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実際どうしてる?外国人患者さんとのコミュニケーション

避けて通れないものとなりつつある薬局の外国人対応。実際に対応されているゆうせい薬局さんの工夫や、医療機関向けガイドライン等をご紹介します。

在留外国人や訪日外国人旅行者の増加、控える2020年の東京オリンピック・パラリンピック……
外国人の方にも安心・安全に日本で過ごしていただくために、薬局での外国人対応も避けて通れないものとなりつつあります。実際に対応されている薬局さんの工夫を見てみましょう。

ゆうせい薬局

代表取締役 小西 明さん

1954年に大阪市西淀川区内に創業。大阪市では2番目に「健康サポート薬局」の認定を受けた、まさに地域密着型の薬局。
多数の地域活性イベントに参加する他、外国人住民へ積極的に健康サポートを行っており、その活動は各メディアに取り上げられるだけではなく、各地から視察にも訪れるほどである。

ゆうせい薬局が立地する西淀川区の特徴

阪神工業地帯の一部であることから、工場に勤務する外国人が多く住んでいる。特にブラジル・ペルーなどの中南米出身者が多く、大阪市内のブラジル人人口の約20%、ペルー人人口の約30%がこの西淀川区に集中している。

まず、御社で外国人対応を始められたきっかけを教えてください。

小西社長

西淀川区では外国人の子供たちに学習支援ボランティアを行っているNPO団体(現:西淀川インターナショナルコミュニティ)があって、その団体の活動に出来島商店街や薬局として協力したことが、外国人住民への対応を考え始めるきっかけになりましたね。
私はもともと住民の方との横のお付き合いを大切にしたいと思っていましたし、さまざまな地域活動に薬局として参加していましたから、外国人に対して特別何かしようと思ったわけではなく、地域活動の一環で、たまたま西淀川区の特色として外国人住民が多く住んでいたので、外国人対応に注力するようになったわけです。
その中でまず初めに行ったのは、NPO団体が企画したチャリティフェスタで貼りだす、外国人のための指さし会話ポスターの制作です。「肩こり」や「頭痛」などのワードと身体のイラストを添えて記載し、指さしで症状を確認することができるものです。英語、そしてブラジルとペルーの公用語であるポルトガル語とスペイン語を記載したポスターをまずは制作しました。

外国人のための指さし会話ポスター

馴染みのない言語だと思いますが、制作はどのように行ったのですか?

小西社長

近くの外国人住民が経営している料理店で出会った、ペルー人の女子高生が協力してくれました。週1回薬局へアルバイトに来てもらいながらね。日本で育っているからスペイン語が堪能というわけではなかったけど、お母さんにも聞いてもらいながら指差し会話ポスターを完成させました。
今では3カ国語から中国語・韓国語も含めた5カ国語(日本語を入れて6カ国語)に増えましたね。中国語や韓国語のものは、インバウンド的な意味合いで外国人住民と旅行者への対応に活用しています。その後は、5カ国分の薬袋を作ったり、初回質問票(以下、質問票)も作ったりしました。

日本語の初回質問票をスペイン語、ポルトガル語、英語、中国語、韓国語に翻訳

いち薬局で進めるには限界があったので、西淀川区薬剤師会や地域包括ケアシステム委員会とも協力して作りました。副作用を確認せず調剤するというのは、日本人患者さんに対してでは基本的にあり得ないですよね。外国語質問票がないときは、こちらも相手の状態が分からないし、患者さんもどういった薬が本当に出ているのか、お互い何も分からない状態だったんです。やっぱり文字に残してあげないと後で見返しもできないから、5カ国分つくることができて良かったです。地域の医師会もホームページで広報してくれたり、大阪府薬剤師会には私が投稿して、府薬雑誌に載せていただきました。オープンに誰でも使えるようにQRコードもつけましたよ。自社だけじゃなくって、地区全体、府全体、そして全国に情報が行くはずだし、使ってもらえたら嬉しいですね。

内服薬や頓服薬の薬袋も各国語に

薬袋や質問票を作ろうと発案されたのは社長ですか?

