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栄養学 第3回:薬剤師のためのオーソモレキュラー栄養医学

大友外科整形外科・院長 大友 通明 先生

薬剤師のためのオーソモレキュラー栄養医学

情報が錯そうする現代社会においては、患者様と接する際、薬剤の種類や働きはもちろんのこと、正しい栄養の知識を身に着けておく必要があるでしょう。本連載では、“食事と栄養”のチカラを用いて病態の根本的な治療を行う“オーソモレキュラー栄養医療”を実践するドクターに、診療科ごとの最新の栄養医療をご紹介いただきます。

オーソモレキュラー栄養医学との出会い

はじめまして、栄養療法実践整形外科医の大友通明です。今号から2回にわたって整形外科領域におけるオーソモレキュラー栄養医学について連載をしていきます。

整形外科に栄養?と思われる方もいると思いますが、実は治療するうえで大変重要です。そのことに気づいたのは私自身の体験からです。5年前、私は不眠、不安感、手の冷えとしびれ、頭痛、難治性の肩こり、腰痛、高血圧、不整脈、痔に悩まされ、診療にも支障が出るほどでした。内科を受診して血液検査をしても異常なしと診断され、MRIなどの精密検査でも問題なし、処方された内服薬でも改善することなく、本当に辛い日々を過ごしました。もう治らないのかと諦めかけていた頃に出会ったのがオーソモレキュラー栄養医学でした。アドバイス通りに食事の内容や食べ方を変えて、自分に不足している食事だけでは補えない栄養素をサプリメントで補充していくことで、ずっと悩んでいたすべての症状が消え去ったのでした。

内科では異常なしといわれた血液検査データも、オーソモレキュラー栄養医学的に評価すると問題だらけでした。オーソモレキュラー栄養医学に興味を持った私はありとあらゆるセミナーに参加しました。その過程で、医学部を卒業して20年以上経って初めて血液検査データの本当の意味を理解したとき、私の診療スタイルはガラッと変わってしまったのです。

整形外科の患者さんたちの背景にもきっと栄養の問題が隠れているに違いないと思った私は、血液検査を最重要の検査として見直しました。血液検査から読み取れる栄養の状態を患者さんに説明して、食事や栄養の改善をしてもらうと、今までに見られないような素晴らしい結果が得られたのです。それを2回にわたってお伝えしたいと思います。

成長時痛について~成長時の痛みは栄養不足~

成長期の小中学生の膝の痛みといえば、有名なオスグット病(写真1)があります。発症するのは過剰な運動が原因とされています。安静、装具による治療で自然に治るといわれています。本当にそうなのでしょうか。

オスグット病は成長期に起こる骨のトラブルです。成長期には身体がどんどん大きくなりますが、ちょうどこの時期の子供は小学生から中学生になり生活環境が大きく変わります。ましてや運動部に入ると、急激に運動量が増えることになります。使い過ぎの状態になるのは当然なのですが、すべての子供がオスグット病になるわけではありません。オスグット病になる子は何か問題があると思わずにはいられませんでした。

骨は代謝している組織です。古い骨を壊して、新しい骨を作っている生きた組織です。骨を分子レベルで考えると、骨は鉄骨であるコラーゲンとコンクリートであるミネラルからできています。細胞が作るコラーゲンは重合して3重らせん構造になって初めて強度を持ちます。強い骨ができれば運動量が増えたとしてもオスグット病にはならないわけです。つまりオスグット病になる子供は強いコラーゲンを作れないのです。実はコラーゲンの重合には鉄とビタミンCが必要なのです。オスグット病の子供に問診すると、立ち眩み、頭痛、朝起きるのが苦手などの症状がありました。それは女子だけでなく、男子にも見られました。膝の痛みの陰には鉄不足の問題があると考えて採血をしてみると、運動による組織障害の他に、成長に必要な鉄、亜鉛、タンパク質、ビタミンB6などが不足していることが明らかになりました。

この結果を見てオスグット病の治療が変わりました。まず安静にさせ、食事指導を行って、たんぱく質の摂取量を増やしてもらいました。食事だけでは十分な量が補えないビタミンCと鉄はサプリメントで補充を行いました。

通常オスグット病は治療に3~9か月かかるのですが、私の患者さんはなんと2か月で完治しました(写真2)。運動過剰は誘因であって、その原因はコラーゲンの生成障害、つまりはたんぱく質、鉄、ビタミンCを中心とした栄養不足だったのです。

皆さん、これがオーソモレキュラー栄養医学です。どう思われましたか? 次回ではもっと具体的に説明したいと思います。お楽しみに。

写真1、写真2
大友外科整形外科・院長 大友 通明 先生プロフィール
大友 通明

プロフィール

埼玉県生まれ。
東京医科大学医学部卒業後、同大整形外科勤務を経て2004年埼玉県北本市に大友外科整形外科を開院。
整形外科治療に食事指導やサプリメント指導を盛り込んだオーソモレキュラー栄養療法を導入した栄養整形医学を実践している。
著書に『骨と筋肉が若返る食べ方』(青春出版社)がある。