第2回 株式会社ルーチェ 代表取締役
秋山 智史さん(東京都)
2004年 星薬科大学卒業
2005年11月 開業
- POINT
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- ・良い案件に出会うには、時間に余裕を持ちスピード感のある対応を。
- ・個人名義でしっかりと資本金準備を。キャッシュはとても大事!
- ・薬剤師の社会的信用は高め。独立開業にも挑戦しやすい。
まずは秋山さんのご経歴からからお伺いします。
星薬科大学を卒業後、大手調剤薬局に2年間勤務しました。結婚を機に年収アップを目指し、中小規模の薬局に転職し5年半勤めました。開局する前の6年間は、薬局の経営再建のコンサルタント業と薬剤師の採用・教育に携わっていました。
学生の頃から将来的に独立するというイメージをお持ちだったのでしょうか?
当時は思っていませんでした。薬剤師は普通の会社員よりも給料が良いくらいに思っていましたが、高い給料を維持するには、帰りが遅くなったり、休日であっても他店舗の欠員補充で行かなくてはいけなかったりと年々条件が悪くなるのを感じました。年齢を重ねると体も衰えてくるので、そのような環境でずっと働くことは難しいと思い、独立開局を目指すようになりましたね。
独立に際して、奥様の反応はいかがでしたか?
賛成してくれました。雇われの薬剤師で居続けることが、いかにリスクが大きいかを時間をかけて説明し、理解してもらえました。
2年前にユニヴから店舗を購入された経緯を教えてください。
店舗を持つことにこだわってはいませんでしたが、自分が開業支援をしたときに、「ご自身では店舗を持っていないのに、本当に経営ができるのですか」という声を頂きました。薬局の研修場みたいな場所を作ったほうが説得力があると思い、友人の紹介でユニヴさんを教えてもらい、相談させていただきました。
M&Aで薬局を購入、実際運営してみていかがですか?
当時は後発2で75%だったのですが、今は後発3で87%です。譲渡した直後は6~8%患者さんが減ると言われているところ、5%ぐらいで済みました。2年弱営業して、新規の定期患者は90人ほど増えました。実際に増え始めたのは3、4か月目からでした。
独立してからの最初の1か月はとても大変でした。紙薬歴から電子薬歴に移行する際は患者全員分を手入力しましたし、薬の卸業者さんと賃貸借契約を結び、電話回線、水道局、電力会社との契約、保健所申請など……気が遠くなるほど沢山の書類を準備しないといけませんでした。ですが、7割はリピートの患者さんなので、2か月目からはすっと楽になりました。自分を慕ってくれる患者さんがいることも、本当に有り難いと感じています。
金融機関への申請、融資などもあると、勤務最終日の翌日から独立なんてことはあり得ないですか?
非常にタイトなスケジュールになるので、現実的に難しいと思います。最低でも1か月はフリーにならないと最終的に自分がパニックになります。
私自身、仲介する立場としても、「明日から有給消化に入れるので良い案件をください」と言う人の方が紹介しやすいです。良い案件は、流星のように出てぱっと消えてしまいます。良い案件を掴みたいなら、スピード感を持って動ける気概でないと手に入りません。
薬局の利益を伸ばす秘訣はありますか?
認知していただくために、”こういうサービスをしている薬局ができました”ということを患者さんにアピールすることです。来局者にビラを配ることも効果的と思います。
また、他の薬局との差別化を図るために、クレジットカードと電子マネー端末はすぐに導入しました。平日休みに開業支援業と人材採用支援の仕事をしているため地域支援加算は取っていませんが、電話は転送されるようにしています。夜中や日曜・祝日にも対応していることで、患者さんの間で少しずつクチコミが広がったようです。最近は新患さんも多いですね。
経営者として現場に立つことに、前職との違いは何か感じられますか?
雇われる立場の頃は、当然全てが自分の利益になるわけではありませんでした。今は自分の会社なので、頑張ったら100%自分に還ってくるため、モチベーションが違います。働き方も自分で調整できるので、体も楽になりました。
独立を考えられている薬剤師さんへ。必要なことはどんなことでしょうか?
資本金の考え方を理解すること。奥様と自分のお金を足したものが資本金と考える人が多いですが、独立したい個人名義の口座で貯めておくことが大切です。
そして、間違っても家のローンの繰り上げ返済をしないこと。キャッシュが少なくなることは自分の社会的信用を落とします。奥様と同じ財布であれば、月々の生活費は奥様のパート代で賄うなど、自分の財布には手を付けないことです。キャッシュが金融機関からの信用を得ることを知らない人が多いと感じます。
独立に向いている、逆に向いていないと思う人物像があれば教えてください。
向いているのは資本金となるご自身名義の貯蓄をきちんと貯めていて、在宅の営業経験がある人です。私が過去開業支援をさせていただいたとある方は、営業力があり、開局から1週間以内にWebサイトも立ち上げられるスピード感もお持ちでした。経営学も独学で勉強されていて、法的知識はありませんでしたがそこをフォローさせていただければ間違いなく成長する方でしたので、一番良い薬局をご紹介しました。
反対に向かないのは、共同経営をしたがる自分のローリスクを中心に考える人です。経営が複数人になると諸々時間がかかりますし、モチベーションも低いと思います。店舗は増えても、給料は増えません。経営者は一人で良いと思います。
それから、最初から仲介料・のれん代の分割払いを持ちかける人や、妻と相談してきますと言う人。家族すら説得できない人は従業員を統べることはできません。
仲介業をされる立場として、これは困るということはありますか?
オーナーさんと相談して、日常風景を見てから決めたいという人ですね。調剤報酬、賃貸借契約、外観の3点で決めていただくことが通例なのに、隅々まで見たうえでやりませんと言われると、当然相手のオーナーさんは怒ります。当然こういった方には次回のご紹介はできません。
最後に、独立を目指す薬剤師さんへメッセージをお願いします。
経営はやりがいも大きいので、ぜひ冒険してほしいと思います。10年続く法人は3%と言われ、飲食業界に至っては3年以内につぶれる確率が70%という非常に激しい業界に比べ、10年以上続く薬局は多い。薬剤師は社会的地位が高く見られることも多いので、創業者支援機構からも融資を受けやすいです。無担保、無保証のローリスクで事業を始められるので、万が一のことがあってももう1回はやり直せる。こんな有り難い業界はなかなかありません。薬剤師資格を取ったなら、自分と自分の家族のために還元できる使い方ができたら本望と思います。