大阪から車や電車で約1時間。山と川、海に恵まれた和歌山は、黒潮の影響で夏は比較的涼しく冬は暖かく暮らしやすい。豊富で新鮮な魚介が自慢で、果物も美味しい。和歌山市、海南市を巡り、出会った人々が温厚で優しかったのが印象に残るひと味違う旅を満喫した。
淡嶋神社は、朝から時折強く降る雨のせいか参拝する人の影はなく、雨が叩く音だけが境内に響いていた。
ここは人形供養、雛流しの神事が有名。全国から供養を求めて奉納された雛人形や日本人形、招き猫にタヌキなど、さまざまな人形たちで社殿や境内は埋め尽くされている。また、安産、子授け、婦人病回復にもご利益があり、祈願のために下着を奉納する場所も境内奥にあるため、下着も集まるのが面白い。
縁結びや恋の成就を願ってハート型の絵馬掛けもあり、女性には大きな味方の神社と言える。
お祀りされている少彦名命(スクナヒコナ)は国造りを成した神のひとり。淡嶋信仰(約1,000社ある淡嶋神社系統の総本山)の淡嶋神で医薬の神でもある。
雛祭り発祥の地とも言われており、3月3日に行われるのは、もともとお祀りされていた友ヶ島から社を加太に遷したのが3月3日であり、「ひなまつり」の呼称も「スクナヒコナまつり」からきている(諸説あり)。
一般に公開はされていないが、髪の毛の伸びる人形も奉納されていて大事に保管されている。不思議な淡嶋神社はパワースポットとしても注目されている。
参道にある食堂も兼ねた海産物店に入った。店の方たちは皆、元気で明るいから居心地が良い。名物はしらす丼とわさびスープ。休日には行列ができる人気店。なるほど、店内にはサインもたくさん飾られている。
メニュー写真のノーマルサイズのしらす丼が凄いボリューム! さらにダブル、トリプルサイズもあるというから驚きだ。ミニサイズ(ノーマルの1/3)もあるのでひと安心だが、これでも結構な大きさ。無難にミニサイズを選び、「あわしま丼」ミニも注文した。
こちらは殻が割れて焼けなくなった貝やサザエ、おく貝、アサリを生姜で煮込んだ丼だ。
インパクト抜群、ボリューム満点のしらす丼は和歌山ならではの梅入り特性醤油で頂く。お味はシンプルで美味!
あわしま丼は香りだけですでに美味しい。ご飯の上にはワカメも乗っていて、しっかり混ぜてから頂く。いろんな貝の風味が口いっぱいに広がる。特にアサリはプリプリ、生姜のアクセントも良い。
大満足でお腹は一杯だ。今度訪ねたときは、わさびスープを必ず注文すると誓った。
梅の生産量日本一を誇る和歌山県は全国のシェア65%(平成28年度)を占める梅どころだ。
昨今は健康ブームもあって、梅酒が人気という。梅酒漬込み体験を予約していた中野BC株式会社さんへ向かった。ちなみにBCとは「Biochemical Creation(生化学の創造)」の略だ。場所は淡嶋神社から車で約50分、和歌山市駅からは約35分、お隣の海南市に酒蔵はある。
紀州産南高梅は梅の最高級ブランドで、皮が薄く種が小さくて、果肉がやわらかいのが特徴。こちらで造られる梅酒はすべて、県内産の良質な南高梅が使われていて、毎年6月6日の「梅の日」が初仕込みの日だ。
こだわりの砂糖とホワイトリカー、梅酒杜氏の最高の技術と愛情で仕込まれる原酒はタンク56基で、1基あたり約24,000ℓに及ぶ。
一見すると緑色の冷たく大きなタンクが並んだだけのように見えるが、一歩入ればふわりとした桃のようなフルーティな甘い香りに包まれる。小さな丸い窓からは梅たちの息づかいが聞こえてくるような暖かい空間だった。
●梅酒漬込み体験
- ①梅を選ぶ
青梅、完熟南高梅、つゆあかねから好みの梅を選ぶ。左が「つゆあかね」、右が「完熟南高梅」。梅の軸を竹串で優しく取り除いたら静かに瓶に入れる。 - ②砂糖を選ぶ
つゆあかねには定番の氷砂糖。赤と白のコントラストがキレイ。完熟南高梅には優しい甘さで薄茶色のてんさい糖を合わせてみた。 - ③リカーを注ぐ
つゆあかねにはアルコール35度のホワイトリカー、完熟南高梅には中野BCさんの「富士白 42.195」。分類は焼酎で25度。実を取り出すタイミングは3ヵ月、6ヵ月が目安だ。 - ④完成!