小西社長

僕のアイデアだけではありません。薬局で働いてくれているスタッフみんな、「これが必要やこれが必要や」とよく声を上げてくれるんですよ。私はいつも、いろんなことにどんどん挑戦しようという姿勢は示しているけど、細かい指示はしていないですね。
質問票を作ると決まったときも、骨組みを考えるときにまず日本語の質問票をきちっと整えないといけないという声が上がって、日本語質問票のリニューアルに着手しました。
どの国の外国人が来ても、同じ位置に同じ質問・回答を配置しておけば日本語質問票を横に置くだけで内容がわかりやすいじゃないですか。
あとはローマ字でも書いていただけるようにしたり、できるだけチェック欄を多くして、字を書く欄を減らしたりもしましたね。日本語質問票でも面倒に感じられる方も多いでしょうから、チェック欄を増やしたのは良かったんじゃないかと思っています。日本人でも、もしかしたら字が書けない方がいらっしゃるかもしれないしね。

その他にも取り組まれていることはありますか?
また、それらの取り組みを行った成果はいかがですか?

例えば、Google翻訳を研究したときもありました。今はTV電話を通じてリアルタイムで通訳さんに対応してもらえるアプリを活用して、外国人とコミュニケーションをとっています。語学を習得するのは難しいですから、研究途上ですけどさまざまなツールを活用しています。

実際外国人患者さんも増えたと思います。顔見知りの方も増えてきましたし、ゆうせい薬局にきたら安心だと分かってくれているんでしょうね。「すごく安心だ」とか、「こういう取り組みをしている薬局は他にない」ということはよく言っていただきました。
直接経営には貢献しませんが、こうした特徴的な取り組みが目立つことで、地域活動がしたいとか、外国人対応に関わりたいという薬剤師や事務、登録販売者が増えてきて、薬局運営として良い流れができていると思います。

TV電話で通訳さんと直接会話が可能

今後新たに進めていきたいことはありますか?

小西社長

弊社には勉強会やセミナーなどを開催できるホールや、調理室なども店舗の2階に設置しているので、その場所を薬の枠を超えてもっと地域のために活用していきたいなと思っています。今も外国人の子供を対象にした学習支援教室を週に1回ホールで開催していただいていますが、言葉とか文化を外国人・日本人共に理解し合える場所に開放して、外国人住民たちが気軽に集っていただける、そういう場所になったら嬉しいです。
どちらかというと、主催よりも支援に回る方が良いかなと。その方が、広がりがあるかなあとも思っています。彼・彼女らがやりたいことを応援して、健康だけじゃなくて生活のバックアップをしていけたらと思っています。というのも、外国人だと言葉の壁があるので、役所に書類を出さないといけないけど全くできないとか、生活的なことを本当に相談するところって、なかなかないと思うんですよ。そんなことを、薬局を経由してできるようになってくれて、そして薬・健康の相談はもちろんいつでもどうぞというような、そんな流れを作っていけたらと思っています。
来てくれる患者さん全員がどれだけ満足してもらえるか、ということを信念に、これからもたくさんのことに挑戦していきたいですね。

ありがとうございました。

取材協力:西淀川インターナショナルコミュニティ

学習支援教室の様子

医療機関向けガイドライン

対策は検討しているものの、どう着手したらいいのか……とお困りの薬局さん、まずは国や自治体などが公表しているガイドラインや対応マニュアルを参考にされるのはいかがでしょうか? 日本における外国人事情を改めて把握し、できることから少しずつ整備していくことで焦ることのないスマートな対応を目指しましょう。

❶ 在留外国人の数は10年間で20%以上(2008年末から2018年6月末)、訪日外国人旅行者の数は5年で3倍近く増加(2013年から2017年)。

❷ 診療トラブルを回避するために、外国人来店時は日本の医療保険制度にて主に公的医療保険・フリーアクセス・薬剤・診療費の支払い方法・日本における医療に関わる法令について説明することが推奨される。

❸ 必要なところから計画的に院内文章を多言語化、必要に応じてマニュアルの整備を。

訪日外国人旅行客数の推移

引用:厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」P10 図3 訪日外国人旅行客数の推移より
作図(2019年11月18日現在)

都道府県別在留外国人数の推移(2014年末と2018年6月末)

