い方が、臨床効果が高く、副作用が少ないという報告もありますが明確なことはわかっていません。そこで、日本人に高頻度で確認されるCYP2D6の遺伝子多型によって、治療効果や副作用発現が変化するのではないかと考えました。遺伝子多型解析の結果、CYP2D6*5のヘテロ接合体保有者やCYP2D6*10のホモ接合体保有者では、低用量でも効果を示す一方で副作用発現が顕著となる可能性が示唆されました。遺伝子多型を解析することで、個別化されたCLZの用量調整が可能になると考えられます。
研究はとても楽しいです。ただ、病院から血液検体をもらうために始発電車に乗って朝の5時に行くので、授業中眠くて(笑)。将来は大学院進学も考えていますが、実務実習の経験を通じて臨床に進むのも良いかなと、両方欲張ってみたいと思っています。