作った梅酒はそのままかわいいトートバックに入れて持って帰られる。
取り出した梅も美味しいだろうし、梅酒の出来栄えが今から楽しみだ。
翌朝は和歌山港にある人工島、和歌山マリーナシティへ。
目的は海釣り!そう、和歌山の海で真鯛を釣るのが最大のミッションなのだ。
釣り道具なしで手ぶらでも楽しめるのが◎。入り口の券売機で釣り公園以外に「釣り堀」なるボタンを発見。釣り堀なら確実に釣れるんじゃないか……と、気持ちが傾く。
考え込んでいるとスタッフのおっちゃんがやって来た。「体験釣り堀っていうのんがあって、釣られへんかったら無料、鯛が釣れたら買取制で1匹2,500円があんで。」
即決!海釣り堀に挑戦だ。
エサの仕掛けから投げ込みまでおっちゃんたちが全てやってくれる。浮きが落ち着いたら竿を持つだけだ。小魚をはじめヒットはするが、なかなか釣れない。
ガマンが続く。40分が経ち、諦めかけたときに最大のヒット!浮きがグンと沈んで重い手応えが来た!おっちゃんの「マダイや!まだ巻いたらアカンで〜浮きをよう見て」……手に汗握るなんとも言えない緊張が続く。
実は別の真鯛をあと一歩のところで逃げられていたので、今回は失敗ができない。
「はい巻いて!」の掛け声に合わせて真鯛と戦う。今回はうまく引き寄せることができ、釣り上げることに成功した!
黒潮市場に入ると人気コーナー、マグロの解体ショーが始まったところだ。キハダマグロの尻尾を切り、身の年輪を見て状態や脂のノリを確認して値段が決まる。
イケメンお兄さんの軽快な話術と腕前でマグロは瞬く間に5つの部位に解体され、背骨の中落ちは無料で試食できる。そして大トロと中トロをその場で鮨ネタにおろし、職人が真横で握り始める。このときのネタを切るお兄さん、鮨を握る職人さんの凄まじいスピードに驚愕!
大トロ3貫1,000円、中トロ4貫1,000円で売り切れ御免の即売会が始まった。
早速列に並んで大トロ中トロを買い込み、飲食エリアで実食。いや〜旨い!日本で流通しているマグロの8〜9割が冷凍マグロと言われているので、生マグロを食べられるのは貴重だ。
市場内にはフレッシュジュース店もあり、みかんと桃ジュースも購入。みかんは濃いオレンジ色で酸味よりも甘さがさわやかに引き立ち、ビタミンがカラダに染み渡る。
桃はオプションで果肉乗せに。香り良し、飲んで良し、食べて良しの桃好きにはたまらないフレッシュジュースだ。
ここは新鮮な魚介類だけではなく、牛肉やソーセージ、野菜も販売されていて、気に入った食材を購入し、そのままテラスに出て浜焼きバーベキューも楽しめる。この日もカップルやファミリー、学生グループで大賑わいだ。
握りを食べたばかりだが、市場内の貝を焼く匂いや、握り鮨のパックに和歌山ラーメン、海鮮丼と誘惑は続き、気付けば海鮮丼のお店に並んでいた。
藤白神社は熊野古道一の鳥居とされ、神域の始まりの場所だ。熊野信仰とともに発展した神仏習合の神社でもあり、本殿には神様、藤白王子権現堂には仏様が祀られている。境内社には、子守楠神社があり樹齢1,000年以上とされる楠をご神木とし、今も子授け、安産、成長の神様として親しまれている。また、政争に巻き込まれた悲劇の皇子・有間皇子をお祀りする有間皇子神社もある。
平安時代より約122代に渡り藤白鈴木氏が神職を務め、現在は吉田姓の宮司さんが200年以上守っているお社。
実は鈴木姓発祥の地でもあり、全国から鈴木さんが参拝に訪れ、鈴木サミットも開催されている。
神話、『古事記』や『日本書紀』にも登場し、平安、戦国、江戸時代にも大きく関係する紀州和歌山は、神秘とロマンに満ち溢れ、食も遊びも大満足の旅だった。
地元民から愛され続ける「町の薬局」の変わること、変わらないこと。
有限会社 松本薬局 取締役社長
松本 正康さん
薬剤師になられた経緯を教えてください。
物心ついた頃にはすでに親が2人とも薬剤師をしていて、その影響もあり、自然と薬剤師の道へ進みました。東京薬科大学を卒業後、大阪の茨木市の薬局で3年間修行し、地元和歌山に戻ってきました。
昔はどんな薬を置いていましたか?