2014年末 2018年6月末 増減数 2014年末 2018年6月末 増減数
東京都 430,658 555,053 124,395 新潟県 13,475 15,810 2,335
愛知県 200,673 251,823 51,150 山梨県 13,990 15,739 1,749
大阪府 204,347 233,713 29,366 福井県 11,719 14,229 2,510
神奈川県 171,258 211,913 40,655 石川県 10,978 14,159 3,181
埼玉県 130,092 173,887 43,795 熊本県 10,079 14,154 4,075
千葉県 113,811 152,186 38,375 福島県 10,249 13,521 3,272
兵庫県 96,530 107,708 11,178 奈良県 11,081 12,187 1,106
静岡県 75,115 88,720 13,605 大分県 10,234 12,018 1,784
福岡県 57,696 73,876 16,180 香川県 8,946 11,805 2,859
茨城県 52,009 63,976 11,967 愛媛県 9,290 11,570 2,280
京都府 52,213 58,947 6,734 長崎県 8,295 10,003 1,708
群馬県 43,978 57,072 13,094 鹿児島県 6,733 9,546 2,813
岐阜県 45,024 52,124 7,100 島根県 5,988 8,561 2,573
三重県 42,897 50,074 7,177 山形県 6,131 6,993 862
広島県 39,842 49,678 9,836 岩手県 5,697 6,724 1,027
栃木県 32,178 41,220 9,042 和歌山県 5,934 6,490 556
長野県 30,748 35,637 4,889 宮崎県 4,414 6,043 1,629
北海道 23,534 32,943 9,409 佐賀県 4,401 5,892 1,491
滋賀県 24,295 28,530 4,235 徳島県 4,992 5,640 648
岡山県 21,270 26,092 4,822 青森県 4,041 5,368 1,327
宮城県 16,274 20,434 4,160 高知県 3,565 4,371 806
富山県 13,345 17,394 4,049 鳥取県 3,849 4,258 409
沖縄県 11,229 16,364 5,135 秋田県 3,622 3,901 279
山口県 13,219 15,833 2,614 未詳・不定 1,893 3,072 1,179

引用:厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」P9 表2 都道府県別在留外国人数の推移
(2014年末と2018年6月末)より作図(2019年11月18日現在)

都道府県別在留外国人数の推移(2014年末と2018年6月末)

分類1 分類2 書類名
受付 外来 診療申込書
選定療養費について
院外処方せんの説明
診療情報提供書
入院 入院申込書(兼誓約書)
入院歴の確認について
面会について
感染予防について
会計 高額療養費制度(限度額適用認定証)について
出産育児一時金の直接支払い制度の利用に関する説明書・合意書
概算医療費
医療費請求書
医療費領収書
問診票 内科 内科 問診票
呼吸器科 呼吸器内科 問診票
循環器科 循環器科 問診票
消化器科 消化器科 問診票
皮膚科 皮膚科 問診票
小児科 小児科 問診票
精神科 精神科 問診票
血管外科 血管外科 問診票
泌尿器科 泌尿器科 問診票
脳神経外科 脳神経外科 問診票
整形外科 整形外科 問診票
眼科 眼科 問診票
耳鼻咽喉科 耳鼻咽喉科 問診票
産婦人科 産婦人科 問診票
歯科 歯科 問診票
治療・手術・検査等 麻酔 麻酔 問診票
麻酔に関する説明書
輸血 輸血療法に関する説明書・同意書
輸血や血漿分画製剤投与拒否に関する説明書
手術 深部静脈血栓症と肺塞栓症予防のための説明書
入院 入院治療等の拒否確認書
CT検査 CT検査に関する説明書
造影CT検査 説明書
造影CT検査 問診票
検査 MRI検査 問診票
MRI検査に関する説明書
造影MRI検査問診票
造影剤を用いる MRI 検査に関する説明書
消化管内視鏡検査 上部消化管内視鏡検査の説明書
上部消化管内視鏡検査の問診と同意書
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)の問診票
上部消化管内視鏡検査の同意書
下部消化管内視鏡検査の説明書
下部消化管内視鏡検査と内視鏡治療についての説明書
大腸内視鏡検査を受けられる患者様へ
大腸内視鏡検査を受けられる方へ
大腸内視鏡検査の問診と同意書
大腸内視鏡検査の問診票
大腸内視鏡検査の同意書
感染症検査 感染症検査について
新生児スクリーニング 新生児マススクリーニングの説明書
新生児聴覚スクリーニングについて
尿素呼気試験 尿素呼気試験の説明
同意書 同意書(治療・検査等の汎用フォーム)

引用:厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」P57 表13 厚労省が提供している多言語
説明資料の一覧より作図(2019年11月18日現在)

例えば・・・・・・外国人対応マニュアル
(大阪府/石川県薬剤師会の場合)

引用:大阪府 薬局での外国人対応マニュアル (左)
引用:大阪府 薬局での外国人対応マニュアルB症状等の確認 スライド2ページ目(2019年11月18日現在)(中央)
引用:大阪府 薬局での外国人対応マニュアルCクスリの効能・効果 スライド2ページ目(2019年11月18日現在)(右)
引用:公益財団法人石川県薬剤師会 (右)
引用:公益財団法人石川県薬剤師会 外国語応対のためのツール集服薬説明シート(言語別)
内服 ●英語(2019年11月18日現在)(左)