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女性のライフキャリアデザインと女性ホルモン製剤を利用したヘルスケア

はじめに
現代の女性は、それぞれが個々の価値観を持ち、ライフキャリアのデザインにおいても多くの選択肢を持っています。一方で人生は思うようにいかないことも多く、望んだライフキャリアを見直したり修正したりすることもあります。しかし、そんな中でも、意識したり知っていたりすることで対応・予防ができることもあります。その一つが女性ホルモン製剤を利用したヘルスケアです。
さて、その女性ホルモン製剤ですが皆さんはどのくらいご存知でしょうか?「なんとなく不安」と思われる方もいるかと思いますが、実は詳しく知らないという方が多いのではないかと思います。女性ホルモン製剤は、豊富なエビデンス(科学的根拠)を持ち、女性のQOL向上には欠かせない医薬品として海外では長年多くの女性たちのヘルスケアを支えてきた実績があります。
日本でも女性の活躍や多様なライフキャリアに合わせ、健康で快適に過ごすための選択肢として注目されてきていますので、是非興味を持ち知っていただけたら幸いです。

NPO法人女性の健康とメノポーズ協会大阪支部 ブランチマネジャー
一般社団法人 日本女性医学学会認定 女性ヘルスケア専門薬剤師

松原 爽(まつばら さやか)さん

1993年、日本ワイスエーザイ(現ファイザー)に入社後、開発担当を経て女性ホルモン製剤のマーケティング担当となり、世界に遅れること40年、低用量経口避妊薬(ピル)の日本への導入を担当。
2004年、日本シエーリング(現バイエル薬品)に転職し、更年期障害や閉経後骨粗しょう症領域の治療薬など女性のQOL向上に必要な医薬品の新発売をプロダクトマネジャーとして担当。その後も、多くの女性ホルモン製剤のプロモーションを通して、女性特有の疾患の啓発や女性ホルモン製剤に対する正しい知識の普及に務めてきた。
2018年よりNPO法人女性の健康とメノポーズ協会大阪支部を立ち上げ「女性の生涯を通した健康づくりとワークライフバランスの実現」に向けた活動を行っている。

女性のライフキャリアデザインに影響する健康課題

女性は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2種類の女性ホルモンの影響を受けており、その分泌状態により女性のココロとカラダは変化します。またそれは月経周期にあわせて変わるだけでなく、初潮を迎える時期と更年期にも劇的に変化します。そのため、女性の健康課題はライフステージによって変わっていきます。ここでは代表的な健康課題について紹介します。

女性のライフステージとライフステージごとに起こりやすい疾患・症状

① 月経前症候群(PMS)と月経困難症

月経開始の3~10日くらい前に生じ月経開始とともに消失する乳房痛やむくみ、イライラや抑うつといったさまざまな心身の不快な症状を月経前症候群(PMS)と言い、月経時に起こるお腹の痛みや腰痛といった症状が日常生活に支障をきたすほど強く出る状態を月経困難症と言います。どちらも身近なものですが、女性の能力を十分に発揮することを妨げる大きな要因となります。
月経困難症の原因の一つでもある子宮内膜症は現代女性に増えている疾患の一つです。この病気は子宮の内側にある子宮内膜組織に似た組織が、腹膜や卵巣など子宮の内側以外の場所で発生し増殖する病気で、放っておくと炎症や癒着を引き起こし月経痛や下腹部痛、腰痛、性交痛、排便痛などのさまざまな痛みが現れます。
子宮内膜症は、痛みにより女性の能力を十分に発揮することを妨げるだけでなく、不妊や卵巣がん、体がんのリスクを増加させるため、将来に備えるためにも早期に治療する必要があります。

② 妊娠・出産

現代は妊娠・出産についてもさまざまな選択肢が増えてきています。いつ産むか、何人産むかなどコントロールすること、産まないという選択をすること、育児以外の生きがいややりたいことを見出すことなど多様になってきています。
大切なことは、いずれを選択するにせよ、正しい情報を得たうえで女性自身が判断するということです。
女性の妊孕性(妊娠できる能力)のある時期は限られており、初経年齢は平均12歳で、自然妊娠の確率は35歳を過ぎたあたりから減少し不妊の割合が増加してきます。望まない妊娠を防ぐには、女性が主体的に選べる避妊法があります。
また、いつか必ず妊娠したい場合は、妊娠の確率が高く安全な出産ができる可能性が高い時期に妊娠・出産の計画を立てることも重要ですし、妊娠適齢期であったとしても月経異常など何らかの疾患を抱えている場合は妊孕性が落ちていることもあるので、定期的な婦人科検診で自分のカラダの状態を知っておくことも大切です。