10年くらい前に処方せんが増え始めるまでは化粧品の販売、漢方薬の相談、ダイエットの相談などいろいろとやりながら、雑貨類も売っていました。いわゆる「町の薬局」という感じですね。
和歌山県は処方せん率が全国でワースト2ですが、10年くらい前からだんだん伸びてきて、だんだん処方せん中心の薬局へ変わってきました。
近くの赤十字病院も院外処方になり調剤が増えてきたので、今はOTC薬より処方せんの売上の方が大きくなりました。今はたくさんDSなどもできて、正直従来通りではうまくいかなくなってきたなと感じるところはあります。
来年の薬価改定でまた余波がありそうですね。
そうですね。薬価が下がると売上が下がるから、その分厳しくはなりますね。
ですが、健康サポート薬局としての機能には問題ないと思っています。いくつかある店舗の中の調剤薬局はマンツーマン体制で、患者さんはほとんどこの近辺の方たちです。本当に地域に根付いた薬局だと思っています。
特に患者さんとの繋がりという点で、貴店と他のDSは違うように感じます。
そうなるよう努めています。DSだと登録販売者だけで薬剤師がいないところもけっこうありますが、薬剤師がいないと相談できないことももちろんあるので、朝から晩まで薬剤師が常駐しているということでアピールしていけたらと思います。DSに行ってOTC薬を買い、薬の相談だけしにこちらに来るというお客さんもいらっしゃいますが(笑)、一番身近な相談役というように認識されている限り、今のスタイルは変わらないで続けていきたいと考えています。
現在、処方せんはどこから?
近所にある医大病院と、個人のクリニックからです。あとは去年の春に在宅専門のドクターが近くで開業されたので、そちらとも提携して処方せんをもらっています。在宅専門のドクターは2名で、患者さんは10名くらいです。
患者さんからはどんな相談が来ますか?
「こういう状態だから薬が欲しいけど、他に病院でこういう薬を出されているから一緒に飲んでも大丈夫か?」といった相談です。その経過報告を患者さんからしてくれることはあまりないので、そういうコミュニケーションもこちらからしないといけないですね。
ある土曜日、痒み止めの薬を買いに来た患者さんに話を聞くと「風邪薬を飲んだら喉がイガイガしてきた」ということで、アレルギーを疑いました。知り合いのドクターに病院を開けてもらい、すぐに行ってもらいました。後日、その方の主治医から話を聞いたところ「もう少しで危ないところだった」と言われ、最終的に大きな医大病院まで行ったそうです。他にも、急に具合が悪くなった方のご家族が相談にいらしたこともあります。
本当に良かったと思いましたし、どうしていいか分からないときに頼ってもらえるような窓口として、これからも頑張っていきたいと思っています。
ここは地元密着ゆえに、大半が顔見知りの人なので、世間話のついでに来てもらえるような雰囲気であれば良いと思います。診療報酬の改定があったり、新しいことにチャレンジしたりしながら、仮に売上が芳しくなくなったとしてもなんとか続けていきたいと考えています。
地域連携についての取り組みを教えてください。
一度だけ、在宅専門のドクターや看護師さんたちと会合を行いました。内容は現状の共有と、そこにある問題に対する解決策の話し合いですね。今後も年1ペースくらいで行いたいと思っています。
私は在宅訪問時に気づいたことがあればドクターに報告しますが、今のところケアマネージャーさんや看護師さんから、そのような報告が私に来ることはないですね。今後の課題の一つです。
患者さんへの服薬指導時や在宅訪問時など、心がけていることはありますか?
薬がちゃんと飲めているか、体の様子で変わったところはないかなどを知ることです。特別なことではありませんが、いろいろ話を聞くようにはしています。それ以外にも、例えば体の不自由な方であれば、ものを取ったり整理したりと現実的な生活に寄り添ったお手伝いをすることもあります。
これからの薬局や薬剤師は24時間営業だったり、バイタルをとったりと求められることが増えそうですね。
そういうことができるようになったら良いと思います。まだまだ壁がありますけど、血糖値などいろんな数値が薬局でもわかるようになれば良いですね。もうすぐマイナンバーがお薬手帳の代わりになろうとしているので、患者さんの通院している病院の情報が薬局でわかるようになるかもしれません。薬では患者さんの病気は分かりますが、細かい数値までは分かりません。病院のカルテの情報などが薬局でも分かるようになれば、もっと具体的にアドバイスできるようになります。今そういう取り組みを県の薬剤師会と医師会でやっているので、進んでほしいと思っています。
これからを担う若手薬剤師に向けたメッセージをお願いします。
若い薬剤師さんには独立してほしいです。新しい薬局ができても大きいチェーン店ばっかりで、ほとんどが勤務薬剤師と思います。自分の力で薬局をするのも楽しいですよ。
昔は「薬店」と呼ばれていたものが、今は「健康サポート薬局」という呼び名に代わり、 薬剤師がやらなければいけない仕事も増えましたが、役目は昔も今も変わっていません。
高齢になり、今後の経営に困っているという話をこの辺りでもよく聞きます。そういった薬局の担い手となり、地域の活性に一役買ってもらいたいです。もっと薬業界が盛り上がると良いですね。期待しています。
●取材協力/有限会社 松本薬局
和歌山県和歌山市和歌川町10-18
TEL:073-445-0754(代表)