③ 更年期障害

更年期には卵巣機能が低下し、卵巣から分泌される女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌が揺らぎながら低下するため、月経周期が乱れ、ココロとカラダにさまざまな不調が現れます。
具体的にはほてり、のぼせ、発汗、動悸、頭痛、めまいといった身体的症状や、憂鬱な気分、眠れない、イライラなどの精神的症状があります。このようなさまざまな不調のことを更年期症状と言い、これらが生活に支障をきたすほど酷い場合を更年期障害と呼び、治療が必要となります。
更年期に現れるさまざまな不調は、卵巣機能の低下によるエストロゲンの欠乏に加え、生活習慣や環境的な要因、また本人の気質や体質なども複雑に絡みあって引き起こされるため、症状の現れ方には個人差がありますが、“今までできていたことができなくなって自信が持てなくなる”、“仕事が続けられなくなるほど辛い”など、女性の能力を十分に発揮し続けることを妨げる要因にもなっています。
なお、閉経を迎えると、それまで全身のいろんな部位に作用し女性の健康を支えていたエストロゲンの分泌が無くなるため、更年期障害だけでなく骨粗しょう症や動脈硬化など更年期以降のさまざまな症状や障害も進行するので、更年期以降もいきいきと過ごすためには、この時期に婦人科で健康状態を把握しておくことがとても大切です。

女性ホルモン製剤という選択肢

女性のヘルスケアを支える女性ホルモン製剤の中でも、特に女性のQOL向上に欠かせないOC・LEPそしてHRTについてご紹介します。
女性ホルモン製剤は医薬品です。そのため使用を検討する場合は必ず婦人科医に相談することが必要です。
婦人科を受診することをためらう女性もいるかもしれませんが、婦人科医は医薬品を使う・使わないに関わらずさまざまな女性特有の健康課題の相談にも乗ってくれますし、女性にとって必要な婦人科検診もしてくれるところです。
健康で快適に思い描くライフキャリアを実現するためにも、早い時期から婦人科医のパートナードクターを持っておくと心強いです。

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一般社団法人日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医

OC・LEPとは

OC……Oral Contraceptivesの略で低用量経口避妊薬のこと。一般的にはピルと呼ばれている。

LEP……Low dose Estrogen Progestin Combinationの略で低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤のこと。

OC・LEPには女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲスチンが含有されており、OCは避妊を目的に、LEPは月経困難症や子宮内膜症に伴う疼痛など疾患の治療を目的としている。


期待される効果

① 排卵を抑え妊娠を防ぐ
② 月経周期が整う
③ 月経時期をずらすなど月経のコントロールができる
④ 月経時の痛みを抑制する
⑤ 子宮内膜が厚くなるのを抑え月経量を減少させる
⑥ ホルモン変動を安定させることで月経周期に伴う精神的な不調を改善する
⑦ 長期服用により卵巣癌や子宮体癌のリスクを低下させる など

主な副作用について

OC・LEPは服用初期に頭痛や悪心、不正出血などのマイナートラブルが起こるが、ほとんどの場合は服用を続けるうちに治まる。

HRTとは

Hormone Replacement Therapyの略でホルモン補充療法のこと

HRTは卵巣機能の低下などからエストロゲンの分泌が下がることで引き起こされるさまざまな症状や障害を、エストロゲンを必要最低量補うことで治療するという療法。
エストロゲンは女性のさまざまな器官に作用し女性の全身を守る働きがあるため、“更年期医療のスタンダード”として使用されているほか、更年期以降に顕在化してくる病気の予防にも効果があるとされている。


期待される効果

① 更年期障害を緩和する
② 骨密度を増加させる
③ 脂質代謝や糖代謝などへ良い影響を与える
④ 血管のしなやかさを保つ
⑤ 更年期の抑うつ気分を改善する
⑥ 皮膚のコラーゲンを増やし肌の潤いを保つ
⑦ 大腸がんのリスクを低下させる など

主な副作用について

HRTは服用初期に不正出血や乳房の張りなどのマイナートラブルが起こるが、ほとんどの場合は服用を続けるうちに治まる。
なお、HRTと聞くと乳がんを心配する声もあるが、現在ではHRTによる乳がんリスクへの影響は小さいと言われており、乳がんに関してはHRTをする・しないに関わらず定期的な検診が重要とされている。

女性ホルモン製剤を利用したヘルスケアの例

※以下はあくまでも一例です。女性ホルモン製剤の使用にあたっては婦人科受診が必要です。

パフォーマンスが上がり積極的にライフキャリアを築けるようになったAさん(未婚・20代)の場合

状況
●就職して仕事にも慣れてきたころ
●月経痛が酷く、月経前に気分が落ち込むこともある
●シフト制の仕事のため月経の痛みがひどくても休みづらい
●婦人科受診はまだしたことがない

選択
検診も兼ねて婦人科受診、月経困難症と診断。LEPを使用したところ月経痛が軽くなり、気分も安定してきた。また月経周期を自分でコントロールできるようになったので、シフトも気にならなくなった。
定期的に婦人科受診することで自身のカラダの状態も分かり、今は仕事もプライベートも月経に振り回されずに生活できるようになった。

計画的な妊娠・出産で望むライフキャリアプランを実現できたBさん(既婚・30代)の場合

状況
●数年前に店舗の責任者になりやりがいも責任も感じている
●子供はいつか欲しい。子供を産んでも仕事は続けたい
●産休育休で職場に迷惑をかけたくない
●婦人科定期検診を受けており、まだ子育てより仕事を優先したいので避妊のためにOCを使用している

選択
店舗の仕事も落ち着き、部下の育成も順調に進んでいる。今のうちに産休育休を取れたら仕事への影響が少ないと判断。婦人科医とも相談のうえ、計画的にOCを止め、その後妊娠・出産。育休を取り希望していた時期に職場復帰できた。

更年期障害を理由にライフキャリアプランをあきらめないで済んだCさん(未婚・50代)の場合

状況
●管理職で部下も多い
●仕事は長く続けたい
●最近更年期症状がひどくなり仕事に集中できない。今までの自分ではないような気がして自信がなくなってきた

選択
婦人科を受診、更年期障害と診断。HRTを使用したところ更年期障害がほとんど無くなった。一時は更年期障害が酷く仕事を辞めることも考えていたが、今までの自分を取り戻し継続して仕事に打ち込めるようになった。更年期障害をきっかけに婦人科にも定期的に通うことにし、健康に年齢を重ねられる自信がついた。
また以前より興味のあった趣味にも挑戦している。

女性の健康に関する正しい知識と理解

「女性が多様なライフキャリアに合わせ健康で快適に過ごしていくには、女性だけでなく男性や企業、社会も女性特有の健康課題の知識やライフキャリアへのニーズを理解することが大切です。男性の皆様の中には、女性特有の体調の変化に関して「どう対処したらよいのか」と悩まれる方も多いかと思います。大切なことは“女性には体調の変化や女性特有の健康課題がある”ということを知り、理解することだと思います。
「女性の健康検定」は、このような知識や理解を評価する検定で、認定者は女性の健康相談や職場における女性活躍推進担当などの役割を担って活躍されています。今後このような認定資格などを活用し、ヘルスケアの視点を持った職場や地域の環境づくりや女性のより良いライフキャリアデザインの支援が進むことを願っています。

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女性の健康検定

7/6(土)大阪の薬局様にて松原先生のセミナー開催支援をさせていただきました。

セミナー参加者の声(一部)

  • 60代女性● 薬剤を投薬するばかりでなく、もっと深く女性の悩みを聞き入れホルモン治療へのアドバイスに役立てたいと思います。
  • 40代女性● 婦人科などで処方されたホルモン剤などの服薬指導、更年期の症状などで悩んでいらっしゃる患者様の相談などに活かそうと思います。
  • 30代女性● 自分自身これから妊娠もしたいし、更年期もあっという間にやってくると思うので、自分でもいろいろ調べて、これからに備えたいです。
  • 20代女性● 現在キャリア期で、妊娠の時期も考えているのでOC・LEPなど考えに入れて活かしたいです。 
  • 20代女性● わかっているつもりでも知らなかったことが沢山ありました。もう少し自分の身体のことを考えてみようと思います。

開催にご興味のある方はこちらよりご連絡ください。